プロローグ
まぶた越しからでもわかる明るさに、朝になったのだと理解する。
明るい刺激に頭を働かせながら、ふと寝る前にテレビで見た週末の天気予報を思い出す。
たしか、今日は土砂降りの予報でこんなに晴れるわけはないはず…
そう考えながら、電気をつけたままだったかの思い出すがそんなことはなかったはず…まぁ天気予報だから外れることもあるだろう。
しばらくすると思考もクリアになる。
そういえば、目覚ましの音は聞いていない。
珍しく目覚ましよりも早く目覚めたのだろうか。
悪い気はしない、こうなったら目覚ましの音より早く起きて優雅な朝食と洒落込もうかな。
と言っても、自分は裕福な家の者ではない。
どこにでもいるごく普通のサラリーマン。
まぁ背が周りより少し高いくらいの特徴で、あとは「知り合いに似てるよね」とよく言われるほどの平凡具合である
そんな自分が住んでいる家も築年数が自分の年齢の倍はあって、還暦を超えたアパートの2階。
一人寂しく生活する程度には困らない1Kの六畳一間の部屋である。
さて、目覚ましの音で不快な気分になる前に起きるとするか。
せっかく昨日仕事を終わらせてゆっくりと過ごせる休日になるわけだし、天気もいいから少し外を散歩してもいいかもしれないな。
と、充実した休日の計画を頭に思い浮かべながら体を起こす。
途中、いつも寝ているマットレスとは違う感触に疑問を抱きながら…
「…何これ…」
体を起こして、まず目に飛び込んだいつもと違う部屋の様子。
確かに自分が住んでいる部屋は築年数が古く、まぁ言葉は悪いがボロアパートである。
それでも自分が住む前に軽くリフォームはされているのでそれなりに小綺麗な部屋でもある。
しかし、今自分がいる部屋は部屋と呼べるところではない、あえていうなら小屋?
「えっと…」
あまりの部屋の変わりように二の句が継げない。
壁も床もボロボロの木の板を並べただけのような状態で、日が差し込んでいる窓にはガラスなどなく、枝か何かで作られた格子が嵌められているのみ。
いくつか木箱が重ねてあるが、その木箱もボロボロで継ぎ目から中に何が入っているか丸見えの状態である。
部屋の隅には蜘蛛の巣があるし、埃だらけだし天井を見てみると屋根裏が丸見えの状態で大きな梁もいつ崩れてもおかしくないくらい腐食していた。
屋根も隙間だらけで、雨が降ればとんでもないことになりそうだ。
「天気予報外れてよかった」
いや、そうじゃない!
まずはここがどこなのか確認しなくては…
ひとまず、このうちのアパートよりも何倍もボロい小屋がどこなのかを調べないと。
窓をのぞいて外を見てみたら自分の予想を遥かに上回る景色が広がっていた。
「は?」
絶句するしかない。
そこに広がっているのは深々と生茂った森で、まさかと思い小屋を出て周囲を見渡してみても森しかない。
つまり、どこかはわからないがここは森のど真ん中であった。
「昨日は普通に帰ったし、酒とか飲んでないはずだよな」
もしかしたら間違えてここまで来たのかもしれない。
酒によって電車で寝過ごして田舎の駅で降りてふらふらと…
いや、あり得ない。
いくら寝過ごしたとしても、都心に住んでいるからこんな山奥まで行くことはない。
そもそもしっかりと仕事を終え、家に帰り風呂に入って食事がめんどくさくなったからとテレビを見ながらベッドで横になり、天気予報を見て電気を消して寝るところまではっきりと覚えているではないか。
さて、どうしたものかと思い悩んでいると近くの草木からガサっという物音が聞こえ何かが飛び出してきた。
「な、なんだこれ!?」
飛び出してきたものを見て自分は驚いた。
サッカーボール程度の大きさで、半透明の楕円形のものがピョンピョンと跳ねている。
何かに似ているなと思い考えていると、浜辺に打ち上げられたクラゲを思い出す。
そのクラゲと違うのは、こっちのものは跳ね回っているということか。
なんだか不気味だ…
そんな不思議なものに目を奪われていると、そのものを追っているのかツノの生えたウサギがやってきた。
ツノが生えているウサギだなんて図鑑でも見たことがない。
さらに灰色の犬みたいな、どちらかというと狼?が現れる。
出てきた動物たちは俺に気付く様子はないみたいだが、何かあるといけないと思い急いで小屋に閉じこもり窓から様子を伺う。
すると、狼が一瞬雄叫びをあげたかと思うと口から炎を吐き出した。
「ええええ!?」
得体の知れないクラゲ(?)にツノの生えたウサギ、そして火を吐く狼。
一体自分の目の前で何が起きているのか、理解が追いつかない。
「もしかしてこれは、夢か…」
そっちの方がまだ信憑性が高い。
やけに現実感が強いが、夢の世界だという方が納得できる。
ということは、ここで寝たら本当の意味で目が覚めるだろう。
そう考えながら、さっきまで寝ていた場所で体を横にする。
目を閉じる瞬間、ふと不安になり小屋のドアをしっかりと閉じる。
簡単に開かないことを確認し、自分は再び目を閉じる。
「まぁ面白い夢ではあるからもったいない気もするけど」
そんなことを考えながら、ゆっくりと眠りにつくのであった。