5話 最初の街に到着
「ケンイチー、もう行くよー」
「待ってください、もう少し!もう少しだけ…」
ルディ君は仕方がないとため息をつきながら、人通りの邪魔にならないよう移動してくれた。
コルズブという街に到着した自分たちは、街の入り口にある市場にある雑貨屋にいた。
「これはどういう仕組みで…それにこれは、あれも、はぁ…すごいなぁ」
今自分が手にしている物は、掌サイズのガラス瓶に何種類かの植物を入れて飾られているアイテムで、蓋を開けると光る仕組みらしい。
こちらの世界でいうところの懐中電灯みたいなもので、動力が電池か魔素かの違いである。
「こうして蓋を開け、中にあるロゼリアという植物に魔素が付着するとこのように光る性質があるんです」
お店の人だろうか、いかにも魔女っていう格好をしたお姉さんが商品の説明をしてくれる。
「この瓶の縁に、小さく魔法陣を組み込んでおいて蓋をしている状態であれば魔素を取り除き、蓋を外すと魔素を取り込むようにしています」
そう言われて、よーくみると細かく魔法陣が組み込んである。
「これは旅の人が野営をするときの明かりとしてよく使われますし、最近ではお洒落な置物としてベッドの脇に置く方もいらっしゃいますよ、よければ意中の方にでも…」
「えっと、すみません…そういう人はいなくて…た、旅をしていることもあり」
ただでさえ人見知りでドギマギしてしまうのに、妖艶な雰囲気を持つ美人にさらに緊張してしまう。
「あら、やはり冒険者だったんですね…見たところ、私と同じ魔法使いといったところでしょうか?」
艶やかな視線を全身に感じながら、背中に妙な冷や汗が垂れる。
「ええ、そうなんです…そうだ、冒険者ギルドに行かなきゃいけないんだった」
「何か依頼でも?」
「いえ違うんです、ライセンスを発行しなくちゃいけなくて」
「なるほど、新人冒険者だったんですね…そうだ、よかったらこちらどうぞ」
「こちらは?」
「フフフ、私が作ったお守りみたいなものです」
キーホルダーくらいのサイズで、花をモチーフにされているのだろうか、可愛らしいデザインで小さい色とりどりの鉱石が散りばめられていた。
おそらく繋げられているこの紐でカバンや小銭入れなんかにつけておくのだろう。
「特に何かを付与させるような魔道具とは違うけど、お守りみたいなものよ…あなたの旅が素敵なものになるようにね」
「すみません、ありがとうございます」
他にも魅力的な商品があるけど、何も買わずに長居するのは失礼だと思い後ろ髪を引かれながらも店を出る。
すっかり待たせてしまったルディ君がやれやれといった様子で伸びをする。
「やっと終わった?人には驚いていないようだけど、まさかアイテムに食いついちゃうだなんてね」
「いや、面目ない…見たことないものばかりで…」
「ははは、まぁこの街にはしばらくいると思うから、あとでまた見て回ったら?」
「そうですね、まずはやることをやって後でゆっくりするとしましょう」
ルディ君と話しながら冒険者ギルドへと向かう。
よくよく見てみると、先ほどのお店だけでなく、様々なお店が軒を連ねて活気のいい声が飛び交っている。
ルディ君が言うにはコルズブという街はそんなに大きな街ではないらしい。
しかし、貿易が盛んな街で人も物も忙しなく行き交っている。
「なんだか不思議な感じですね、ルディ君みたいな人たちもたくさんいるみたいですし…」
「冒険者だけでなく、商人や貴族も利用するからね護衛の人とかここにくる人は本当色々だよ」
獣人と一括りにしても、その種類は様々でルディ君いたいな狐人族だけでなく、猫や犬、ウサギと言ったわかりやすい獣耳の人たちもいれば、三つ目の人やオークみたいに巨体の人、ドラゴンのような雰囲気の人と本当に様々である。
大きな港があり、そこから王都や他の大きな街につながっていることもあって、街はとても栄えている。
「さて、ついたよ!ここがコルズブの冒険者ギルドだよ」
「ここが…」
三階建だろか、とても立派な木造建築で中も広そうだな。
「さぁさぁ、ケンイチはこっちー」
「ちょっと!?ルディ君?」
建物を見上げていると、痺れを切らしたのかガシッと手を掴まれてルエィ君に引っ張られていく。
あ、掲示板ってあんな感じなんだ…
引きずられながら入り口横に設置された掲示板をチラッと見てみる。
何種類かの枠によって線引きをされていて、依頼の紙なんだろうか、所狭しとピンで留められていた。
「すみませーん!」
「はい、今日はどのようなご用でしょうか?」
ルディ君の掛け声で、奥から職員の方が窓口にやってきた。
最初は自分と同じ人間の方かなと思っていると、耳が特徴的だった。
もしかしてエルフの人かな?
さらりとして金髪で、その碧眼もまるで宝石のような輝きを感じさせる。
美しいのだけど、その美しさは強く主張するようなものではなく、程よく控えめで気品を感じさせる。
ギルドの制服なのだろうか、重厚感ある紺色の衣服によって、よりきらびやかに見える。
「冒険者ライセンスの発行に」
「そうでしたか、これから冒険なのですね…無理をしないよう頑張ってくださいね、それではこちらに…」
ん?もしかして、この人…ルディ君がライセンスを発行すると勘違いしているのだろうか。
まぁ、ルディ君は見た目も少年だし、パッと見て自分とルディ君を見比べるとそう思うのも無理はないか。
「あ、ライセンスを作るのは僕じゃないです、ケンイチです、僕はもうライセンス持ってるので」
「そうだったんですね、ごめんなさい勘違いしちゃって…えっと、ではケンイチさん?こちらどうぞ」
うっかり勘違いしてしまったのがよほど恥ずかしいのか、頬を染めながら書類を探し始めた。
雪原のように真っ白な肌をしているからか、上気した様子がより鮮明に見てとれる。
「ありがとうございます、えっとこれに書いていけばいいんですか?」
「は、はい!わからないところは空白でもいいのでお願いします」
まだ少し同様していたのかな?
えっと、何々…
まずは名前ーは、ケンイチっと。
苗字も書くと貴族とか言われちゃうかな?
めんどくさいから名前だけでいいか。
使える魔法は、一応全属性使えはするけど、大袈裟に騒がれるのは避けたいな…一応基本属性だけ書いてあとから習得したとかにすればいいか。
出身は、日本って書いてもわかんないよなー、不明ってことにしておくか。
戦闘経験は、あり。
えっとパーティはすでに決まっているかどうかは…ルディ君と一緒にいるけど、パーティって認識でいいのだろうか。
一緒に旅をしているだけで、でも一緒に戦っているし、うーん…空白。
んで、他の質問も答えられるのは書いてっと。
最後に職業は魔法使い…で大丈夫だよな。
「すみません、書けるところだけですが終わりました」
「はい、確認させていただきます…ケンイチ様…へっ?!」
ん?何やら素っ頓狂な声が聞こえた。
「何か問題でもありました?」
「いえいえ!ごめんなさい、全属性を扱えるってびっくりしてしまって、ケンイチ様すごい魔法使いなんですね」
「えっと、大したことないですよ、扱えるだけで威力とかも全然ですし…」
基本属性だけでも全て扱えるってのはそれだけですごかったのか…
「いやいや、ケンイチはすごいんだよ!僕も一緒に戦ってびっくりしたもん」
後ろから何故か自慢げなルディ君…
「そうだ!ねぇねぇお姉さん、ケンイチって名前でライセンスをなくした人いる?」
「もしかして紛失されたとかですか?少々お待ちください」
そう言って、ギルドのお姉さんが足早に奥へ確認に向かいすぐに戻ってきた。
「申し訳ありません、少なくとも国内でケンイチ様の名前のライセンスで喪失届はありませんでした」
「そっか、ケンイチの記憶がないだけでもしかしたらって思ったんだけど…」
「大丈夫ですよ、ルディ君ありがとうございます、まぁその辺の記憶も思い出すために旅をしているわけですし、新しく作ってしまった方が早いでしょうから」
「そうだよね、わかった!あ、そうだ…ライセンス発行している間に素材買取してもらったら?」
あぁ、そういえば道中倒した魔物たちを持っているんだった。
「何か売ることができるものがあるんでしょうか?」
書類を確認したお姉さんが首を傾げる。
「はい、ルディ君とここにくる前に近くの森で狩ってきた魔物がいくつかあって、丸々あるんですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、討伐状態にもよりますが査定させていただき買取可能となれば買取させていただきます」
そう言いながら、買取相場などを書類を交え説明してくれた。
ランクに応じて金貨いくらという基準があって、討伐状態によって差し引かれると、まぁ焼きすぎてまる焦げだったら意味ないだろうしな。
「それで、討伐した魔物はどちらに?外でしょうか?」
あ、収納魔法だしそうなるか…
「いえ、こちらなんですが…まずはこれかな」
と、大きな狼の頭を取り出す。
「っ、うひゃあぁっ!!!??」
今日一番のお姉さんの素っ頓狂な悲鳴がギルド内に響き渡った。