第66項「カミングアウト」
いつもより長いです。
「これで、私達以外の客は全員この店内からは居なくなりましたね。あ、そうだ。まだ、注文していませんから注文しましょうよ」
聖奈は俺らにそう言った。
「え? うん」
首を横にかしげるが、女性らは何も無かったように話を進める。
「私は、このホットケーキとオレンジジュースにしようと思うんですけど、華南さんとおにいはどうしますか」
「ああ、そうだね。俺はアイスコーヒーにする。は、いや、新前は?」
「わ、わたしは、聖奈ちゃんと同じホットケーキとリンゴジュースにします」
「すいませ~ん。注文よいですか」
先ほど俺らの会話を聞いていたと思われる店員が俺らの机まで来て注文を受け付けてくれた。
「じゃあ、本題に入るね。さっきの義理の兄妹設定は完全にウソだからね」
おお、良かった。本当だったら今すぐ実家に帰って両親に確認する事になっていただろう。
「じゃあ、なんであんな感じで俺らを煽ったんだ?」
「だって、店内に他にも客が居たら、おにいがなんで華南さんと一緒に行動しているのかを聞いた際に他の人にも聞かれてしまう可能性があるじゃない?」
「た、たしかに…。それはそうだが…。もしかして最初から新前と俺が一緒にいる理由は分かっていたのか?」
「うん、そうだよ。私の推測だけど、華南さんはおにいにボディーガードを依頼するような人だから恐らくある特定の業界では有名人だと思ったからそれを聞こうと思って」
どうやら聖奈は最初から俺と華南さんが一緒に行動している理由を大まかには予想していて、その話を聞きたいと思っていたが、店内に客の数が多い事から俺を煽って恋愛関係の話に持っていくことで俺が悪いという方程式を店内全体に聞こえるように攪乱させることで周囲の男性客を刺激したわけだ。
この妹は、とんだ策士だな。
「じゃあ、し、華南さんも聖奈の考えが最初から分かっていて一緒に煽っていたわけ?」
「う~ん…。途中までは分かりませんでしたが、前に聖奈ちゃんとのメールのやり取りで兄妹について話したことがあるんです。義理の兄妹で血が繋がっていないことについて話し始めた時に周囲を見たら想像以上に客が多くて、もしかしたら聖奈ちゃんは大事な話をしたいのかなと思って煽りに乗ったんです」
「ただ、私も最初は聖奈ちゃんの考えを読めなかったんですけど、周囲の男性客がわざわざ先輩のもとに来て文句を言い散らしていたことから、最初から大事な話を聞かれないようにする為にわざと煽ったのかなと思ったわけです」
なるほど…。
華南さんも最初は分かっていなかったけど、会話が進むにつれて聖奈の俺に対する煽りには別の目的があると思い聖奈が生んだ波に乗ったわけか…。
「なるほど、女性陣2人はだから俺に恋愛関係の話をして"俺=最低クズ野郎"という構造を作ろうとして周囲の客を店外に故意に出したわけか…。頭は良いけど犠牲も多いからもう少し考えて欲しいなぁ…」
「実際煽って店の外に出すためにこの策を使ったのは事実だけど、決して全く意味がないわけではないんだよ?」
「え、どういうこと!?」
「だって、おにいとすれ違った時に華南さんと仲睦まじげに歩いていたから、妹は期待しちゃったんだよ。"年齢=恋人なし"の兄に遂に恋人ができたのかなって…」
年齢=恋人無しなのは事実だが。
「仕事の関係で仲良くしてもらっているだけだよ~。恋人居ないのは聖奈もじゃね?」
「私の恋人はおにいだよ。兄妹としてではなくて異性として」
GWに一緒に出掛けた時以来に聖奈の言葉から言われた。
聖奈の凄いところは他人がいる前でも好きな人にちゃんと"好き"と言えることだ。
全員が簡単にできるものではない。
まあ、兄妹であっても"嫌い"といった否定的に言われるよりは好意的に思ってくれるのは嬉しいが、義理ではなくて血縁関係がある兄妹だからな…。
まあ、俺らは兄妹なのでいつか聖奈と恋人になる人は幸せだろうな…。
美しい顔と微笑みで告白されたら世の男性はみんな胸キュンズーンだろう。
兄妹である俺もときめきかけそうになったのはここだけの話…。
店員さんが俺らの机に注文した品が並ぶ。
女性陣の前にはホットケーキが並ぶ。
ケーキの周りには綺麗にフルーツとクリームが盛り付けられていてとても美味しそうだ。
2人の美人さんはスイーツを頬張る。
俺はコーヒーを飲みながら少し落ち着く。
店内にかかるBGMが心地よい。
「それで、おにいは華南さんとどういう契約を結んだの?華南さんはボディーガードを依頼するくらいの凄い人という事はどういう業界の人で何をやっている人なの?」
「これは俺の一存では聖奈に話せないなぁ。華南さん、聖奈に伝えても良いのかな」
「う~ん…。普通は契約情報を話すことは微妙ですが、聖奈ちゃんは先輩の妹さんであって全く赤の他人という訳では無いのとメールで頻繁にやり取りしていて、妹ができたみたいで楽しいから話しても問題ないと思っていますがどうしましょうか?」
妹ができたって華南さん。舞美さんが妹であること忘れているだろ…。
彼女たちの場合双子の姉妹だからあまり姉妹という認識が薄いのかな…。
「華南さんが良いなら僕は構わないよ…」
「分かりました。実は、私は大学生である傍ら小説家として活動しています。」
「え?小説家?すごい!どういったジャンルの物を書いているんですか?」
「ライトノベルです。書き始めたのは高校2年生くらいからです」
「そうなんですか!!代表作を差し支えなければ教えてもらっても良いですか?」
「知っているか分かりまでんが、"昨日別れたはずの生徒会長である彼女が翌日から自分の家族の妹になった件"という作品です」
聖奈は絶対知っています。
先生のラジオ番組を毎週聞き、イベントにも積極的に参加して居る熱狂的なファンだからです。
「え、ええええ?知っていますよ。GWに大宮スカイビルで開催されたイベントに行きましたよ~~。凄い、自分の推しの作家さんがこんな身近にいたなんて。驚きすぎて情報処理が追いつかない。新島みなみ先生は華南さんのことだったんですね?いやぁ、びっくり仰天です」
聖奈は華南さんが話を初めて真実を知ってから興奮しっぱなしの状態だ。
「私も聖奈ちゃんがここまで喜んでくれてとても嬉しいわ。このことは公では発表していないから口外しないことを約束してね!」
「うん、絶対約束するし、ファンにとって当たり前だよ」
こうして俺らは集合時刻が近くなってきたので会計をして店を出た。
会計をする時に店員が「お付き合いするならどちらか一人に絞った方が良いと思いますよ」、と聖奈と華南さんを一瞬見てそう言ってきた。
もうそのネタは終わっているから、掘り起こさないでくれと思った。
それに一人は血縁関係だからそもそも物理的に付き合う事も出来ないけどな!




