第106項「番外編 丈瑠の休日 幼馴染の微笑ましい初デートに遭遇する」
年始ももう終わってしまう…。
彩乃に手をひかれやってきたこの場所は二子玉川駅近くにある大型商業複合施設である。
「昨日はなんで突然メッセージ送ってくれたの?」
「う~ん、最近就活とかでお互い会えていなかったじゃん?恋人だからといって毎日会う必要は無いと思うけど、前回会ったのだって結構前じゃん?だからせめて月に1回は会う機会を設けた方が良いのかな~と思って?まずかった?」
「いや、そんなことは思っていないけど、基本的に誘うのは俺だから彩乃から誘ってきたのは珍しいなぁと思って…。」
「言われてみればそうかもしれないね…。」
横を歩く彩乃は大学で会う時と違ってヘアピンをつけている。
彼女が自分の髪に何かつけて着飾っているなんて珍しい。
「今日はなんでこの場所に指定したの?」
「私が普段から買っている服屋がこの3日間だけセールをやるのよ。だから、来た。」
「なるほどね。理解したわ。」
俺は彩乃が気に入っている服屋に足を運ぶ。
それにしてもこの商業施設本当に敷地面積の広いなぁ。
まぁ天気にも恵まれてデート日和であることは間違いないので俺は彩乃から誘ってきてくれたデートに喜びを噛みしめている。
服を選んでいる際の彩乃はとにか“ザ・女子大学生”という感じがする。
女子大学生ってバイトで稼いだお金は服に使うという事が多いと聞くが、彼女もその一人である。
選ぶ服は何を着てもよく合うのでファッションセンスも高い。
俺は彼女が何度も試着する度に感想を求められて述べるのだが、どの服も似合っていて決め切れなくて最後の方になると“もっと言う事無いの?”と問われる。
俊明の初デートの必勝法を説明した時は、着ると良い服装とかを伝授したけど、俺自身も服のセンスが無いので彼女の機嫌を損なわないように反応には注意する。
彩乃の買い物が終わり、昼でも食べようかとなった時にちょうどピーク時間帯でレストランが混んでいることから、一度駅の近くまで戻り付近にあった喫茶店に入る。
店構えからかなり純喫茶と呼ばれる部類に入るなぁと思いながらそれぞれ注文を済ませると仲が良さそうな男女の声が外から聞こえてきて店内に入ってきた。
女性の方は身長は彩乃よりは低く小柄でレンズが丸いメガネをかけている。
その人の服装はトップスがブラウスっぽい服で下は白をベースにしたブリ―ツスカートのようだ。
隣を歩く男性はジーパンに上はYシャツの上に一枚着て居る感じで黒縁のメガネをかけている。
女性との身長差は座っている席から見てもかなり分かるくらい男性の方は身長は高い。
身に着けているメガネが大学で見せるものと違うので一瞬分からなかったが、どうやら一昨日くらいに華南さんとデートに行くという話を聞いた俊明が同じ空間に居たのだ。
今日デートするという事は聞いていたが、まさか初デート先が二子玉川だとは知らなかった。
奇跡的な偶然だなと思いながらも幼馴染が女の子とデートしている所を間近で見る事ができるのは楽しみかもしれない。
俺らの机上に注文した料理が置かれそれを食べ始める。
「さっきからさ、向こうの席にいる男女ののカップルを見ているの?」
「いや、あの席に居るの俺の幼馴染な気がしてな?」
「たけくんの幼馴染があの椅子に座っている男女っていう事?どっちの人と幼馴染なの?女の方?」
「女性の方では無いね…。女性の前に向かい合って座っている男の方だよ?」
「ああ。なんかメガネ取ったらかなり良い顔立ちかもしれないね?あ、もちろんたけくんには負けるけど…。ここから見ていてもなんか体つき良いし身長高いね?それに脚長くない?確か前に名前とか聞いたような気もするけどだれだっけ?」
「彩乃も何回か大学で会ったことあるはずだよ?」
「え、あんな人居たかな? 大学に…。」
「ああ、でも分からないかもなぁ。最近長すぎる髪とかを切ってけっこう彼の印象が変わったからなぁ。GW入る前くらいの4月の下旬の大学の昼休みに彩乃が次の授業に向かう際に左の前髪が長くて身長が高い男子にぶつかって消毒をしてもらったこと無かった?」
「あああああ!あったわ。え、あの時の男子があそこの机に居る男子という事?」
「そうだよ…。」
「え、凄い印象変わったね?あれでしょ?私に向かって“学生の恋愛は無駄な時間”と啖呵を切った人だよね?」
思い出し方が笑える…。というか、何というか…。
彩乃が毒を吐くというか言動が乱暴な所は充分承知であるが、トシの奴も対抗してあそこまで言わなくてもなぁと思った。
「そうだね。」
「あの時言った台詞に沿っていないことを彼は私達の前でしているようだけど?その場ではかっこつけて他の場所では普通に守ってさ。言葉に責任持てよという話だよね?」
「まぁ。そこまで言うなって。俺の幼馴染なんだからさ。」
「ああ。そうだったわね…。ごめん。それで彼の名前は何だっけ?」
「高島俊明だよ。同じ大学の経営学部に所属している。」
「たけくんとの幼馴染歴は何年くらいなの?」
「18年くらいかな?幼稚園・小学校・中学校・高校そして大学も同じ所に最終的に進む結果になるとは思わなかったけどなぁ。俺の人生のほとんどを一緒に過ごしていて、もはや家族以上の関係と言えないことも無いと思う。」
「それはすごいね…。それで彼と一緒に座っている女性の名前は誰?」
「新前華南…。今年他の大学から編入してきた人で、現3年生で俺らよりは下の学年となる。双子姉妹で妹はハイスペックギャル系女子の新前舞美だよ?」
「ああ。聞いたことある。去年の学園祭でのミスコンで一位になった子だよね?」
因みに彩乃は2位という好成績を収めた。。
やっぱり彩乃は多くの人が認める美人であるんだなぁとその時認識した。
中身を知ると既に述べているようにかなりさばさばしているんだけどね…。
まぁ俺はそれがむしろ良いと思っているけど…。
「そう。その人の姉に当たる人があそこの席に居る人だよ?」
「私メガネかけている人って何か失礼かもしれないけど、そんなに美人だとは思っていなかったけど、あの人はメガネをかけている姿が一番似合っている気がする。あ、思い出したわ。私あの人と一度授業で一緒になった事あるわ。」
「ほう。そうなのかい。それってなんの授業だったの?」
「確か、日本史の授業だったかな…。」
実を言うと彩乃は文學部の英文学科なのだ。
なので日本史の授業は履修必修の扱いとなっているのであろう…。
「あ、あそこの席にいる男女。男の方が女の方に何か食べさせているよ?」
「お、まじか。うわ、トシの奴華南さんの口元に持っていく手がめっち震えているじゃん?いやぁ。でも良い物を見せてもらったわ。」
「いまあの女性の事を下の名前で呼んだでしょ?」
「え、ああ。」
「あのカップルの初々しさに目が行ってしまうのは私も同じだからしょうがないけど、たけくんは私だけを見ていれば良いのよ?わかった?」
「はい…。すいません…。」
「あと、さっき頼んだパンケーキを私に食べさせてくればゆるす…。」
おいおいまじかよ。追撃が俺にも来るとはな。
「わ、わかった。それで許されるならがんばる…。」
俺はこのあとトシが華南さんの口元にオムライスを運ぶのと同じように彩乃の口元に生クリームをパンケーキの上に載せて運ぶ。
トシがスプーンを持った手が震えてしまった事をにやにやして見ていたさっきの俺がまさか自分も似たような行為をやるとは思わなかったので、俺がフォークを持った手が震えてしまったことはここだけの秘密だ。
それにしてもパンケーキを食べている彩乃は満足そうで幸せそうな笑みをこぼしていたので付き合い初めてかなり時間が過ぎているが、こういうことをたまにやるのも自分達が恋人同士になった初々しさを思い出すようで良いものだなと感じた。
番外編はこれで終わりです。




