第70項「幼馴染の父親と2人サシで話す~後編~」
「それでさ、前に丈瑠とも話していたんだけどさ、トシってさ、もう丈瑠の恋愛サポートの任は高校卒業した時に解かれたんだからさ、大学もあと半年すぎくらいで終わるけどさ、恋人とかもしくは誰か気になっている人とか居ないの?」
俺は丈瑠と高校も同じ所に通っていた。
丈瑠は高校に入学してから卒業するまで何度も学年問わず数多くの女性に告白されていた。
丈瑠の恋愛サポートと言うのは、高校に入学して最初に告白で呼び出された時に丈瑠が”一緒に来て欲しい”と言われた。理由としては俺が近くに居れば安心できるとのことだった。それ以降彼が告白されるたびに俺は告白する人には見つからないように離れた場所で待機して見守る事が多かったのだ。
クラスも3年間同じだったので、学校生活においてほぼすべてを丈瑠と一緒に過ごしていた。
その為か、丈瑠を好きになる人から何度もラブレターを渡すように頼まれたりしたことがある。それにさっきも健さんが話題にしていたバレンタインデーの時とかも俺は誰からもらうことは無くいつも丈瑠が貰ってきたチョコを家まで運ぶ作業に付き合わされていた。
そんな話はもう3年半以上も前の事だ。
高校を卒業して同じ大学に行く事になったけど志望した学部はそれぞれ違うので高校よりは絡むことは少なくなった。
「丈瑠の恋愛サポートは今思い出すと本当に大変でしたね…。そうですね。恋人も気になっている人なんて居ませんよ。日々仕事で忙しいので恋愛は全く縁が無い言葉ですね」
まあ、日々の生活から周りの友人というか幼馴染による恋愛事情に巻き込まれていたから俺もまるでそれが自分事であったかのように吸収してしまったので高校を卒業する時にはお腹が一杯になっていて恋愛とか当分どうでも良いと思っていた。
それに俺は彼ほどイケメンでも勉強ができるわけでもないし性格も明るく無い。
なので恋愛なんて俺には関係ない話だと思っていた。
そして今も思っている。
「トシ、おまえなぁ、それはもったいない考えだと思うぞ。恋愛は一度経験しておくべきだと思う。それに恋愛というか恋人が居る人の方が仕事もできる人になりやすいという話もあるしなぁ」
俺は健さんの熱い恋愛論を聞く。
健さんがここまで俺と話す時に熱くなる姿は長い付き合いがある中で今回が初めてかもしれない…。
でもさ、その恋人が居る人は仕事ができるという方程式って顔が良いイケメンか美人な人だけに限られるんじゃね?
俺はそう思ってしまう。…というか思っている。
陰キャな俺がどんだけ頑張ったとしても無理だろ…。うん。むり…。
「おまえ、俺には絶対無理だと思っているだろ?このままだとおまえ生涯独身生活になってしまうぞ?そんなんじゃ人生が暗いぞ」
「人間一人では生きていけない動物なんだから、せめて時間があるうちに恋愛に慣れる必要があると思うよ。丈瑠も言っていたけどあいつは大学生活を全く楽しんでいないし恋愛においても高校時代と変わらず疎いままだしかなりやばいぞ、って言っていたしなぁ」
いま、思ったけど、この人俺の親以上にけっこう言ってくる。
まあ俺の家の人は母さん以外恋愛に重要視している人が少ないんだよなぁ。遺伝何だろう…。
「まあ、健さんや丈瑠が言いたいことが分かりますけど…。仕事と勉強と就活でかなりスケジュールが難しいので仮に恋人ができたとして休日にデートに行くとかする時間なんて1ミリも無いですよ」
「それに、その状況になったら相手にも失礼じゃないですか。恋人になったのに放課後に出かけたりできなかったらすぐに破局ですよ。いま話しているのはどれも聞いた情報ですけど」
「まぁ、トシが忙しいのは俺も厳や悠梨さんから聞いているから理解はできる。じゃあさ、少し聞き方を変えよう。好みのタイプとかないのかい?」
「う~ん…。自分と価値観が合うかとかですかね」
俺はしばらく考えて言う。
「価値観というのは具体的に言うと?」
「健さんもご存知だと思いますけど、昔からアニメやラノベが好きなのでそういう趣味を認めてくれる人が望ましいですね。さらに言えばそれらが共通の趣味だとなお良いですね…」
アニメ、ラノベ禁止だったら例えその他の部分で好きになったとしても長続きは絶対しないと思う。
てか、その前に付き合うところまでに発展しないだろう…。
「おお、意外と考えているね。他にはある?」
「あとは、最低限3食のご飯が作れる人が良いですね」
「3食ご飯を作ってくれる人って。もう結婚の条件じゃん!トシらしい回答だけどなぁ。全然無いのかと思っていたけど意外とトシの考えを訊けて安心した。まだ末期の状態ではないな。間に合う気がしてきた」
最低限3色のご飯が作れる人で聖奈だけでなく健さんにも笑われるとは思わなかった。
俺の回答間違っていたのかな…。最後は何を言っているのか分からなかったが、まあよいか…。
「他に外見で好みとかある?例えば髪色、髪型、身長とか体型とかさ」
「そうですね、髪色、髪型はその人に似合えば良いと思います。身長は標準レベルで体型は痩せている人が好みなのかなぁ。あまり考えたこと無いですね」
「う~ん、トシが言った条件というか重要だと考えている点に当てはまる人が居るには居るなぁ。」
「はぁあ?」
適当に相づちを打つくらいしかない。誰だろ…。
俺が知っている女性なんて居ないけどなぁ。
「完全に当てはまるかどうか分からないけどさ、例えば新島先生とかどうよ?」
「え、新島先生ですか…。」
俺は少し困惑する。
「そうだよ、彼女が料理できるかは訊かないと分からんけど、いまトシが言った髪型、髪色、体型、身長は大体当てはまっているんじゃないか?」
俺は新島先生(華南さん)を思い浮かべる。
身長はたぶん160㎝は無いな。体型は痩せている。髪色は黒で髪型はロングヘアーだな。
「言われてみれば当てはまっていますね。でも先生とはあくまでビジネスパートナーの関係ですよ」
「さと美から聞いたけど、大学での登下校や授業も同じ科目を履修しているんだろ?それに仕事のサポートや現場までのボディーガードもやっていてトシにとっては1日で最も一緒に居る時間が長い人だろ?」
「まぁ、そうですね…。」
「ずっと一緒に居て何か新島先生の事を意識したりしないのか?」
意識しないことはない…。
あの人は聖奈と同じくらいの美貌を持っている人だ。
ただ…。
「全く意識をしないと言えばウソになりますが、あくまで仕事での関係なので」
「でも一緒に居て楽しくないという事は無いんだろ?」
「まぁ、楽しくなかったらここまでスムーズに仕事はできていませんからね…。」
「ここで提案だが、トシの顔が新島先生の事を少しは気になっている様子だから、一度デートしてみたらどうかね?たぶん今は"好き"という感情が生まれてなくても試しにデートしたら、命に変えても守りたいと思うかもしれないよ」
「え、デート…ですか…。新島先生はこの業界では有名な作家さんじゃないですか?そんな人と恋愛関係になって世間的に叩かれたりしませんかね?」
「ああ、まぁ、その時は俺の力で何とかするわ」
いまこの人さらっと普通に怖いこと言ったよ。
「俺の息子の幼馴染と俺が今後担当する作品の作家さんの恋愛は応援はするよ。トシには良く家族ぐるみで世話になっているしなぁ」
「はあ。どうも…」
「たぶん急にデートに誘うのは仕事とかでスケジュールが埋まっていて難しいだろうから、6月末くらいまでに一枚レポートを書いてきてくれ。デートをする前と後とで変わったことを記入して出してくれ」
「あ、わかりました」
こうして俺が今まで関わってこなかった恋愛という扉を遂に開けてしまう事になったのだ。
2022年6月15日改訂済み




