第128項「期末考査明け1発目の連日勤務~with華南③~」
ハグ回
「じゃあ、これで今日の会議と仕事は終わりだ。お疲れ様~。」
健さんが管理をしている仕事専用の建物の会議室でのアニメ化に向けての作業についての長い話を聞き終えて部屋に残された華南さんと俺は思わずあくびが出てしまう。
今日は先日健さんに頼まれていたアニメ化するに当たって原稿の第1段階の脚本を提出し修正点や訂正点を洗い出した。
それだけでぶっ通し2時間も話し続けた。
俺はその内容を聞くというよりは華南さんと健さんの話し合いの様子を眺めていたと言う表現が正しいかもしれない。
「せんぱい、疲れました~~。」
さっきまで健さんとぶつかっていた為まるで蝋が無くなってしまったろうそくのように消えかかっている。
「ああ、お疲れさんだなぁ。俺なんか2人の作品に対する改善点についての白熱した話を見ているだけでエネルギーを使った感があるのだから華南さんが疲れているのもその顔を見て分かるよ?」
「そうですね。でも充実した会議でしたよ?それで、せんぱい?」
何かを求めるかのように俺が座っている席に近づいてきた。
「なんだ?」
「先輩が推している作家さんが大変エネルギーを失い今すぐにでも充電が必要なんです。」
「帰りになんか食べてから帰るか?」
「あ~、それも良い案ですけど、その前にこの場ですぐに充電しないとこの椅子から立ち上がることも出来ないんです。先輩、疲れを一瞬で取ることができる魔法の行為があるんですけどそれをやってほしいんですけど良いですか?」
「なんだ?疲れが一瞬で軽減される魔法って…。」
「それはですね…?ハグです…。」
「ハグ!?って何だっけ?」
「先輩知らないんですか?男女同士で無くても良いんですけど、腕で相手の人の事を抱きしめる事ですよ?聖奈ちゃんと小さい時とかやったりしませんでした?俗に言う”ぎゅうってする”というやつですよ?」
兄妹でそんなことはしなかったし昔は今ほど仲が良くなかったからなぁ。
「いや、言葉の意味はさすがに分かるけど?なんでそれをやりたいのさ?」
俺は素直な疑問をぶつける。
「疲れた時は人と抱きしめあうことでその前に感じていたストレスや疲れを無くして心に抱える不純物を浄化する効果があるって聞いたんですよ?」
「な、なるほど…。確かに俺も若干であるが仕事の疲れがあるいえばあるし華南さんもその表情を見ていると実際疲れてはいるけど正直なことを言うとハグを自分でも経験してそれを原作小説の方に反映したいというのが本音なのでは?」
「あ、よ、良く分かりましたね…。その作品を書いている人がハグをする時に疲れが緩和される効果があるのかを実証してみないと物語上に登場する人物の心情表現が描けないですからね…?見破ってくるなんてさすがです!」
「まぁな…。なんだかんだこのビジネスパートナーという契約を結び新島先生の仕事のアシスタントマネージャーを始めて約2カ月くらい経っているしな?」
「もう、そのくらい経つんですね。それだったら私が何を考えているのかもお見通しかもですね。それでやってみても良いですか?」
「え、ここで?すぐに健さんとかこの部屋に戻ってきちゃうかもしれないよ?」
「大丈夫です。健さんは毎回の会議の後1階の部屋に30分くらいそこで過ごすという流れなのでたぶんまだ戻ってこないと思いますよ。」
「アニメ総合監督の人の会議の前後の予定まで分かっているなんて少し恐怖を覚えるな。」
「今この時間がむしろチャンスですよ?もし健さんに仮に見られたとしても原作小説の主人公がヒロインと行うハグのシーンを自分でもやってみないと心情表現をうまく書けないのでって言えばなんとかなりますよ~~。」
「とてもそれで納得してもらえるかなんとも言えない言い訳だな…。”先輩が私に迫ってきてハグをしてきたんです!”とか健さんにこのことを仮に見られた時に今のように言うとか勘弁してくれよ?」
「先輩にそんな迷惑をかける事なんて言いませんよ?じゃあやりましょうよ?ハグ!」
俺にハグをやろうと求めている顔をしているのでこちらが諦めても素直に彼女の希望に従ってやった方が華南さんが書く作品の為になると言うのならやるしかないだろう。
但し俺も今までハグなんてやったこと無いけど華南さんの押しに完敗した。
「でもハグなんてやり方、俺分からないけど?」
普段の生活でハグをしている日本人って見たこと無いかも…。
日本人は周りの目を気にする民族だから仮にそれを街中でしていたら恥ずかしいと感じる人が多いのだろう。
俺も今いる場所は建物の屋内でこの部屋に華南さんと2人で居るがそれでも十分恥ずかしい気持ちになる。
「先輩がハグの仕方が分からなくても無理は無いです。最初は私の方から行きますから、先輩はそのまま座っていて待っていてください。」
ハグの仕方が分からなくても無理は無いとはっきり言われてしまったよ…。
確かにハグをしたいと思った事すら今まで無かったけどよ…。
「お、おう。分かった。どういう心の持ちようで待っていれば良いか分からないけどいつでも来い!」
「行きますよ?行っちゃいますよ~。」
そんなに長い前振り無くて良いから…(苦笑)
「はい!!」
彼女の声が少しずつ近くに聞こえるようになったのと同時に甘いシャンプーなのか香水の匂いなのか男の俺には匂いの違いに区別はつかないが直接的にその甘い何かを鼻に感じる。
”ハグをする”という事はそれだけがお互いの顔や身体が近くにあるという事だ。
華南さんの顔が近いのはもちろん彼女の身体から聞こえてくる心臓の音が俺の耳にも届き更に俺の身体に巻きつき抱きつこうとしてくるので胸の感触を少し感じて恥ずかしいがそれを言うのも失礼なので何も言えない状況だ。
そして確かに華南さんがこれを始める前に言ったように、ここ最近自分の中にあった疲れやストレスといった不純物が滝のように俺の身体の外に出ていき自分自身全体においてもシャワーの水のようなもので綺麗に洗い流されている感じがして少しずつ身体や気持ちが楽になっていくのが分かった。
ハグって凄いな…。ちょっと侮っていたわ。
「は、はな…さん…?」
「あ…。はい…。」
手を一度離しても、向かい合ってハグをしている状態なので彼女のつぶらな瞳が自分の顔の近くにあって恥ずかしくてじっと見ることができない。
「あの、さ。もう良いかな?離れても…?」
俺も口ではこう言っているが、この何とも言えない心が落ち着く雰囲気からまだ開放されたくないと思っている自分もなぜかいる。
なんかこれって恋人ごっこみたいな感じがするな…。
でも…。そろそろ離れないと俺の理性が持たない気が…。
「まだ、駄目です。あと2回くらいやってください。この1回やっただけでも50%くらい充電は出来たのですが、もう少し注入させてください。」
確かにハグをやってみて最近の疲れが解消された気もするからこれをやる意味と凄さに関しては俺も認めるけど、あと2回も同じようなことをやるのかい…。
「充電が50%も出来たのならもう良いんじゃないのか?」
「いや、出来れば最低でもあと1回はやりたいです。先輩は私とハグをするのはダメですか?」
結論から言うと俺はこのお願いに俺は負けた。
「はいはい。分かったよ。」
俺ももう一度同じことをすれば完全に疲れが身体の外に出ていくと気がしたから彼女の要求にこたえる事にした。
「やったあ!!出来れば今度は先輩の方から近づいてくれたら更に充電のスピードが上がると思うので!お願いしますね?」
「了解!じゃあ行くよ?」
今度は俺の方から彼女に近づいてハグをする。
「い、行くよ?」
「はい…。」
俺は華南さんを軽くハグをする。
ハグに行くまでの瞬間がとても緊張したし華南さんは良く自分から最初に行くと言えたのが凄い勇気があるなと感じる。
ハグをしている時間自体は短いはずなのに妙に時が長く感じる
「どう?充電は完了できた?華南さん…。」
「はい。おかげさまで明日から始まる夏休みに向けて新たに頑張っていけそうです!先輩は初めてハグをしてみてどうでしたか?」
「そっか。それは良かった。俺もここ数日の疲れが取れて回復出来た気がするよ。ありがとうなぁ!」
華南さんがこのハグで自身の疲れを癒しそして自分が書いている作品の登場人物に活かしたいとお願いされたらアシスタントマネージャーとして断れる訳ないだろう…。
ただ、これをやる意味はお互いあった気がするし華南さんの顔を見ても一度目にやった時より遥かに顔の表情が回復しているのが確認して分かった。
「じゃあ!帰りましょう。先輩!」
「おお、そうだな!」
俺らは健さんにお疲れ様でしたと伝え帰宅した。
ここだけの話だが、健さんに「2人して大胆なことしていたね?青春だね!」と小声で耳に挟んで言ってきたのでドアの隙間から一部始終を見られていたんだなと感じそれを改めて大人の人に言われた瞬間急に恥ずかしい気持ちになった。
作者にハグができる人は居ないので疲れはアニソンを聞きながら執筆するのが一番の解消法です




