第139項「花火大会編 新前華南side㉖」
空一面に拡がる暗い色のキャンバスの上にこれから大きな花々が咲き誇る様子を見るために私と先輩は彩梨さんに教えてもらったこの周囲360度を見渡す事か可能な見晴台公園の側の風車の上のあまり広いとは言えない所までやってきた。
今日、健さんの仕事場の会議室で来年1月に公開のアニメ化に向けて、夏の仕事のスケジュールの改訂版が配布された。
健さんが言うには、丈瑠さんに最初に配布した仕事のスケジュールでは学生最後の夏休みとして休める日が少なすぎだろと一言言われたらしい。
それに対して健さんもその疑問に納得してくれたみたいで、仕事日と休日を明確に分けたメリハリのあるスケジュールに調整された物が新たに私達の元に配布されたのだ。
私は好きでこの仕事をやっているのだから、最初に渡されたスケジュールを貰った時も確かに連日仕事でなかなか苦しい物だなとは思ったが、自分の人生をかけて何としてもアニメ化に向けて頑張ろうと思っていたから、典型的な大学生のように休暇が少なくても不満は無かったといったら嘘になってしまうが、多方面で高久家にはお世話になっているからそんな感情を溢せなかった。
だから、改訂版のスケジュールが渡された時は既に配布された物より休日が多くて何かの間違いかとも思った。
でも同時に先輩の仕事の方と上手く日程が合わせる事が出来れば前々からぼんやりと考えていた先輩とどっか思い切って出掛けに行くこともできるかもなと思った。
だから、丈瑠さんが休日増加案を健さんに提案してくれたことに本当に感謝しているし先輩との幼馴染だったからそれが実現できたのかなと思い先輩にも同時に感謝したいなと思った。
そして、更に渡された改訂版のスケジュールを見て驚いた事として、今日の日付の横の仕事内容を見たら”遊び”と書かれていて、どういうことなのか気になった。
これについて質問しようと思った際に、先輩が健さんにこのことについて聞いたら、どうやらこの地域で毎年開催されている花火大会があるみたいだった。
私は打ち上げ花火を見たことは無かった。
小・中・高校と夏休みは基本的に外に出ることは無く家に籠って読書するか、宿題をやるかで高校生の時はそれらをこなすのと同時に小説を書き始めていたかなあ。
それに自分が住んでいた場所の近くに花火大会のような大きなイベントは無くて地区の神社のお祭りとかは毎年開催されていたみたいだが、そもそも友人がほとんどいない私はわざわざそこに参加する必要性は感じられず一度も行くこと無く東京に来てしまった…。
一度くらいは経験として、地元の事を少しでも知るためにもそれに参加しても良かったのかなぁと後悔の念を持つ事も上京してから覚える事もあった。
だけど、今日人生で初めてそのお祭りと花火大会を同時に東京で知り合ってここ何ヶ月かで時間を過ごす日が多く自身の中でもその人に対して好意を持ち始めつつある男性と楽しむことが出来て大げさかもしれないけど、お墓に行くまで決して忘れることは無い夏の恋の思い出になることは間違いないはずだ。
花火大会の会場に行く際に私的には普段の私服で先輩と一緒に出掛けるのでも充分楽しいだろうと思ったが、突然会議室に現れた聖奈ちゃんに理由を聞こうとしてもむりやり腕を引っ張られて先輩を置いて聖奈ちゃんの部屋に連れてかれた。
聖奈ちゃんが健さんの仕事部屋に自由に行き来できるのは少し問題な気もしたが、健さんが自由に入ってよい事を許可しているのは、先輩の家と高久家が長年に渡る幼馴染で家が隣同士であるからなのかなと納得した。
聖奈ちゃんの部屋に通され既に準備がされていた浴衣に袖を通す。
「突然連れてきてごめんなさい。華南さん。でもこれは華南さんとおにぃとの花火デートを成功させて華南さんの方から告白して2人が付き合っている姿を私は妹として見たいから、そのサポートをするね?」
そう言われたが、告白はこの夏の間にするつもりだったから、予定が少し早まったと思えば良いと自分に言い聞かせ、先輩との恋の支えをしてもらって感謝している事を彼女にも伝える。
聖奈ちゃんはメールとかでもやり取りを普段からしている間柄だから何か理由があってこの部屋に私を連れてきたのであろうとはなんとなく感じていた。
だから、そこまで嫌な気持ちに陥ることは無かったし、彼女も私が先輩の事を好きであることを知っているので、何としてでも繋がってほしいという気持ちが妹としてあったのかなと考えられる。
でも聖奈ちゃんも先輩とは兄妹の関係ではあるが、一人の男性として好意を抱いていると前に漏らしていたから何か横から奪うようで申し訳ない気持ちも生まれたが先輩を好きだという気持ちは負けないので、妥協することは無い。
浴衣の着付け方を知らない私に聖奈ちゃんに一つ一つ説明をしてもらいながら私服から浴衣姿に変身した。
浴衣の生地は紫色をベースに桃色のラインカラーがデザインされた少し大人の女性への階段の上に居るような雰囲気をまとわせることができるような色使いで初めて見るようなタイプだった。
この浴衣は聖奈ちゃんが持っている複数個の浴衣のうちの1つを貸してもらったという事になる。
その後、浴衣の着付けと髪に普段は付けることは無い髪飾りを載せて私の和装姿を先輩に公開してみたら、聖奈ちゃんがその場に居たから恥ずかして言葉に出すのをためらっていあたが、聖奈ちゃんが気を聞かせてくれて私達2人にしてくれた後に、先輩は前回の二子玉川に出掛けた時よりも更にほめちぎってくれて先輩に褒められると私の中にある心の容器が満杯に達するのが分かった気がした。
そしてさっきまで出店で購入した商品を夜空の下で先輩の隣で食べる。
先輩の近くで食事をすることは何度もあったけど、夏の夜の涼しい風とこれから始まる打ち上げ花火に大きな期待を抱いて更に先輩との距離を縮めて過ごす時間も良いと思った。
私は、今、先輩の手を握りその手に引っ張られながらその前に会った彩梨さんに教えてもらった見晴台公園の側の風車の上に立っていた。
耳から入ってくる花火打上開始時間を教える放送がこの会場を覆い私は恐らく映像以外では初めて見るキャンバスに描き出される花々への期待とこれから隣で私と同じようにそれらを待つ隣に居る先輩に告白して気持ちを伝えるんだという決心を抱えながらも少し緊張しているのが自分の手が震えていることから分かった。
告白は絶対成就するとは限らないし失敗に終わるかもしれないけど、この人に”好き”という気持ちを今日伝えてやるんだと”私は行くぞ。”と一呼吸を置いて望むのであった。




