第137項「花火大会編⑥」
今まででの項で一番執筆に時間がかかりました。
「先輩、花火綺麗ですね?」
「ああ。綺麗だな。前々からこの会場で見ていた花火は屋台とか並ぶところから見ていてそれでも十分綺麗に見えていたんだけど、この風車の見晴台から花火を大きく感じる事ができるなんて知らなかった~。」
俺らは、次々と花火が打ち上がっていく様を食い入るように見る。
「この場所を教えてくれた彩乃さんには本当に感謝です…。」
そうだな…。宮山だけでは無くて丈瑠も含めてあの2人には本当に感謝だな…。
「せんぱい。既に夏休みが始まって1週間以上経過していますけど、この1学期はいかがでしたか?大学とか、仕事面とか…。」
「う~ん、勉強面に関しては華南さんが今苦しんでいるように卒業に必要な単位は取得済みだから特に言う事は無いけど、仕事面は本当に大きく変わった気がする…。」
「私が勉強面で苦しんでいる事は事実ですけど、その話は今は置いておいて仕事面が大きく変わったというのは具体的にどういうことですか…?」
打ち上がる花火の音と華南さんの質問の両方に耳を傾ける。
「俺が大学に通いながらディーガードを始めたのは大学2年の時だけど、今までは短期の限られた期間にボディーガードをやってほしいという依頼が多かったから華南さんのような長期間に渡る仕事の依頼を受注したことが無かったからそういった長期案件を受けた事が大きく変化したことかなぁ…。」
つまり、華南さんが初めての長期契約者になる訳だな…。
「それは知らなかったです。じゃあ私が初めての長期期間に渡る仕事の依頼をして契約を結んだ第一人者なんですね…。他にありますか?」
その初めての部分を強調したことに意味があるかはもう突っ込みません。
因みに第二人者は舞美さんだけどな…。
「そうだな。最初の出会いが4月の授業が始まる朝に大学の正門前でぶつかって翌週に履修している授業が同じであることが発覚したのは驚きだよね。しかもその授業の席も隣同士で授業後に華南さんの方から自分が作家デビューをする為に上京してきて、しかも俺の推しの作家さんだって教えてくれた。出会えたのは自分の数少ない知り合いの中で一番嬉しかったなぁ。」
推しの作家さんに遭遇しさらにその人から仕事の依頼をされることになるとは俺も今でも夢を見ているのではないかと錯覚する時もある。
「それは私にも言える事ですね…。大学の授業が始まる日に正門でぶつかった人がまさか授業、仕事、プライベートと多くの場面で一緒に過ごす事になるとは思いませんでしたね。でも先輩に出会えたことは私にとって大きな財産になりました。」
「大きな財産というのは具体的に言うと?」
「そうですね…。一言で言うのは難しいんですけど、私は今まで男性と話したりするのが得意では無かったので一番最初に授業で先輩と隣同士になった時はすごく緊張したんですよね?それに先輩はあの時はまだ前髪が長くて話しかけるのが怖かったんですよ?でも2人一組で授業の課題に取り組むとなった時に先輩が私が答えやすいようにしてくれたので、それから先輩になら私の話を聞いてくれそうだなと思ったんですよね。」
「良くあの酷い見た目だった時の俺になら話をしても大丈夫だと思ったな…。俺が逆の立場だったら絶対そんな人に声をかけないけどな。」
「あの時、授業後に先輩に話をしたのは、舞美以外に大学に知り合いが居なかったので先輩に声をかけたというのはありますね。でも昼ご飯を食べるために食堂に誘った時に自分でも作家をやっている事を他の人に話すことになるとは思いませんでしたけど、それがきっかけでいつの間にかボディーガードを依頼してそしてさらにアシスタントマネージャーまでやってもらう事になるなんて本当この短い月日の中でここまで先輩と一緒に過ごす事になるとは思わなかったですよ。」
「そうだな。一つ聞きたいのだが、俺は華南さんのボディーガード兼アシマネとして上手くできているのかな?」
「はい。十分すぎるくらいですよ。先輩が無ければここまで私の仕事とか大学、プライベートは充実しなかったですよ。」
「そういう評価を聞くのはなんだかんだ言って初めてだから、そう言ってもらえて素直に嬉しいわ。」
「先輩の存在は私の中では本当に大きいですよ。それにプライベートに関しては6月の初旬くらいに一緒に出掛けたあの日も本当に楽しかったです。私は今まで男性とどこかに出掛けるという経験は無かったので凄い緊張したんですよ…。」
「俺も女性とどこかに出掛けるとか華南さんが初めてだったからあの日に出掛けた経験は斬新だったし本当に楽しかったから感謝しているよ。」
「でも先輩には聖奈ちゃんが居るから出掛けるくらいはしていたんじゃないですか?」
「妹と出掛けたのも華南さん、いや新島先生のイベントが大宮で開催された時に兄妹で出掛けたのが初めてだよ。」
「あ、それって今年の話じゃないですか?先輩も少しずつですが成長したんですね?」
「俺をからかうな?人間は生きていれば昨日の自分より成長しているもんだろ?」
「なんか、名言っぽいこと言いましたけど、スルーしますね?じゃあ、先輩?さっき健さんに渡された夏休みの仕事の予定表に1週間くらい休みがあるじゃないですか?」
名言ではないかもしれませんけど、俺なりに良いこと言ったんだから少し触れてくれよ。後輩よ。
「ああ。なんか珍しく1週間に渡る休日を見た気がするもん。」
「それで、その1週間のうちの何日かを私に頂けないですか?」
「つまりどういう事?」
「私は先輩と旅行に行きたいんです。」
「旅行?それは次の作品を書くための調査旅行という感じ?それとも完全なプライベートという事?」
「鋭いですね~~。半分は調査というか次作を書く際に参考にしたい場所が幾つかあるので、普段より時間がある夏休みのうちに行っておきたいんですよ。」
「なるほど。そこに俺も行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思いますけど?何か不安なことあるんですか?」
「う~ん。男女で旅行するというのはどうなんだろうという世間的な疑問だなぁ。あとは、新島先生は世の中的には今注目の人気作家だし?」
「大丈夫ですよ。最悪何か不都合な事が起きたとしても私は先輩と一緒にその旅行に行けるのであれば全然問題無いですよ。」
「華南さんが良いならそれでも良いけどさ。」
「一応確認ですけど、先輩は私との旅行に行くとなったら一緒に行ってくれますか?」
「そこまで言われたら否定できないのは華南さんも知っているだろ?それに俺は新島先生のボディーガード兼アシマネだからな?そこに一人で行かせるのは正直言って心配だからな。」
「じゃぁ、同伴してくれるんですね?」
「ああ。ただ、1週間丸々は無理だからせめて2日、多くて3日くらいなら旅行に出るのは可能だと思う。」
「先輩?私が今話した事が日帰り旅行だとはなんで思わなかったんですか?」
「ええ、どこを次作の舞台の参考にする場所のかは分からんけど、複数個あるのであれば日帰りは無理なんじゃね?ていうか、華南さんも元から日帰りでいくのは無理だと思って居たけど何日間行くかは最初に話さなかったから俺を試すというかからかう為に言ったのかなと思ったけど?」
「私の思考の底を付いてくる当たりがさすがですね。私もこの提案をした時点で日帰りで行くのは無理なことは承知ですよ?ただ、私がその行く期間を言わなかったら先輩がどう反応を示すのか、一緒に言ってくれるのか試してみたかったんですよ?」
「それを試した理由は聞いて良いのかな?」
「知りたいですか?熱々な内容ですけど、それを先輩に今から説明するのは中々恥ずかしいんですけど?」
「話せないなら俺が行くのをやめても良いかね?」
「ええ~?それは勘弁してくださいよ~?分かりました。言います。言います。先輩が来てくれないと私も困りますので…。」
俺が居ないと困るというのはどういう事だろ…?
「ほう。」
「せ、先輩に一緒に旅行に行くのを誘った理由は.......。」
華南さんは、俺が立っている場所に近づき服装の袖を持つ。
「その理由は?」
「私は先輩の事が…。」
かなり恥ずかしそうに言い始める。
「溜めるね~~?はっきり言えば良いのに?」
けして煽っている訳ではないよ。
「これから私が言う事をよく聞いてくださいよ?一度しか言いませんから?」
”うん”と頷く。
「”好き”だからです。」
「え?」
「何度も女の子に恥ずかしい事を言わせないでくださいよ?だから、せ、先輩の事をただのアシマネとしてだけでは無くて異性として一人の男性として好きだからです。」
俺は一度目では聞き取れなかった2文字の言葉が俺の脳の中にすぅ~と入ってくるのが何となく分かった気がした。
「そ、そうか…。いや、今までの人生で異性に好きだと言ってもらえたことは無かったから少し驚いている…。で、でも何を理由に俺の事を好きになったのは聞いても良いのかな?」
「そ、そうですね…。一言で言うのは難しいですけど、大学でも仕事でもいつも先の事を予想して行動していて何かあったら冷静に解決してくれるところですかね?簡潔には先輩の事が好きだという気持ちは述べられ無いですね…。」
「うん。華南さんが言いたいことは分かった…。」
長年、丈瑠が指定された告白場所まで側に付いてきて欲しいというから、人が相手に気持ちを伝える現場なんか見飽きるほど遭遇してきたけど、ただ傍観していたあの時とは違って、告白されるというのは全然違う体験なんだなと今になって知った気がした。
「それで、もし良ければ恋人として付き合って頂けませんか?」
「すぐに返事をするのはさ、その~~…。難しいからさっき誘ってくれた旅行の時に返事をするのでも大丈夫かな?もっと早めに返事をした方が良いか?」
「いえ、自分の中でしっかり考えてくれてもらって大丈夫です。私も突然先輩に自分の気持ちを伝えたので、時間は与えますよ?でも時間をかけるのであれば悪い結果にならないことを願いますけどね?」
「ああ。なんとも言えないけど、全力で考えさせてもらうわ。」
「はい。回答をお待ちしています。じゃあ、この話は終わりです。たぶん時間的に次が最後の花火の打ち上げじゃないですかね?」
「ああ。最後だからかなり大きくて迫力があるのが打ちあがるのかもな?」
突然の会話の打ち切られたので俺は最後の花火が打ち上がる前だというのに、その告白が頭から離れない。
「ド~~~ン~~。ピカピカ~~」
この花火大会の会場のきっとどこからでも見えるくらいの大きくて輝かしい満開の花々を見ながら
華南さんに告白をされた今、俺はどう自分の気持ちの整理をするかそしてどう返事をするか次に華南さんと出掛けるまでの頭を抱える宿題が出来てしまったようだ。
ほのかに残る花火から出たであろう火薬のにおいが俺の鼻孔をくすぐり答えを導くために全力で思考するのであった。




