アレッポ高原にて⑤
連絡将校のユルドゥス中尉を始め、ドンドルマ団のスィベル・ジャン少尉はノラと共に、ハリデ伍長の運転する「ボモンティ」に、デカ少尉とイェディは2号艇の「エフェス」、ドクズ、セキズの双子は3号艇の「ツボルグ」へとそれぞれ分乗する。
ガンシップ化に改修を終えた「ボモンティ」に対し、残りの2艇はノーマルなので畢竟、ボモンティが露払いをする事となる。
ドクズ、セキズはスナイパー小隊なので、目端が利く。なので後方よりの偵察任務を与えている。
目指すはG-9「アレッポ高原」だ。
初出動なので、それぞれに緊張して気を張り詰めている。それにしても……
「カーラマン、どうしたんです?」
目をキラキラさせてユルドゥス中尉が訊いてきた。なんか子犬がじゃれついてきた感じで、ちょっとムズムズするなあ……
「いや、なに……クンドゥズは少しながらも畑があるんだな…って」
そう。今まで見慣れなかった違和感。大ユピタルはどこへ行っても荒野の赤黒い大地と岩肌ばかりで、こうして緑が生い茂っている場所など見た事無かったのだ。
日照不足問題と年中冬という気候の中で野菜を作る事自体、不毛な行為でしかなかったのに、ここでは僅かながらでも成功している。それはとれも尊い事のように思えた。
王女が言うほど、ヘクマティアル将軍は悪い奴じゃないのかもしれないな。
そのうち畑は終わり、アレッポ高原に向かう一面がとてもキレイな花畑に変わった。
「わ~キレイ! ワタシ花なんて初めて見ました!!」
いままで以上に瞳を輝かせてユルドゥスがはしゃいでいる。注意を促すも、ノラもまんざらではない。
「隊長、あまりに腑抜けていると審査対象ですよ?」
冷たい目でため息交じりにスィベルが言い放つのを聞いて、ノラ、ドン引きする。
えええ…、はしゃいでるのオレじゃなくてユルドゥスだよぉ?
…とはいえ、それで部隊全体が緩むようなことがあっては確かに自分の落ち度ではあると思い直し、警備を促す。
その内、家もまばらになり、花畑も途切れていつも通りの荒涼たる見慣れた風景が眼下に広がり始めた。
今日は初日という事もあってなのか、今のところ敵らしい影は全然現れず、至って平和なモノだった。
「こちら1号艇、異常なし。後続は異常ないか?」
<こちら3号艇。のどかなもんです>
<チキショーめ、2号艇も同じだ。そろそろ昼飯にするか?>
エフェスに搭乗しているデカの提案に乗っかって、見晴らしの良い所で昼飯を食う事になった。
「どやさ、イズミル隊名物、カレーパンじゃ!」
デカが例のヌガーを放り込んでカレーの蒸しパンを作ってやると、ユルドゥスは目を丸くした。
「むむむ…! これは、美味しいです。なんというアレンジ!」
その向こうでは、難しい顔をしたスィベルがブツブツ呟いている。
「レーションを勝手に調理しているとは…これは審査ものですね……」
「どうだい、シヴァス隊よりも良いだろう?」
ちょっとだけ鼻高々に自慢したら、途端に顔を真っ赤にして否定しだすユルドゥス。
「そんな事ありません! シヴァス隊は…キュベレイ中佐は最高なんです!」
「まあまあ、冗談だってば。そんな本気にしないでよ……」
「シヴァス隊は……女にとっての最後の砦なんだッ!」
何か…尋常ではない。今までのユルドゥスとは違い、どこか挙動不審ですらある。
その時、グェン軍曹がスタスタと現れて、ノラのオデコを軽く叩き、そして一言。
「まあ取り敢えず謝っとけ」
呆気に取られていたが、雰囲気が悪くなるのは得策ではないと思い、すぐに謝った。
「いや、悪かった。余計な事を言ってしまったね」
それこそ軍規とか色々考えると、圧倒的に理不尽なのは全部呑みこむ。敵地である事と、なんだかんだで、別部隊からの客である事、そしてなにかグェンが言いたげな顔をしていたからだ。
とりあえずそれで場が和んだので、軽く胸をなでおろすノラ。しかし何かシヴァス隊にはあるのかもしれない。いつかどこかで訊き出していければいいな…とユルドゥスとグェンを見て思った。
「軍規が緩い…審査事項ね」
スィベルがまたボソリと呟き、目を光らせたのでノラは背筋に悪寒が走った。
今場所の幕内は翔猿が台風の目ですね。それと、千代の国が十両まで復帰してくれたのが何より嬉しいです! 宇良も幕下上位まで帰ってきましたね。
それと木村玉治郎は先代木村玉治郎に憧れて「玉治郎」の襲名に拘っていたのに、もしかしたら式守伊之助に昇進してしまう可能性があるんですが、その時「玉治郎」の名前を捨てる事が出来るのかが気になります。先代玉治郎も最終的には伊之助になったから、大丈夫なんかな?
木村晃之助が昨日から復帰したのも嬉しいです。ああいう教頭先生タイプが居ないと、土俵が締まりませんよ!
え、作品の話しろ?…すみません。




