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第116項「健さんのアニメ制作所に赴く② ~再会~」

丈瑠に一度別れを告げて、俺と華南さんは健さんの仕事部屋に入る。


GWの時に一度俺は実家に聖奈と一緒に帰ってきているから、この建物の存在にもその時に気づいているはずなんだろうけど、初めて目にいれた建物な気がする。


「先輩は、この建物に今まで入ったことはありますか?」


「いや、無いな。俺もこの建物の存在を今日初めて知ったからなぁ。」


「でも丈瑠さんと先輩の家はお隣さん同士なんですよね?普通だったら気づくはずなのに?もしかして先輩って()()?」


「…。何と答えれば良いのか分からないが、GWに俺も一度隣にある実家に帰っているからその時に本当なら知っていてもおかしくないはずなのになぁ。」


「じゃあ、ここ最近建てられた部屋なのですかね?」


「いや、どうなんだろ…。でも俺が大学生になってすぐの時はまだ実家に住んでいたから、その時はこんな建物なんて無かった気がするんだよな…。」


「そうだね?この建物は丈瑠とトシが大学に入学してトシがちょうど一人暮らしを始めた年に建設した棟だからなぁ?」


玄関で靴を脱ぎ靴箱に入れている際に思わず声に聞きほれてしまいそうなおなじみの健さんがこの建物が完成した時期を述べてくれた。


「あ、お疲れ様です。健さん。すいません。約束より少し遅れてしまって?」


「大丈夫だ。トシ。それに新島先生も大学終わりなのにはるばる遠くからありがとう。」


「はるばる遠くという距離でも無いけどね。健さん。私達の息子だって毎日登下校している距離何だし?」


健さんの声を遮ってさと美さんが答える。


「そ、そんなこと、分かっているよ?さと美さん…。じゃあ2人も2階に上がって突き当たりを進んで左にある会議室で少し待っていて貰って良いかな?」


この夫婦なんだかんだいって仲の良さが俺にも分かる。


「はい。ありがとうございます。」


俺と華南さんの声が響く。


階段を上がりながら思ったのは思っていたよりも開放的で太陽からの光が照らされて部屋の空間自体が明るくなっているのだ。


「突き当たりという事はここですよね?先輩?」


華南さんが躊躇しながら扉を開けようとする。


「おう。そうだな。さっき部屋に入っていて良いって言っていたから良いんじゃないか?入って?」


華南さんが部屋の扉を開けると椅子に座る一人の若い女性が座っていた。


「あ、柚乃果(ゆのか)さんだぁ~~。お久しぶりです~~。元気でしたか?」


俺の知らない女子の名前を口にする華南さんの姿を見ながら同時に呼ばれた女の子の方も見る。


座っているので身長は良く分からないが、金髪に染まり短く揃っているショートカットが映える。


そして、一瞬外国人なのかとも思うがそういう訳ではなく普通の日本人で、ただ髪を染めているだけなのかなと思い始めた。


「ひさしぶり~~~♪新島先生もお元気そうで何よりです。」


華南さんに少し硬めに応対する。


「そんな堅苦しく呼ばなくて普通に華南呼びで良いって前に会った時になったじゃないですか?」


「ごめん。そうだったわね?前に会ったのは5月のGWの時に大宮でイベント開催した時以来だったよね?どう仕事の感じとか?大学生活とかは?好きな男の子とか出来た?」


「仕事はおかげさまで3カ月に1回くらいのペースで続巻を発売させて貰っています。そしていつも素晴らしい表紙の絵や挿絵とか本当にありがとうございます。」


「まぁ。それはお互いの仕事だからね?私も華南ちゃんの作品で好きな絵を描ける仕事で生活できてとても嬉しいよ?それでどうなの?ラブコメを書いているのに自身に恋人はまだいない華南ちゃんは恋人がまだ出来ていなくても良いけど、好きな男の子とか見つけられた?」


「ちょっとからかわないでくださいよ?確かにラブコメ作品を書いているのに自分に恋愛経験が不足しているのは事実ですけど?」


「不足しているんじゃなくて経験が()()足りて無いんでしょ?」


「もう~~。柚乃果ちゃん。揚げ足とらないでよ?そんな話はもう良いじゃ~ん?それより柚乃果ちゃんに紹介したい人がいて。」


「お?遂に私達付き合う事になりましたとか言ってくれるの?遂に華南ちゃんにも春が来るのかな?」


「もう~~。そ、そういうのではなくて仕事関係で今後もこの作品のアニメ化に向けて仕事をする際に柚乃果ちゃんにも私の隣に居る人を紹介しておこうと思って?」


「大丈夫よ。私はこの男性の事は知っているわよ。名前は高島俊明でしょ?」


「え、なんで知っているの?ていうか…。先輩は柚乃果ちゃんのこと知っていた?」


華南さんは驚いた顔をしている。


「いや、知らないな…。ていうか一応過去に一度会った人の顔は職業柄覚えているはずなのだが、この人は俺の脳内にある記憶メモリーには無いな?」


「あら?覚えていないの?私と中高と学校同じだったし中学の時は中2、中3とクラスが同じだったはずよ?」


そうだっけ。

俺らの学年に柚乃果という下の名前の女子なんて名前を見聞きした覚えがない。


「先輩どうですか?思い出せていますか?」


華南さんはおそるおそる聞いてきた。


「ええ、俺が中学・高校の時にそんな人居たかなぁ~。」


「あんたの脳にある記憶メモリー欠陥商品なんじゃないの?アップデートするか?修理に出した方が良いんじゃない?」


でもこんな感じで会話の中に毒を少しずつ加えていく人は過去にいた記憶がある。


「そうかもな…。俺の頭は男性の中では小さい方だから脳もきっと小さい。だから記憶メモリー内のデータが削除されたかそもそも記憶された形跡が無いのかもしれん。」


「でも基本的に人間の脳の大きさはほぼ同じなはずよ?だからその理論は当てはまらないと思うわ。」


「そのツッコミいる?」


「要らないかもしれないけど、君の記憶装置があまりにも欠落しているのが分かって私が誰なのかもまだ思い出してもらえなくて呆れてこれ以上なにも言えないわ。」


「先輩がここまで他の人に皮肉交じりで押されているのは初めて見ました…。」


「華南さんが考えていた俺のイメージがどんなものだったのか分からんが、別に俺はそんな完璧超人でも無いし過去の記憶も必要が無くなったら忘れてしまうからな?」


「ほう~。なるほど。じゃぁわたしの存在も必要が無くなったら忘れてしまうんですか?先輩は?」


難しい質問来たな…。どう答えるのがこの場を抜け出すのにちょうど良いのだろうか。


確かに華南さんは俺が好きな推しの作家さんであるしここ数カ月一緒に居てなんだかんだ言って楽しいと思う自分が居るから記憶の外に出して忘れるというのは絶対できないと思う。


「い、や…。それは…。」


「それは?」


上目遣いで俺に求めないで?てか、健さんはいつになったらこの部屋に来るの?遅くない?

助けて!


「それは無いと思う。」


「ほう。その心は?」


なんか知らないけど、柚乃果さんという人も追撃の質問をしてきた。


「上手く言えないけど一緒に居て嫌ではないからかな…。」


「なんか答えとして弱い気もするけど、不必要になったとしても必ず新規保存してくださいよ?」


「それに関しては抜かりないようにする。」


「はいはい。私の前でいちゃつかないで?それで思い出したの?私が誰なのか?」


「分からんな。」


「じゃあさ。これをかけて見るから少しは思い出せるきっかけになるんじゃないの?」


そう言って柚乃果さんはメガネを取り出しかけるとどこかで見た顔であることを思い出した。


「あ!!思い出した。お、小山か?」


俺はメガネ姿の彼女を見て名前をこぼす。


「やっと思い出してくれたわね?遅いよ~~?もう高校を卒業してから久しぶりに仕事の場で会えると昨日さと美さんから連絡で知って嬉しかったんだからね~?」


なんか嬉しそうに顔を赤らめて俺に話してくる。


小山柚乃果(おやまゆのか)


さっき丈瑠が玄関に入る前に言っていたようにこの人は俺と丈瑠が通っていた中・高校と同じ所の学校に通っていたらしい。


学生時代の時はといっても今でも学生だけど…。


中学・高校と実際に学校生活で話したことはそこまで無くて丈瑠とはけっこう仲が良かったような気がする。


「でも小山の下の名前って柚乃果って言うんだな。俺今日初めて知ったと思う。」


「先輩、それって中学・高校と一緒の学校に通っていたはずなのになかなか酷いですね?」


「しょうがないだろ?って言ったら失礼なのは分かっているけどさ、基本的に学校生活からプライベートまで丈瑠と一緒に過ごしていた時間が圧倒的に長いからさ。」


「本当、ラノベのような理想の幼馴染像で良いと思いますけど、もう少し先輩は仕事以外の自分の学校で知り合った人の名前をすぐに思い出せるようにした方が良いですよ?」


「そうだな。華南さんの言う通りだな。今後の教訓にする。」


「それで、柚乃果さん。先輩は、中学・高校の時はどういう人だったんですか?」


どうやら俺の中学・高校時代の少し懐かしい話が幕が開けるようだ。





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