第135項「花火大会編④」
「お~い。トシ~、華南さ~ん。」
暑い群集の中から俺たちの事を呼ぶ美男子と俺が苦手とする無駄に美人な奴の恋人が俺らが座っている席の近くまでやってきた。
「よぉ~?トシ。久しぶりに地元の花火大会に幼馴染と自分の妹では無くて女子と来てみてどうだ?楽しいか?」
「やっほお~~、華南ちゃん。その浴衣超可愛いね~~!めっちゃ似合っているよ~。一緒に写真撮ろうよ?」
俺の返事を遮るように朱鷺色と藤色を基本的な色遣いとした浴衣に少し赤っぽい黄橙のリボンを髪に巻いている丈瑠の恋人である宮山彩乃が華南さんに話かける。
「彩乃さんの方こそ普段着こなしている服から可愛いのに更に可愛いさが増してすごく似合っていますよ?それにリボンで髪を巻くというのも美しさが際立ちますね?」
「いやいや、華南さんの髪飾りの方もすごく可愛いよ?華南さんは可愛いというよりは美人という言葉が一番当てはまっている気がするよ~~。ね?たける?少し華南さんとお話しして良い?」
「俺は良いぞ?トシも良いよな?」
「問題ない。」
座っている場所は近いが、男子は男子、女子は女子同士でしばらく話をする事にする。
「どうだ?トシの推しの作家さんで俺の恋人の彩乃と同レベルの美貌を持っている華南さんと2人で花火大会に来れて楽しいか?」
「ああ。楽しいよ。」
「だろうな?高校3年生にトシと聖奈ちゃんとの3人で来た時と比べると心の底から楽しんでいる感じが目を見ても分かるもんな?あの時はトシを連れて口では楽しいと俺に言っていたけど、長い間幼馴染をやっているからトシは全然楽しいと思っていないなってすぐわかってたよ。」
「まじか、幼馴染ってここまで長く関係が続くと嫌な物だな…。」
「そうかもな…。今まで生きてきた人生の9割以上は一緒に居る時間が長いからその間にお互いの性格や考え、嗜好、嘘を付つくときの癖といった全てが分かるもんな…。」
「でも幼馴染は意外と悪くないと言うか良い面もあるって気づけたんだよね…。」
「ほう~。と言うと?」
「今日もこの会場に来る前は健さんの仕事部屋で夏休みの仕事のスケジュールの話になってさ、最初に作成したスケジュールを息子が俺に見せながらこれでは大学生の夏休みにしては仕事が多すぎるからもう少し休日を設けても良いのではと提案されて再調整した改訂版の日程がさっき渡されたから凄い驚いたんだよね…。丈瑠が俺と華南さんの為に健さんにわざわざ頼み込んだことにさ…。」
「なるほど。俺とトシはあと半年すぎくらいで大学を卒業して社会人になる訳じゃん?つまり今年が学生生活最後の夏休みだからさ、トシにも今まで味わう事が少なかった夏休みを満喫して欲しいと思ったから親父に頼んだんだよ…。それに俺も今日みたいにトシと2人で遊びに行ったりしたかったしな…。」
「意外とちゃっかりしているけど、俺も今年くらいは学生らしい夏休みを送れたら良いなと思っていたから、丈瑠に感謝だよ。ありがとう。」
「なんか、幼馴染に感謝されると不思議な気持ちだなぁ…。じゃあ真面目な話は終わりだ。それで、華南さんとのデートはどうだ?ちゃんとエスコート出来ているか?」
「デート言うのかは不明だが、けっこう楽しんでいるよ?」
「そっか…。華南さんの和装の似合い方半端ないな?それに髪飾りも決まっていて…。あ、だけど、もちろん彩乃の方が浴衣とかリボンとか似合っているからな?一番可愛いと思っているから…。」
華南さんの美貌に触れながらも自分の彼女の美貌がやはり一番好きであることを興奮気味に言う丈瑠を見て俺はどう相槌を打てばよいのか分からない…。
「それ、俺にいちいち言わなくても宮山本人にそれだけの想いを伝えれば良いのでは?」
「もちろん伝えたわ。トシ。」
「なんだ?急に…。」
「人間って言うのはその人の事を好きだと思ったら他の女性が例え世間的に見たら美人もしくは可愛いと高い評価を持っていたとしても自分自身が最も好きだと思うその人こそが一番可愛くて美しさを感じるものなんだよ?」
夜空の中で幼馴染同士で話している時に俺は何を聞かされているのだろう…。
「お、おう。」
「だから、もしトシが華南さんの事を好きになったら他の女性、例えば聖奈ちゃんとか、彩乃とかが世間的に可愛いという評価になっても自分が好きになった人が一番かわいくて愛おしいという事になるんだよ?」
「なんか、今日いつも以上に熱いな?何?花火大会マジック?」
「俺が恋愛に熱いのは年中無休だぜ?恋愛マスターだしな…。」
「それは自称だろ…。言いたいことは分かった。丈瑠が言いたいのは自分が好きになった人が周囲の人と比べた場合一番好きで可愛く思うという事だな?あと、言い忘れていたけど、聖奈は妹だけどな?」
「いや、わからないよ~。急に”おにい”の事もう兄妹とは思えない。もう、一人の男性として私の彼氏として恋人になってほしいとせがまれる可能性も無いことは無いんじゃないの?」
「う~ん。その確率は無いだろ…。どこからその考えが出たのかむしろ教えて欲しい…。」
「だって、GW明けくらいに言っていたよ?おにいに試しに告白したら困惑した顔をしてその顔を見るのが楽しかったって…。」
ドSかよ…。
兄の困った顔を見て楽しいと思うとか…。俺には分からない…。
女子特有の事なのか…。
「そう言えば、そんなのあったかもしれない…。けどその後に断った気がする…。」
「ええ、なんでよ?勉強できて料理作れて、コミュニケーション能力高くて悠梨さんの遺伝を受け継いで美人で良くない?あ、でも運動神経はいまいちだったな…。」
「おまえな、聖奈と俺は兄妹だからな?それに学力面等は完璧なのにあと、運動神経だけは皆無なのは丈瑠もだろ?人の事言えるか?」
「そ、そんなの分かっているよ~。でも兄妹恋人ありだと思うけど?」
「いや、無いだろ?それに兄妹である時点で妹の多方面でのハイレベルな部分に呆れていて凄いの一言しか言えないからそれが恋人にでもなったら俺自信無くして引きこもりになりそう…。」
「そうなった時は俺が慰めてやるからな?」
「そもそも兄妹で恋人になることは無いから、引きこもる事ないし慰めに来なくて良いから…。驚きなのは幼馴染歴がかなり長い丈瑠が俺と聖奈が恋人関係を有りだと思っていたことだわ。」
「まぁ、今後もしかしたら華南さんとトシの距離が近づいて居るのを見て聖奈ちゃんが嫉妬してトシの事を奪還しに来るかもよ?聖奈ちゃん、自分が欲しい物を横で奪われそうになるとかなり本気で奪い返しにいくだろうからそうなった時は覚悟する事をおすすめするよ?」
「そう言われてもな…。それが起きないことをただただ祈るしかないな…。」
「じゃあ、俺はいつまでもここで話していてもしょうがないし、トシも俺が2人に声を掛けけたときにちょっと嫌そうな顔が表情に出ていたから俺らは行くよ?それと、花火を見るのならここでも見えなくは無いけど、風車の上のスペースで見れば良く見えると思うよ?俺らは昨年そこで見て感動したから是非、行ってみて?」
「おお、情報ありがとう。行ってみるわ。」
俺は後で華南さんに提案してみようと思った。
「あやの~、花火始まるからそろそろ行こうぜ?」
「うん。分かった。またね~?華南さん。またゆっくり話そうね?それと高島だっけ?あんた、頑張りなさいよ?それだけ伝えておくわ…。じゃあ…。」
2人は群集のかなたに消えていった。
「せんぱい、そろそろ花火大会始まりますね?さっきあやのさんから教えてもらったんですけど、あそこに風車が見えますよね?」
「ああ。見えるな…。」
俺は首を捻って風車の方を見る。
普段とは異なって風車全体にLEDランプが取り付けられて色鮮やかに美しく見える。
「そこの上にちょっとしたスペースがあるみたいなので、そこから花火見ませんか?」
「ああ。そうするか…。きっと地上で見るより花火の迫力さや匂いを近くに感じる事が出来るだろうしな…。」
「せんぱい、この先風車まで人が多いのでその…。」
「なんだ?」
「て、手をつないでも良いですか?」
俺は提案されるとは思ってなかったが、こんなことくらいの誘いで動揺しないようにする。
「ああ。俺も安全に歩く為にも、華南さんが迷子にならないためにも、手をつないだ方が良いと思っていたよ。」
「はい。」
俺は手を差し出し、その手を華南さんは握る。
花火大会はまだ始まったばかりだ…。




