表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/100

しゃぼんだま

拝啓

 こちらは毎日寒い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。私は変わりなく、以前からの恋人と過ごしています。ついぞ彼氏の不満など言ったことがありませんでしたが、今日は、お母さんに私の彼氏の話をいたします。

 私の彼氏は空気が読めません。

 私は昔から、生真面目だせっかちだと言われておりましたが、彼氏は十人が十人、おっとりしていると言います。

 おっとりしているのは事実なのですが、それより、私は彼氏が空気が読めないことが気になって仕方がありません。

 仕事から帰ってきて、ああ疲れた、もう眠ってしまおうと思うと、いつも出さないような大声で私を呼び出して、何だと思えば、何でもないよ、と笑うのです。私はすっかり目が冴えてしまって、そのまま、彼氏が狩ってきたケーキを冷蔵庫にしまい込んで、布団に潜り込むのです。

 お母さんに会いにゆこうとい準備をしていると、どこかへ出かけたかと思えば、大きな塊肉など買ってきて、明日の夕飯にしようとのたまいます。ふたりで肉の仕込みをさせられて、会いにゆく機会を逃してしまいました。

 あげく、私が料理が好きでないのはお母さんも知るところでしょうが、冷蔵庫にぎりぎり入るくらいのぬか床を作り始めて、何を漬けようかなどと聞いてくるのですから、呆れてしまいます。


 つい昨日も、ようやくお母さんに会いにゆく準備を整えたところ、いつの間にか後ろにいて、


「それ、明日でもよくない?」


 などと言いました。

 こんな無神経な物言いをされれば、平常の私は怒るのですが、後ろから抱きしめられてしまい、そんな気持ちも萎えて、彼氏と一緒に片付けをしました。

 こんな調子ですから、もうしばらくは、会いにゆけないかと思います。


 先ほど彼氏の実家から、冬の野菜と、私宛の着物が一着届きました。彼氏のお姉さんのお古を直したそうで、夏に着られる浴衣です。夏にいらっしゃい、きっとあなたに似合うでしょう、と一筆も添えてありました。

 夏まで生きてみようと思います。


敬具

天国のお母さんへ                            娘より

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ