第112項「読モ事務所に出勤」
いつも読んでくれてありがとうございます。
俺らは、建物の全てがこの会社の持ち物であると思われる2階の撮影場所の部屋の前の入口に居た。
「お久しぶりね。高島さん。今日から本格的に読モの仕事の方もよろしくね?」
この会社の代理社長であるはるなさんの声が上ってきた階段の後ろの方から聞こえる。
「はい。まだ未熟者ですが、よろしくお願いします。」
今日。俺は、舞美さんの読モの仕事の方に来ていた。
今日から本格的に仕事の方が始まる。
「高島さん?今日からよろしくです!」
隣に居る舞美さんからひと声かかる。
「ああ。頑張ろうな!」
舞美さんは服のアシスタントさんに連れられ部屋に入っていく。
部屋を覗くと自分の背丈くらいの高さがある物やや天井にぶら下がっている多くの最新型のカメラが俺の視界に入る。
1人を撮るだけなのにこんなにカメラの機器多いのかよ。
もしくは比較的部屋としては広いから1人用の撮影では使わず複数人での姿を撮る際に用いるのか…。
俺は予想をしていなかった。
なんとなく読モの撮影って公園とか眺めが良い場所とかでその季節やその年で流行になりそうな服とかを世間の人より先走ってカメラに収めていくイメージで居たからだ。
でも前日にはるなさんからメールを頂いた時に、舞美さんは現在この事務所で専属しているモデルの中で5本の指に入る美しさを持っていることははるなさんも認識しているようだが、舞美さんはまだこの業界に入ったばかりなので、最初は建物内にある屋内の撮影スポットで行うのだそう。
「あら、高島さん?これから撮影の説明をしていくわよ?もう舞美ちゃんは向こうの部屋で撮影する洋服に着替えているわよ?」
「あ、はい。」
「なんか浮かない顔をしているのね?」
先ほど別れたはずのはるなさんの声が聞こえ俺に言っているがわかる。
「あ、いや、自分が思っていたよりも読モの仕事の印象が違ったのでそれでびっくりしただけです。」
「もしかしたらだけど、高島さんは読モは公園とかで撮影をするイメージだったんでしょ?だから多めに飲み物とかを本当は準備したんでしょ?でも私が昨日送ったメールの内容を見て少し読モという仕事のイメージのギャップがあったのかもしれないけど、でもあなたが飲み物を多めに用意したことはけして無駄では無いわよ?」
俺が想像していた読モのイメージを当ててくるとかこの人周囲の人の声が聞こえなくても顔や表情で分かるとか凄いな…。
あ、感動している場合じゃなかった。
でも飲み物を多く準備したことが無駄にはならないとはどういう事なんだろ…。
「あ、そうなんですか?」
「ええ、私はモデルとして撮影される立場になったことは無いけど、この仕事を何年もやっていて分かったのは読モの人達ってただ撮影されるだけのように見えるかもしれないけど、カメラマンの人から、立ち位置、姿勢、顔の表情といった細かいところかもしれないけどそれらの指示に則って被写体である彼らは一つ一つの仕事をこなしていくのよ?」
「なるほど。」
カメラの被写体としてただそのフレームに写るのではなくいくつもの注意するべきところに気を使って一回一回の撮影に向き合っていることがはるなさんの言葉で分かった。
「それに、大変なのは被写体としてカメラのレンズに写りこむ彼らだけでなく天井や壁の近くにあるカメラを操作をする人やモデルの人達のそれぞれの個性を見抜き出してそれにあった服を着せるという人や撮り終えた写真を元にその服に対して重要な色・柄といった情報を文字としてまとめ上げて記事を書く人達も居るのよ。そしてそれが雑誌となって世に流通するのよ?だから、読モの被写体となる人達以外の仕事をしている人達は直接購入してくれた人達と関わることは無いけど彼らを支える影の立役者でもあるからとても大事な仕事なのよ。」
「色んな人が関わって一つの物が出来上がって行くんですね。」
「だから、高島さんもがんばりなさい。舞美さんの仕事のアシスタントマネージャー。とにかく彼女を健康面も精神面も合わせて支えていくのがあなたの大きな役割だからね。」
「はい。」
「それとこれから始まる夏の撮影は屋内でも汗が出るほどモデルの人達もそれを支える私達も暑さで熱中症で倒れる人とか出るから水分補給出来るものや塩分が取れるものはこれからの時期は特に必要になるからね。頼むよ?おっといけない。私は編集部に行くんだった。私と長く話していたせいか舞美ちゃんがこっちを向いて怒りマークがついているから私は失礼するよ。また、なんかあったら連絡するなり相談するなりしてよいから。」
「はい。ありがとうございます。」
俺は去っていくはるなさんに向かって一礼して舞美さんが居る方に歩を進める。
「もう~。高島さん。いつまではるなさんと話していたんですか?もう着替え終わっていつでも撮影開始できるんですよ?」
「悪い悪い。」
「う~ん。」
顔をこちらに向けて頬を膨らませ俺に何かをアピールしているように見える。
「なに?」
「う~ん、私が着ている服が似合っているか否か言ってくれても良いんじゃないですか?」
「舞美さんは基本的に何を着ても似合うから問題ないと思うよ。」
言えた。言えたぞ!服に関してはとにかく疎い俺なりの無難な返事の仕方。
なんとか上手く切り抜けて思わずガッツポーズを取りそうになるわ。
もちろん取らないけど。心の中では自分を褒めよう。
「ええ~。私が美人であるのは自分でも分かっていて何を着ても似合っているのは知っていますけどせめて具体的にどこが良いとか言ってくださいよ?美人だからとりあえず似合うとか言っておけば良いとか思っていません?」
「い、いえ、おもっていない…です。」
「あ。そ~ですっか。ふん。」
なんか急に機嫌が悪くなったよ。この人。拗ねているし。
めんどくせーという気持ちが出てしまう。
さっきはるなさんから読モという仕事の大変さを教えてもらったが、俺にとって服装なんて仮に戦う事になった際に実用性があるか無いかだから舞美さんも含め女性が着ている華やかな服に関してはその人にとってどこが具体的に似合っているかなんてそんな上手に言えない。
だけど、上手く伝わらなくても舞美さんの仕事を精神面とかも合わせて支える事が俺の仕事であるとはるなさんにも言われたので何か言ってみよう。舞美さんに…。
「ま、舞美さん…。」
「な、なんですか?」
「俺には良く分からないし表現が正しいのか良く分からないけど上下との色合いとか柄とかこの場所に来るまでに着ていた服とはまた違った印象があって良いんじゃないかな…と思う。」
「た、高島さん…。高島さんが服に関して疎い事なんて私も知っていますからね…。最初から言ってくださいよ?でも普段そんなことを言わない先輩に言われるなんて少し…。」
「少し?」
「何でも無いです。カメラマンさん。撮影の程、指導よろしくお願いします。」
舞美さんは立ち位置が記されているテープの所まで進む。
俺は舞美さんという被写体に向けられるレンズが写し取られるフレームに収まる彼女の読モという仕事に向き合っている姿を縁の下で支える様にする必要がこれから求められるなという事を確信したのだった。




