第105項「番外編 丈瑠の休日 幼馴染について考えに耽ながら恋人を待つ。」
番外編
時間は少し戻ります。
6月の第1週目の土曜日...の前日の金曜日の20時。
俺は7割くらい夕食作りが終わり、まだ両親が家路に着く連絡が届いていないので、それが来るまでお風呂を済ませて、両親から家に帰るメールが来ているかを確認する為にメッセージアプリを立ち上げると一番のところに”宮山彩乃”と名前が出ていた。
あやのから俺にメッセを飛ばしてくるなんて珍しいと思いながらチャットルームを開くと“明日10:30に二子玉川駅改札前に集合。買いたいものがあるから付き合ってほしい。どうせ暇だろ?拒否権はほぼ無い。バイトとか入って無ければ絶対来て!良いね?”と画面上に表示されていた。
俺は送られたメッセージ群を何度もスクロールしながら記載された文章に何度も目を追う。
俺からデートに誘う事は何度もあったが、あやのから誘うなんて珍しすぎる。
要件は何だろ…。
“好きな人が居るから別れて欲しい”“もう恋人として一緒に居たくない”
そんなマイナスな言葉が俺の頭の中でよぎる。
いやでもその可能性は無いだろ…。
それに買物に付き合ってほしいと言っているわけだし…。
ただ気になるのは、行く前日のそれも夜の時間帯にメッセを飛ばしてきたことだ。
「ただいま~~。たける~。ご飯ありがとうね?」
玄関のところから2人の声が聞こえる。
この夫婦いつも一緒に帰ってくるよな…。
俺は椅子から立ち上がりガスコンロに火をつける。
両親のラブラブさを目の当たりにすると甘ったるいコーヒーを飲んでいる気持ちになる。
食後には無糖のコーヒーを入れるとするか…。
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翌日.......。
俺は二子玉川駅の改札前に約束通り集合時刻の10分前には改札が見えるコンコースで待つ。
昨晩に突然メールしてきた張本人はまだ姿を現していないようだ。
大宮から行くとかなり遠くて移動には本当に時間がかかるし乗換回数も普段大学に行く時より増えるから遠いなぁと感じた。
それになんで今日は二子玉川に集合何だろ…。
俺も大学の友人の付き合いとかで都内でも色んな所に足を運んできたが、この地に降りるのは初めてかもしれない。
普段デートに行くときは基本的に山手線内の観光地及びデートスポットに行くことが多い。
二子玉川って多摩川を渡れば神奈川県川崎市だからほぼ神奈川県の入口に来たと言っても過言ではない。
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俺と彩梨は付き合って3年目に突入している。
告白したのは俺からで初めて“好き”だという気持ちを抱きその想いをぶつけた女性である。
俺は両親の遺伝によるものか持ち前の顔の良さから中学・高校生時代は女子から告白されることは日常茶飯事で、俺を好きになって告白してくれる異性はけっこう多かった。
俺にとって告白は多くの女性に好意を抱いて貰えることは嬉しいんだけど、学生生活においてこれは日常の景色でしかないのだ。
“告白”はもっと特別な非日常な物だと思っていた俺にとっては息苦しさを感じる言葉でもあった。
それにこの告白というものは“する側”ではなく“される側”というのは羨ましいと思われる人が男性の場合一定数居ると思うかもしれない。
でも実際のところは全てが綺麗に見える訳ではなく、伝えられたその“好きで付き合ってほしい”という気持ちを断ればその人が持つ何かを捻じ曲げその人の人生を左右させることになってしまうのかと思うと虚無感と申し訳なさが交錯しいつも複雑な気持ちを味わうのだ。
でもそんなことを学校内では美男子の自分がそう思っているなんて周りは気づかない。
それにそんなことを言ったら“贅沢を言うな”という声が殺到する事は間違いない。
みんな美男子である俺と付き合いたいという目当てで告白する人が多く先輩から同級生、後輩まで幅広く居た。
学校の生徒を代表される生徒会長にも中学、高校の時と告白されたこともある。
だけど、俺は全ての告白を断ってきた。
一番の理由としてはその告白してきた人の事をほとんど知らないケースが多いからだ。
それに自分に自信が持てず、この手の告白の時はいつも俊明に相談してアドバイスを求めていた。
自分の事なのに俺はそう言うことに関しては疎くてすぐ彼に頼っていた…。
そして事前に指定された告白場所の近くまでいつも俊明にはついてきてもらった覚えがある。
いま考えると俊明の気持ちを考えずに何度も相談をしたりその場について行ってもらっていたりしてもらった事を思い出すと彼には一生頭が上がらない。
でもこの謝罪の気持ちは未だに伝えられていない。
自分の不甲斐なさが悔やまれるところだ。
俺が女子に日常茶飯事に告白されていた理由は、中学・高校において学校に居る時は勉強・運動・コミュニケーション能力と自分でも陽キャと言える位置に居たことが大きい。
身長が低いのは唯一の難点ではあるが、顔も容姿も整っていた事がその要因なのかなと思う。
しかし、学校の一歩外に出ると完璧超人で高久丈瑠というネームバリューは崩れ去るのだ。
すぐにボロが出てしまう。
それに俺は昔からプライドが変に高いくせに気が小さくて臆病で小心者であった。
どんなに多くの人に告白されても、この部分が明るみになることが怖いので、断り続けていた大きな原因だと思う。
むしろ学校を出ると完璧超人並みの力を発揮するのは“俊明”の方である。
彼は勉強という面は妹の聖奈ちゃんに持ってかれた所はあるが、全く勉強が出来ないということは無く平均以上な学力の持ち主だ。
また、プライドというのは特に無くいつも冷静沈着で用意周到で周りが良く見えている性格で、強い心と身体を持っている。
身長だけが最大の欠点である俺をいつも守ってくれた。
心強い幼馴染だと思う。
話を戻して、その後大学に進むと入学してすぐは、今までと同じように告白されることもあったが、大学は全国から学生が集まるので、大学生活に慣れて3カ月も経つとそんなことはなくなった。
そんなある時に英語の授業でグループワークをする際に一緒になったメンバーの一人が宮山彩乃である。
彼女はかなり個性が強いというのが初めての印象だった。
見た目はかなり美人で身長も俺と大して変わらない。
髪型はセミロングの茶髪で俺は彼女の姿に惚れたことは付き合った後に分かった事だ。
性格はとにかくさばさばしていて、言動もかなり乱暴で自分が言いたい事をとにかく先に伝えて後になってそれが失言であったと理解して謝るような人である。
しかし、自分が考えていることや料理といった家事関係は手さばきが良く繊細な一面も見せ英語を操れる帰国子女の女の子という意外性もある。
俺はそんな彼女を待っているのだが、約束の10時になっても来る気配が無い。
彼女が集合時刻に遅れてくるのは珍しい…。
すると俺の頬をつつくような指の感触を感じる。
後ろを振り返ると俺の初恋で一目惚れした人物…。そう。彩乃が居た。
「おまたせ?」
「なぜ疑問形なんだ?一応集合時刻に間に合っているが、珍しく遅かったな?どうしたの?」
「わたし、10分前から“たけくん”の隣にいたよ?話しかけても全然反応しないだもん?私を10分も無視するなんて刑罰ものだよ?」
“たけくん”と呼ぶ人は俺の知り合いで“あやの”しか居ない。
顔の高さがいつもより同じに感じるなと思ったら、靴底が高い靴を彼女は履いていることに気づく。
「ごめん。少し考え事をしていてあやのに気付かなかったのかもしれない…。」
「なんか真剣そうな顔で考え事をしている“たけくん”の顔が久しぶりに見れたからゆるす。」
「まじ助かる!」
「でも服選びはちゃんと感想を述べてもらうからね?」
「お手柔らかに頼むよ?」
「どうだろうね?行こっか?たけくん。」
「ああ。そうだな。」
なんか分からないけど初めて付き合っている恋人がいつも以上に可愛い…。
丈瑠が幼馴染に考えている話はどうでしたか?




