4話 一緒に旅をしよう
「そうなんだ、ケンイチは自分の国と記憶を探すために…」
「そうなんです、何も手掛かりがない状態で記憶も曖昧なので今は知らないことがかりなですよね」
焚き火を二人で囲みながら、なるべく重たい雰囲気にならないよう軽く話を進める。
「ねぇ、もしケンイチが大丈夫なら一緒に旅をしない?」
何かを決心したかのようにルディ君が力強い視線をこちらに向ける。
一緒に旅か、見知らぬ世界を一人で行くよりわかる人についていく方がやりやすいだろう。
そもそも物価とか街に何があるかとか、どういう世界観なのかとかまったくわからないわけだしね…
「それはありがたい話なんですが、ルディ君は大丈夫なんですか?修行の旅なんでしょう?」
せっかくの嬉しい誘いではあるが、ルディ君の目的を邪魔するようであれば遠慮しようと思った。
「大丈夫!これも武者修行の一つだよ、困った人がいるんだったら助ける」
いやぁ、本当清々しいくらいに眩しい少年だな。
「それに、ケンイチはこの世界のことを忘れちゃったんでしょ?だから手伝うよ」
「それでは、お言葉に甘えて…宜しくお願いします」
「うん!決定だね、さっきチラッて見えたけどブラックウルフも倒せるんでしょ?ケンイチの強さを見れば僕ももっと強くなれそうだもん」
ルディ君わりと戦闘狂なのかな?
まぁ武者修行って公言しているわけだから、好戦的な一面もあるんだろうなぁ。
「村にいたときは隣の家の兄ちゃんに鍛えてもらってさ…」
それと、ルディ君はコミュニケーション能力めっちゃ高いな。
気遣ってか自分が話したいからか、おしゃべりが止まらない。
自分としてはありがたいんだけどね。
「さて、そろそろ寝ませんか?もう夜も更けてきましたし…」
「あ、そうだね…ごめんごめん、久しぶりに人に会って楽しくてさ」
そう言いながら、照れ笑いを浮かべるルディ君、この子はお姉さんにモテるタイプだろうな。
ーーー
ルディ君と組んで旅を続ける中、いくつかの魔物を討伐してルディ君の戦闘スタイルがわかってきた。
「じゃあ僕から!」
敵を見つけるや否や駆け出すルディ君。
自信を風魔法い乗せて突っ走るからあっという間に間合いを詰めて、相手が反応するよりも前に剣で切りつけていく。
手数で勝負という感じで、一撃一撃はさほど重たいわけではないだろうが、その手数がとんでもない。
「あ、やっべ」
相手の動きをよく見ずに自分の直感で動いている節があり、たまに相手の攻撃がカウンターのようになるタイミングがある。
おそらく何度か、こういうタイミングがあった反撃に遭っているようだが、今は違う。
「ルディ君気をつけて」
すかさず敵とルディ君の間に結界魔法で壁を作り、攻撃をいなす。
「ケンイチありがとう!」
すぐさま体制を立て直したルディ君が止めの一撃を放つ。
「よっしゃ、次々っ!!」
あっという間に何匹かの魔物がやられていく。
火力不足だった自分としてはルディ君の攻撃力はとても助かる。
まぁ、若いこともありとんでもないチョンボをするときもあるけど、それを差し引いても悪くはない。
「これで全部かな、ケンイチがいると戦いやすいね」
「こっちも、こんなに早く片付くとは思いませんでしたよ」
「じゃあお互いにとってもいいってことだね」
「そうですね、自分だとこの数はもう少し苦戦しますし、ルディ君の高い攻撃力は本当魅力的です」
「そう言ってもらえると嬉しいな、鍛えてる甲斐があるってもんだよ」
討伐した敵を収納魔法で取り込んでいるとルディ君があるカードを見せてくれた。
「そう言えばケンイチってどれくらいのランクなの?」
「ランク?」
「そうそう、冒険者のランクだよ、ちなみ僕はBランク」
おお、異世界っぽい。
ん?ルディ君その歳でもうそんなに高いの!?
「僕は10歳の頃にライセンスを取ったからね、それに狐人族は戦闘力も高い方だからすぐランクは上がるんだ」
なるほど、好戦的な一面は血のおかげってことか。
「まぁ、それでもCランクかBランクで止まっちゃうんだけどね、だから武者修行なんだけどさ」
なるほど、なるほど、まぁある程度ランクが上がるとそこから難しくなるのはどこでも一緒なんだろうな。
「うーん、自分はライセンスはないのでランクはわからないですね」
「そうなの?」
「はい、話してる通り、記憶も曖昧なのでよくわからないんですよね」
「あー、そっか…ケンイチの強さだったら結構上のランクだと思うだけどもったいないな」
「そうは言われてもわからないものはわからないので、新しく作るとかですかね」
ルディ君はもったいないと言ってくれるけど、そもそも今の自分がどれくらいかわからないからなんとも言えない。
「じゃあ、近くの街に行ってそこのギルドに発行しもらおうよ」
「そうですね、そろそろこの森は抜けたいので…「じゃあこっちこっち!」」
たまにルディ君って食い気味にくるなぁ…
ルディ君に案内され、あっという間に広い街道に出てきた。
それこそ今まで自分が歩いていた時間ってどうなんだってくらいあっという間に。
いや、あれだけ歩いてきたからこそ、ここまで来たのだと考えよう。
「馬車で行くのもいいけど、今お金ないでしょ?」
確かに、この異世界にきて収納魔法で魔物の死体はいっぱい持ってるけど。
「歩いて行ける距離だから大丈夫だよ、あと冒険者ギルドで魔物売れるからそこでお金をゲットすれば大丈夫」
「あ、買取とかしてくれるんですね、なんとなく持ってましたけど、そういうことならありがたい」
放っておいたら魔素の変化によってはアンデットになると本で見てからは討伐した魔物や動物は食うか収納するかにしている。
魔力によって左右するのか、収納できる上限はわからないが今のところまだ余裕はある。
とはいえ、ずっと死体を持ち歩くのは気分が悪いので正しく処分ができるなら早くそうしたい。
「ケンイチ、ぼーっとしてたら危ないよ」
考え事していたら、後ろから馬車が物凄い速さで駆け抜けていった。
びっくりはしたものの、自分とルディ君以外にちゃんと人がいたことに感動を覚える。
「ちゃんと他にも人がいたんですね…」
「ケンイチ何言ってるの?当たり前じゃん…」
真っ直ぐが故のきつい言葉…いや、まぁそうなんだけどね。
「記憶がはっきりしてからはずっと一人で、それこそルディ君としか話していなかったから…」
「はは、確かにそういうことならそうかもね、それだと街について人の多さにびっくりするんじゃない?」
「さすがにそこまで驚くことはない…はずです」
一応、この世界に来る前はぎゅうぎゅう詰めの電車も経験しているから人の多さは見慣れているはず。
しばらく孤独だったけど、それでも人を見て驚くだなんて…
「あ、そろそろ街が見えてきたよ」
ルディ君の無邪気な声を聞いて視線を向けると、何やら賑やかな街が見えてきた。
やれやれ、ようやくこの世界の文化を見ることができる。
何があるんだろう、また年甲斐もなくワクワクする自分がいた。