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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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アレッポ高原にて④


 クンドゥズ司令部のブリーフィングルームに通されると、早速各自にクンドゥズ州の地図が配布された。

 「ご覧頂いている地図は、クンドゥズ州の地図です」

 言わなくても分かる事をヘクマティアル将軍が勿体ぶって発言する。

 「全体を九分割して、左上からA~Iに振り分けております。更にそのマスを九分割し、それを1~9で表記しております」

 なるほど、全部で81マスに区分けしてあるのか。

 「A~E地区は我々が掌握している地域です。FとI地区は概ねこちらが優勢な地域となっております。ですが……」

 そこで振り返って、ブリーフィングルームに掛かっていた大きな地図をポインターで指し示す将軍。

 見ればGとH地区が面白いくらい真っ赤に塗られている。

 「このG地区のG-5、G-6、G-8、G-9の重点的な掃討作戦をお願いしたい」

 「質問宜しいでしょうか?」

 デカが挙手して了承を受ける。

 「地図ではG-2地区かG-3地区を侵入経路とするのが妥当だと思いますが、ソコも真っ赤だという事は、四方を敵に囲まれる可能性も出てきますが……」

 「フッ、だから君達にお願いしたんじゃないかね。どんな苦境でも勝利に導く伝説のカーラマンの部隊と聞いているがね?」

 何を今更と、鼻で嗤うヘクマティアル。上を向いたまま憤然とデカが着席する。

 「ああ、因みに前線基地はココ、クンドゥズから出てもらう事になる。地図で言うとE-6のポイントだ。しかし、毎日同じ巡回経路だと敵に察知されて奇襲を受けるので、毎回ルートは変更する様に」

 コレは現地協力員が居ないと何もできないぞ…そう思ってデカに目配せすると、察したのか軽く頷いた。

 「さて、ハイランドのお嬢さんはこの司令部を居住区としてお使いいただきたいと……」

 「いや、それには及ばん」

 今まで黙って聞いていたライラ王女がピシャリと断った。

 「わらわはナザーウ・ボンジュー内の作戦室を以てイズミル隊の司令部とする…何か問題あるかの?」

 「…いえ、特には」

 「わらわは成長期じゃ。夜は安心してゆっくり寝たいからの~。なんせ、ヘクマティアル一族は暗殺ばかりでお主しか残っておらぬからな!」

 「いえ、我が一族は健康面に問題を抱えておりまして、決して世間が言う様なデマは事実ではないのですよ……」

 将軍の弁明何するものぞとハハハ!…と高笑いする王女を見流し、そっと将軍を盗み見れば、この時ばかりはヘクマティアルの鉄の笑みが崩れ、引き攣った笑いしか出来なかった様である。

 


 「もう、止めて下さいよ! 無駄に挑発するのは~」

 鼻を明かした事に上機嫌になって艦へと戻る王女へ、お小言をつい言ってしまうノラ。

 「なんじゃ、本当の事言って何が悪いんじゃ」

 全然悪びれる様子もない王女。フと気になって、さっきの真意を訊いてみる。

 「あん? ヘクマティアル一族の歴史? さっき言った通り身内での殺し合い、暗殺が常に身近にある、血みどろの歴史よ」

 詳しく聞けば、自分が生き残るためには昨日の敵とも平気で手を結び、一方で仲違いをさせて生き残りを図ってきたのだそうだ。権謀術数渦巻く中で、兄弟とて敵味方になる事も珍しくなく、その時は容赦なく生き残るために切り捨てるのだそうだ。

 ヴ帝国や北部同盟、アトゥンの火だけでなく、JPR(社会主義国)とも繋がっているというのがもっぱらの噂だ。どこに軸足があるのか分からない相手は怖い。

 「―と、言う事でわらわは己が任務で精一杯なので、あとは任せたぞ“カーラマン”」

 「え、王女の任務とは?」

 「“生きて帰ること”じゃよ」

 悪戯っぽくウィンクをして、そのまま高笑いしながらオンの妹のユズを従えてタラップを上がって行ってしまった。

 蛇足だが、ユズは13歳で8歳の王女と歳が近いせいもあって馬が合う様だ。

 それでは…と、細かい打ち合わせをするために振り返ったノラに向かって走ってくる人物。面識のない2人…すわ、早くもヘクマティアルの暗殺者か? と、書類カバンを盾にして身構える。

 そんなノラの前で2人はピタリと止まり、敬礼をした。

 「初めましてイズミル隊隊長ノラ・シアン中佐。我々はシヴァス隊から派遣されました、連絡将校のユルドゥス・ラハト中尉と―」

 そして隣に立つ巨漢へと促すユルドゥス中尉。

 「…副官の。グェン・ザップ・ミン軍曹だ」

 グェンの声で気づいたが、女性だった。いや、そもそもシヴァス隊は女性だけの部隊なのだからスグに分かりそうなもんだが、グェンが12オルタ(180㌢)はありそうな長身だったので判断が鈍ったのだ。

 見ればユルドゥスもグェンもキュベレイ中佐と同じ格好のスパッツを履いている。

 ユルドゥスは茶色い髪に大きな瞳で、なにやらとてもキラキラ眩しい。

 グェンは唇が厚めで何やら眠そうにしている半眼なのが特徴か。

 「そうか、確かに先ほどキュベレイ中佐がそんな事言ってたな……」

 「はい、シヴァス隊は貴官らの隣、H-6から9まで担当しております! 我が隊は既に展開を終えて、貴隊の着任を待っております!」

 元気いっぱいだな、この子。

 「分かった。では準備が出来次第我々も出発する。貴方達は俺と一緒の艇に乗り込んでくれ」

 「ハイ! “カーラマン”の戦いぷり、勉強させていただきます!」

 なんだか調子狂っちゃうなあ……それでも何故か口元がニヤニヤしてしまうノラであった。


いやぁ……大相撲始まっちゃいましたね。もうね、大相撲が始まるとそっちにのめり込んじゃって書くのが進まないんすよ…頑張って滞りなく最後まで行く予定ですが、「もしかしたら」という事をどこか心に留めて置いて頂けましたら幸いです。

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