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34、過保護な人たち


 王都にある中央神殿とは、この国にいる神官たちの中枢であり、とにかく豪奢なギリシャ神殿のような建物を想像していた私。

 実際、目の前にすると「そうでもなかった」という感想が出てしまう。イアル町の神殿よりもひとまわり大きいくらいかな?


「入口の建物から馬車に乗るぞ」


「へ? 馬車ですか?」


 訂正。神殿ではなくて、これは門だったようです。


 ユリウス君とマリーちゃんはイアル町で修行し直すとのこと。

 泣いているマリーちゃんに美味しい干し肉をあげて慰めたり、感極まってディーンさんに抱きついたユリウスが容赦なく投げ飛ばされたりしていた。


 坊っちゃまと爺やさんは、中央神殿で大きなイベント?があるらしく、しばらく王都に滞在するとのことだった。

 坊っちゃまは神官マニアだからね。私の神官服が欲しいとか無茶言って、ディーンさんに容赦なく投げ飛ばされていた。一見、坊っちゃま至上主義の爺やさんが全然怒らないのが不思議なんだよね。


 そんなことをつらつらと思い返していると、案内の神官さんが懐から何かを取り出す。


「お疲れでしたら、これをどうぞ」


「これは……」


「飴です。甘いもので疲れがとれますよ」


「ありがとうございます」


 案内してくれる神官さんは、薄茶色の髪をした四十代くらいの優しそうな男性だ。

 まぁ、この神殿は男性しかいないんだけど。


 ディーンさんの鼻がピクっと動いたのが分かる。

 私が受け取らないのを見て、神官さんも心得ているのかディーンさんに飴を手渡してくれる。彼が一粒口に放り込んで確認した後、私の手元に飴がきた。

 なんとなくだけど、ディーンさんは匂いだけで毒が入ってるの分かりそうだなぁと思ったり。


「あ、これ美味しいですね」


「教会で売っているものに、私が『祈り』で体力が回復するようにしたものです」


 なるほど。さてはこの神官ひと、有能だな?

 今回『巡礼神官』になる試験を受けるだけの私に、なぜここまで有能な人が案内役についてくれたのかは不明だけど、せっかくの機会だ。色々学ばせてもらおう。


「食べ物に『祈り』を捧げるとは、すごいですね」


「いえいえ、私は甘味の神の加護があるからできるだけですから」


 甘味の神様とかいるんだ……ひとだろう?

 そしてこの世界における『祈り』の力が万能すぎる件。


「加護があれば、それに基づいた付与が可能……」


「私も最近気づいたことで、他の神官には受け入れてもらえない考えなのですよ」


 ん? ちょっと待てよ?


「なぜ、それを私に?」


「貴方ならば、この知識を有効活用してもらえると確信しておりますから」


 なにゆえ?

 確かに私は神官としては異端だと思う。神様を身近に感じているどころか友達感覚だし、そもそもこの世界で過ごした時間が短すぎる。

 もしかしたら、この案内の神官さんも偶然じゃなくて、私のために選ばれた人なのかもしれない。いや、そうに違いない。(確信)


「……神様って、過保護ですよね」


「愛されているということですよ」


 案内役の人の言葉に、ディーンさんが声をたてずに笑っている気配を感じる。

 ぐぬぬ、思いっきり笑っていただいて良いのですよ!!




 門から本殿まで馬車で四半刻もかからなかったけれど、歩いたら大変だろうなってくらいの距離だったかもしれない。

 なんでこんなに広く作っているんだろうって首をかしげていたら、案内の人が教えてくれた。


「ここでは年に数回ほど式典が開かれるのです。王家の方々や貴族の方々を迎えるので、警備の都合上広く造られております」


「そういえば近々神殿で何かあるみたいですね?」


「はい。大神官様のご都合次第なので、今月中に……としか言えないのですが」


 へぇ、準備とか大変そうだな。

 こんな忙しい時期に試験とか、大丈夫なのかしら?


「この本殿が試験会場となります。お疲れでなければご案内しますが、いかがいたしましょう?」


「お忙しいのでは……」


「試験を受けられる方をお世話するのが私の仕事ですから、お気になさらず」


「そうですか。じゃあ、本殿の案内をお願いします」


「かしこまりました」


 ディーンさんは言わずもがなだけど、私もこの世界に来て細マッチョになったおかげで、かなり身体能力が高くなった。

 さらに言えば、テオ先輩からマンツーマンで受けたトレーニングで、一日フルに動いていても疲れない身体になっているのだ。(ばばーん)

 基本的に『巡礼神官』は、フルアーマーで動く戦士並みに体力がないと務められないとされている。

 神官として世界を巡り、時には誰かを助ける場面もあるだろうその時に「動けませんでした」では通用しないのだ。(ばばーん)


「ふふ、第一試験突破ですね。おめでとうございます」


「へ?」


 まさか、もう試験は始まっていたとは……。


「王都に来るだけで疲れたなどと言う神官に、巡礼は無理ですからね」


「確かにそうですけど……はっ! もしやあの飴も!?」


「ええ。あの場ですぐ受け取ってしまったら、今回の試験は終わりとなってました」


「うわぁ……厳しいですね」


「出来る限り、身を守る術を学んでいただきたいですから」


 これはかなりの人数が第一試験で落ちてそうだなぁ。

 ディーンさんを見たら、このやり取りについて特に何も感じてないようだ。


「お前の抜けているところは、俺がいれば問題ない」


「抜け……そ、そんなことないですよ! 私はしっかりしてますよ!」


「どうだか」


 やれやれといった様子のディーンさん。

 ぐぬぬ、さっきといい今といい、ぐぬぬ。


 ぐぬぐぬしている私を放置したディーンさんは、案内の人に向かって問いかける。


「さっきの飴に付与したのは?」


「アレについては私が伝えたかっただけです。試験とは関係ありません」


「そうか。ならいい」


 ちょっと殺気みたいなのを感じたけど、すぐに消えたから気のせいだったのかな?

 案内の人も笑顔のままだし。


「神々もそうですが、クリス様の周りは過保護な方が多いようですね」


「え? そうですか? ……ディーンさん、どう思います?」


 そう言いながらディーンさんを見たけど、いつもの数倍ほど無表情だったので、私はそっと口を閉じたのでした。


お読みいただき、ありがとうございます。

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