表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 大和戦治郎

 風が吹いていた。

 春に入ったとは言え、まだまだ肌寒い風を、半袖で受ける。

 世間では、コロナコロナと騒がれる毎日。

 いつまでも家にいると、気が滅入る。

 家を出て、待ってくれない書類を提出するのに必要な住民票を、取りに行く。

 いくら横浜といえど、海風なんて感じることはない。

 こんな社会でも、仕事をしなければいけない人達は大勢いる。

 車で区役所まで向かう途中、家の解体をしている業者を、何回か見かけた。

 前に、高校の入学式の帰り道、学校から出るまでの道で頭の中で考えた詩を思い出した。

『入学式の後、学校の校門へ向かっていると、気持ちいい風が吹いてきて、制服の裾を、揺らしていった。』

 あれから3年。もう大学生。

 大学に入学したらしいが、中止になった入学式。始まることのない授業。そのどれもが、自分が学生であるという意識を遠ざけていく。

 あれ?俺の学生生活、どこ行った?

 最初、学校の開始が遅れるという話が来たとき、少しはよろこんだ。

 だが、今では虚無だ。

 何もない日常。刺激のない日常。

 そんな日常でも、大学に出さなければいけない書類。

 奨学金を受けるために必要な書類。

 待ってくれない書類たちは、この虚無のような生活の中での唯一の刺激と言っても過言ではない。

 住民票を取りに行った帰り、ふと止まった交差点で、車を路肩に止め車を降りる。

 周りを歩く人は、だれもマスクをしっかりつけている。

 だが、俺はつけない。

 こんな状況だ。マスクをつけなければいけないと、言われる状況だ。だが、刺激がない日常は、張り合いがない。

 もちろん、マスクをつけないことで刺激を求めるわけではない。

 外の空気を、外で吸いたかった。

 そんな時、ふと顔を上げると、家の上に流れるものを見つける。

 鯉のぼりだ。

 なぜか、これを見た瞬間、言葉が口からこぼれた。

「…そうか…、もう5月か……。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ