第136項「花火大会編⑤」
すいません。
まもなく花火の打ち上げが始まろうとしている中、華南さんに手をつないでほしいと言われる。
妹以外の女性から、こう言われた試しが過去に無いので緊張する時にはいつも現れる手汗による湿気で華南さんの左手が不信感(不審感?不快感?)を感じていないかすごく心配だ。
「華南さん?」
俺は、声をかけながらつないでいる手の方をちらっと見て、そこまで手汗は出ていないが、急に緊張している事は自分でもわかる。
「な、何でしょう…?」
「俺らが最初に来た時より明らかにこの会場に人が多く集まっていて混雑しているのと華南さんが普段とは異なる靴を履いているから足とか痛めていないかなという確認の為に聞いた…。」
緊張しているな…。俺…。
今までここまで緊張する事は無かったのに…。
やはり俺には異性の人と遊びで出かける事は難しいのかなぁ…。
「あ、そうですね…。右足の指先をさっき踏まれてしまってちょっと痛いので、見てもらっても良いですか…。すいません…。」
「り、了解…。そこのベンチに座ろっか~?」
「はい。先輩。でも、もうすぐ花火打ちあがりますよ?」
「あわてるな、いつでも冷静に。華南さんが足を痛めている状態で花火を見ても楽しくないだろ?大丈夫…。すぐに終わる。」
俺は胸ポケットの中にあるポケット懐中電灯を取り出し、彼女に言われた傷の部分をそれで照らしながら探す。
少し血が出ているのが分かったので、既に用意済みの簡単な消毒セットと絆創膏の準備をする。
「あのさ、血が出ているからさ、アルコール消毒した方が良いと思うんだけど靴下を少し脱いでもらっても良いかな。」
「あ、はい…。血が出ているんですね…。それってけっこう染みるやつですか?」
「どうだろうな…。できるだけ痛みを感じないように短時間で手当はするつもりだから、少し我慢してもらっても良い?もしアルコールが傷に染みて泣きそうになったら泣いても良いから…。」
華南さんも少し落ち着きがさっきより無くなっているのでここでからかってみる事にした。
「せ、先輩。私の事小さい子供みたいにバカにしているんですか?そんな脚の指を踏まれたことで消毒をする事になって傷にアルコールが染みるくらいで涙は流しませんよ?」
「分かっているよ。華南さんがアルコールが少し染みる事で泣くような女性ではないことは知っているから冗談だよ。じゃあ、すぐに済ませるから靴下を脱いでもらっても良い?」
「先輩、こう言う時に限って後輩をからかうのはやめてくださいよ?それとあまり脚をじろじろ見ないでくださいよ?恥ずかしいしそこまで綺麗じゃないんですからね?」
お祭り全体を照らす電灯の下でそう言って少しずつ白い靴下を脱ぎ、透明度抜群の女性らしい脚が姿を現す。
「いや、そんな謙遜しなくても充分綺麗だと思うよ。俺はむしろ好きだけど…。」
言った瞬間、余計な事を言ってしまったなぁと後悔する。
場合によっては怒られそうな気もしてきた。
「え、先輩って今日私の事を完全に照れさせるというかドキドキさせるつもりですか…。」
華南さんは浴衣の裾をおさえながら頬を染めて答える。
怒られることは無かったけど、華南さんの照れているところがある意味心臓に毒であった。
「え、そういう意識は無いけど…?」
別に普段の生活のようにアルコール消毒をして絆創膏を貼り付けて対処しているだけなんだけど、花火大会というハレの空間に晴れ姿の華南さんの側に居るからなのかいつもより緊張して傷口という焦点に絆創膏を上手に付けられずに苦闘する。
「普段から時々漏れる先輩の言動にドキドキする時もありますけど今日に限っては普段以上に無意識に私にときめかせてくるとか良い度胸ですね?先輩にいつも以上に言われて嬉しいのでモチのロンで許しますけど~。」
華南さんの顔は完全にデレデレしていて、ご機嫌良さそうなのが分かる。
この人のアシマネは大変だけど、俺はもしかしたら…。
「絆創膏までしてくれてありがとうございました。前から個人的に願っていた消毒イベントをしてくれたので私はすごく満足です!行きましょうか?先輩、先輩?ねえ?高島さん?」
そう言えば、遠い昔、俺がまだ10歳くらいの時にどこかに行った先で女の子が怪我をしていて今日みたいに消毒をしてあげた気がした事を急に思い出した。
今考えるとあの時の女の子に風貌とか顔立ちとか華南さんに似ている気がする…。
いや、気のせいか…。
なんであの時の事を急に思い出したんだろ…。
あ、俺の名前を呼んでいる声が聞こえる…。
声の主の方に顔を向けると華南さんが俺の名前を呼んでいた。
「ああ。悪い。華南さんの怪我を更に増やさないようにする為にも慌てずに風車の方に向かうとするか?」
人込みで離れ離れにならないようにする為にしっかり華南さんの手を握って彼女が歩きやすいスピードに遠慮して歩く。
花火大会の会場の入口まで戻り風車がある方に向かう。
ここから見た感じだと暗くて分からないが、風車周辺は人数はあまり居ないように見える。
「風車って普通海岸沿いやオランダとかに多くありますよね?わたし、風車なんて初めて見ましたよ~LED電灯で夜の空を映す風車も見ていて楽しいですけど、昼間の姿を見にいつか来てみたいですね?」
「俺は昼間の風車の方が見慣れているから夜の風車は違和感あるな。でもあそこから花火が見れるなんてこの辺に20年以上住んでいるのに今日初めて知ったわ。」
「ここまで歩いてきた際に目に入った木々は何の木なんですか?」
「桜の木だ。この辺って県内でも有数の桜並木が広がっていて3月の下旬から4月の初旬くらいになるとすごい綺麗なんだよなぁ。特に4月の初旬は菜の花も一斉に咲き始めるから桃色と黄色の花と風車が重なって良い写真とかも撮れるんだよ?」
「凄いですね!春を代表する花々をこんな身近で楽しめる場所があるなんて良いですね?来年の春とかに一緒に見に行きましょうよ?」
「そうだね。なんならお花見とかしても良いかもな?」
「良いですね~~!今から楽しみです!!」
俺らは風車に至る階段を上り始める。
だいぶ、つないでいる手から感じる緊張感は抜け普通に握りあう事ができているのが自分でも分かる。
「華南さん。足元暗いから気を付けて~!」
「はい。ありがとうございます。」
華南さんの返事をした瞬間に
「ピュ~~~」
と大きな火玉が夜空に大きく打ちあがって行く音が階段を駆け上がる俺らにも分かり進める歩が早くなる。
「せんぱい、間に合いましたね?花火の打ち上げまでに…。」
「ああ。ギリギリだったな…。」
「ド~~ン」
あまり広くは無いが地面よりははるかに大きく全体を見渡すことができる見晴台に足を置いた瞬間お、俺らの視界の先には色鮮やかな大小様々な大きさの花火が縦にも横にも拡がっていくのが分かる。
「せんぱい…。」
「ああ。ここに来て見たほうが圧倒的に花火の迫力と輝きを感じることができるな…。華南さん」
「先輩とこんなに綺麗な花火を見れるなんて私達が出会った時を思い出すと想像できませんでしたね…。」
「だな…。」
俺らは次々打ちあがる花火をまじまじと見ていたのだった。




