ひだまりの君へ
拝啓
こんな心地の良い日は、あなたの手を引いて歩いた日々を思い出します。あなたは道端に咲いたタンポポが好きで、スイカの香りのする草が好きで、捩花が好きで、アカツメクサが好きでしたね。あなたの好きなものと嫌いなもの、指折り数えていれば一日が終わるほどでしょう。
ひとつ、懐かしいお話をしましょうか。
あなたが生まれた日のことは、よく覚えています。
朝焼けの綺麗な日でした。タクシーの中で、町を照らす橙色の光に見惚れていました。ただその光が美しかった、それだけで、あなたの命が祝福されていると信じられたものです。あなたは愛されるために生まれてきたのだということに、私はいささかもためらいがありません。
あなたは、私の人生でまさに太陽のような存在でした。そんなことはないとあなたは言うかもしれません。
いいえ、いいえ。ここにいて思い返すのは、あなたのことばかりです。いつだって、あなたの笑顔は眩しいほどでした。あなたの声が、ぬくもりが、私の中から消えてしまわないように、思い出ばかりを抱いています。
元気にしていますか。そちらは近頃寒そうですが、風邪などひいていませんか。ご飯はちゃんと食べていますか。日々に楽しみはありますか。
あなたは四角四面過ぎるところがありましたね。それが良いところでもありますが、枷になってしまうのではと心配でなりません。
どうにも息が苦しくなったときは、思い出してください。あなたは愛されているということを。
あなたは、あたたかいひだまりのなかで、いっぱいの愛を受け止めるために生まれてきたということを。
夏には逢いに行きますから、どうか、あなたの良い人を紹介してください。
あなたの母になれて幸せでした。
どうか、生きてください。
敬具
最愛の娘へ 母より




