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第53項「居酒屋までの移動⑤」

いつもより短めです。

もう空は暗くなっていて、街灯が点くようになる時間だ。


さと美さんと新島先生と俺は、新宿駅まで出る事にした。


さと美さんが若い時からの行きつけの居酒屋が新宿にあるらしい。


地下鉄の車内は帰りのラッシュ時間帯と重なり大変混雑していて、普段あまり都心の電車に乗ることが少ない俺は乗車人数の多さに驚く。


しかし、新前やさと美さんは全然気にしているようではない。慣れたように吊革を掴む。


「新島先生は、いつもこの時間帯の電車で帰るんですか?」


「そうですね、最初は地下鉄の路線の種類が多くてこれだと思って乗った列車が自分の家とは逆の方面に行ったり、あとは、乗った列車が地下鉄線完結の電車ではなくて、私鉄に乗り入れてしまう電車で山の方まで行ってしまったりしたこともありました。」


まじかよ。山の方って…。たぶん、乗車運賃半端なかっただろうな…。


まあ、俺も高校まで電車に乗ることが無かったからなあ。高校入学した時は、下校する時に高校の最寄駅で東北線に乗ろうと思って乗ったらその列車は実は高崎線に直通してしかも特別快速の列車で高崎方面まで行ってしまった事みたいな事があった。


なので、上手く電車に乗ることは慣れでしかないと思う。


結局この東北線・高崎線乗り間違え問題に関しては番線で行先が区別されている事が後日分かった。ただ、一番奥の方にある番線から発車する列車だけは、行先が時間によってバラバラなのでその時はその度に確認が必要であることが分かった。


「まあ、東京の電車は本当に自分が降りたい駅を通る電車かよく確認した方が良いんだよな。俺も似たような経験したこと分かるから。そんなに気にする事は無いと思うよ。」


「そうですね。まあ私も時が経てば慣れると思います。」


電車は、新宿駅に着いた。

自分の後ろの方から客の重圧によりホームへ何とか降りる。

サラリーマンやOL、学生の疲れた顔が目立つ。


俺らはさと美さんの後ろを歩いて行く。


地上に上がり街を闊歩する。


「それで、さと美さんの行きつけの店ってここからどこにあるんですか?」


「駅出てすぐの所だから、ここから徒歩で3分くらいだよ。と言うかほとんど駅の敷地の中にあるようなもんだよ。」


俺らは、彼女の背中の後ろを歩いて行く。


「そういえば、新島先生は、お酒好きなんですか?」


「う~ん、外では飲みますが、家ではあまり飲まないですね。舞美が一滴も飲めないので。私だけ一人飲んでいるのも悪いので家飲みはしないんですよ。たまに仕事終わりにさと美さんと金曜日に飲みに行くくらいですね。まあ、私も高島さんと同じように量は飲めないから安心してください。」


「なるほど、分かった。もし、めっちゃ飲む人で帰りに歩けないほど酔ったりしたらどうやって連れて帰ろうかと一瞬心配したから聞いた。」


「俊明君、そういう時でもお持ち帰りとかしないでちゃんと家まで一緒に行ってあげるんだよ。」


この人いきなり何言っているんだろう?

一瞬思考が停止した。

とりあえずすぐ答えよう。


「好きな作家さんを困らせるような事は彼女の作品のファンの一人として絶対できませんよ。そんなことは…。てか、お持ち帰りなんてさと美さんいきなりよろしくない事言わないでくださいよ~~。」


「どうよろしくないのか、言ってみ?俊明君。私はお酒に酔った少し普段とは違う先生の姿を見て少し弱っているからわんちゃん行けるんじゃね?っと思うのは編集部の先生の担当の人としても普通の社会人としてもそんな過ちを未然に防ぎたいんだから。」


この人ただ俺をからかっているのか説教しているのかわからんな。


なんか、この言い方だと俺が日頃から隙間に漬け込んで怪しい事をやっているみたいな言い方だからやめて欲しいんだけどな…。


「私は、先生と契約した通り勤務中は全力で彼女を守りますよ。それが仕事なんですから。」


「おお、良く言った。その調子で頑張ってね!!あそこよ。私が行きつけの店は。」


さと美さんが指を指して教えてくれた。

やっと夕飯にありつける。


「でもお持ち帰りできないというのは高島さんにとって私は魅力ないと言うのですか?」


これでこの話は終わったはずなのに、自分から更に深く追及してきたよ。


この人こういうところ少しめんどくさいな…。


「そんなことはありませんよ。先生は良い作品を作れてかつ容姿端麗じゃないですか?それに先生と大学を歩いている時周囲の男子はみんな先生に目を奪われているくらいだからもっと自分に自信持って良いと思いますよ。」


「あ、そう…ですか…。」


なんか、彼女が望んでいる解答と俺の回答は少し違うようだ。

どうしよう、今回は放置してどうなるか様子見よう。


俺らは店の前に着いた。

かなり年季が入った店だ。


「よし、じゃあ新島先生も知らない俊明君の昔話を酒の肴にしながらお喋りしましょうか」


「いいですね。是非聞かせてください。」


「ええ、さと美さん余計なこと言わないでくださいよ〜。」


「どうしようかな〜〜。」


この人笑顔のままのれんをくぐっていった。


この場所でさと美さんと新島先生に振り回されながら更に深い話が始まる気がした。


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