第110項「時間があるので都内をぶらつく」
「せんぱ~い?意外と早く会議が終わったのでこのまますぐ家に帰っても良いですけど、ちょっと寄り道してから帰りませんか?」
俺と華南さんは今日のヤマドリビルでの定例会議が終わりリアルダンジョンといった異名もある新宿駅に向かって歩いている。
普段なら電車で新宿駅まで行くことが多い。
しかし、今日は天気が良く、晴れていて運動不足解消にも繋がるという事から歩いていて行きましょうと華南さんが言うので、2人並んで副都心の喧騒の中を進んでいる。
「寄り道って具体的に言うとどこ?若い女性がみんな大好きな原宿とか?という事?」
「せんぱい、若い女の子がみんなハラジュクが好きであるという固定観念はいますぐ捨てた方が良いですよ?」
「ほう~~。華南さんは原宿好きじゃないのか?」
「はい。好きではないですね。ただの陽キャとパリピの集いの場じゃないですか?」
言っていることは間違ってはいない気もするし俺もそういう考えを持っているので気持ちはわかる。
けど、想像していたよりも辛口意見でびっくりした。
「あ~、まぁそう言われるとそうかもしれないけどなぁ。でも地方出身の女の子は一度は訪れたいとか思わないの?」
「私は思わないですね。」
即返事が返ってきた。
この人は珍しいタイプの女の子なのかもしれない。
「でもあそこってファッションとかトレンドとか良く分からないけど、いっぱいあるじゃん?」
俺も原宿はブラコン気質である聖奈がどうしても兄と行きたいと言うので、一度だけ高校時代に訪れたことがある。
あの時分かったことは自称陰キャ男子代表である俺みたいなやつがあの350Ⅿの道に入っては駄目であることが分かった。
自分の中ではもっと長い通りだと思っていたので、実際に歩いてみてその道の短さに驚いた記憶がある。
「ハラジュクってまず人が多いじゃないですか?私、人混みがまず苦手なんですよね?」
「ほう。人混みが?それでいくとラッシュ時の電車とかも無理という事だね?」
「はい。ラッシュ時の電車には基本的に乗りたくないです。あ…。でも先輩が一緒に居る時はラッシュ時に電車に乗っていてもそこまで苦痛では無かったんですよね?楽しくは無いですけど、苦しいという事は無かったです。だ、だから先輩の存在は大きいですね?毎回ラッシュ時に電車に乗る時は一緒に来て欲しいです。」
なんか美少女にこんなこと言われると不思議な気持ちが芽生えるがこの気持ちはすぐにシュレッダーにかけておこう。
「さすがに毎回は無理な相談だな…。」
「まぁ無理な相談であることは承知ですけどね?」
華南さん少し残念そうな顔をしながら返事をする。
「あ、うん。それで話し戻すけど、なんでハラジュク=若い女の子が好きという固定概念を外す必要があるのかね?」
「いや、好きな人もいるとは思いますよ?ハラジュク。でも若い子みんなが好きではないという事ですよ?因みに先輩はハラジュク行ったことありますか?」
「高校生くらいの時に行った気がする。」
「それは誰とですか?一人ですか?先輩がわざわざ一人で原宿に行くっていうのはなんか微妙な感じもしますが…。」
「おい?なかなか失礼なこと言っている自覚あるか?それに自称日本陰キャ男子協会会長の俺がそんな陽キャが集合する場所に一人では行かないわ。」
「日本陰キャ男子協会ってそんな協会世の中にあるんですね?ちょっと調べてみます。ええ~と、理事長はたかし…。」
「いや、調べても出てこないわ。」
「いえ、出てきました。」
「…な訳ないだろ?」
「ええ、嘘でした。日本陽キャ撲滅協会の公式ホームページを見ていました。」
「おいおいそんなのあるのかよ。撲滅ってなんかやばそうだな?宗教っぽい匂いがあるな…。」
「それ自称日本陰キャ男子協会会長の先輩が言える事ですか?周りに人がいる中で歩いている時にそんなことを突然言い出す先輩の方がやばいと思いますけど?」
「わ、分かっているわ。」
「それで、先輩は高校生の時に元カノと原宿に行った感想はどうでしたか?」
「元カノじゃなくて実妹だわ。」
「じついもってなんか干し芋みたいな言い方ですね?それに実妹じゃなくて正しく言いたいなら実妹ですけどね?」
「いや、いまその突っ込みいる?そこ無理して拾わなくて良いよ?」
「え、元カノじゃなくて実妹とハラジュクに行ったんですね?どっちが行こうと言い出したんですか?」
「ああ。そうだ。聖奈の方だな。」
「まぁ。聞いた私がバカでした。よく考えてみればそりゃそうですよね。先輩が原宿に行きたいって原宿と先輩って仲悪そうですもんね。なんか似合わなそうですし。」
別に俺と原宿との間に過去にもめごとしたわけでもないのにひどい言い方だ。
「なに。今日って先輩をからかっていくスタイルなの?」
「え、いつも通りですけど?何か?」
「あ、そう。」
このコメディになっているような微妙なこのノリ良く分からんな。
「それで、聖奈ちゃんの方から先に”お兄ちゃん”行こうと言われたんですよね?」
「そ、そうだね。」
「前から気になっていたんですけど、聖奈ちゃんってかなりブラコン気質ですよね?」
「あ、そうなの?」
知らなかった。どこの実妹も兄に比較的優しいものだと思っていた…。
「先輩の方が私より聖奈ちゃんと一緒に過ごしている時間が圧倒的に長いはずなのにブラコン気質であることが分からないなんて先輩も異常なほど鈍感ですよね?本当は気づいているんだけど、気づいていないふりなのか仕事以外の事だと全く周りの状況に気付かない鈍感天然バカ野郎なのかどっちなんですかね?」
今日は本当に凄い言われようだな。
「俺に言われても分からん。」
「その回答だと、先輩。仕事の時以外は全く使い物にならない鈍感天然男子という烙印が押されますけど良いデスか?」
「良くは無いけど、良いんじゃね?知らんけど…。」
「じゃあぁ今から早速その名前で呼びますね?鈍感男子って?」
「いや、やっぱそれだけは勘弁して。人がいる外とかは特にやめてくれ~。」
「分かりました。一緒に2人で居る時だけ言いますね?」
そういう時だけ上目遣いで話さないで…。
それにできれば、2人の時でも勘弁してほしいです。新島先生。
「あともう一つ言っても良いですか?」
「なんだ?」
「さっき聖奈ちゃんがブラコン気質で先輩の事大好きっていう話をしましたけど、先輩も聖奈ちゃんの事大好きですよね?」
「大好きかどうかは微妙…。だけど、兄妹としては嫌いではない。」
「ちっ…。大好きって言ったらこのシスコン野郎って言う新しいセカンドネームで先輩の事を呼ぼうと思ったのに…。」
「ちぇっじゃないわ!!あいつの俺に対する想いは重いんだよな。」
「今”想い”と”重い”でいい感じで言ってやったぜ、韻踏めたぜって思ったかもしれませんけど、全然おもんないですからね?」
面白くないを変な風に言い始めたよ。この人。
「分かってるわ。意識して言ったつもり無いし。」
「で、実妹原宿デートはどうだったんですか?」
急に話戻るな。
「た、楽しかったけど、かなり疲れた覚えがある。」
「その疲れた理由はあれですか?聖奈ちゃんが余りにも可愛すぎて芸能事務所の人に凄い声をかけられて疲れたとかそういう話ですか?そしてその様子をみて一人嫉妬したとかですか?」
「嫉妬はしていないけど、その前の内容は間違っていないというか合っている。」
「まぁ。聖奈ちゃんの可愛さは世界平和に繋がるので人間国宝ものですよ?大事にした方が良いですよ?鈍感シスコン男子さん?」
「その名前まだ使うのね?」
「ええ、結構気に入ったので…。」
「それで結局寄り道はどこに行くのか?原宿か?」
「明治神宮で参拝したいですし、あの場所テレビでは見たことありますけど、行ったことが無いので行ってみたいです。」
「あ、そう。分かった。お参りする際に何をお願いするのか教えてよ?」
「え?絶対嫌ですけど?」
急に冷たい声を出すな。怖い顔をするな。
「で、いつから明治神宮に寄り道をする事を決めていたのか正直に言ってもらえるかね?」
「最初からですね?原宿と固定観念の所からです。」
「それだいぶ最初の話じゃん。」
俺らは散々原宿の話をしたはずなのに華南さんの希望で明治神宮に行くことにした。
ごめんよ。ハラジュク。お前はなにも悪くないからな。別の機会があったら行くからな。
原宿と明治神宮という2つの選択があった際に明治神宮に〇をつける女子はたぶん華南さんを含め少数しかいないのではないかと思う。




