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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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アレッポ高原にて③


 シヴァス隊。別名『ペシュメルガ』。


 ノラにも『カーラマン』の別名がある様に、しばしば異名を名乗る部隊はある。ただし、『ペシュメルガ』はその中でも特異である。


 “死に立ち向かう者”、そういう意味だという。シヴァス隊はかつてアトゥンの火が暴虐の限りを尽くした都市・シヴァスの生き残りで結成された。

 命からがら生き残ったのは女子供のみ。男と云う男は皆、反逆の疑いで粛清されてしまったのだ。老人、子供だとて容赦無しであったという。  

 その時、若き女性リーダー、キュベレイ・ドゥンが復讐のために結成した私怨部隊…それがペシュメルガなのだ。

 特異なのはまず隊員。全員女性で構成されている。知っての通り、大ユピタルでは女性の地位が大変低い。その中でここまで伸し上がってきたという事は、かなりの覚悟ある場面を多く踏襲してきたのだろうと容易に推測できる。

 そしてその闘争心の高さである。女性が敵兵に捕まれば、凌辱の限りを尽くされるのは明白。それ故に必死で戦う。味方へのサポートや戦友の死体回収率も軒並み高い。とても社会性の高いアマゾネス集団…と言えば分かり易いだろうか。

 最後に…というか今までの特異性の故に、彼女らの部隊はとても協調性が低い。彼女等は彼女等だけの独立遊撃部隊だったのだ。何物にも媚びず、気高く散る部隊…それがペシュメルガこと、シヴァス隊なのだ。

 逆に女性からの支持は高い。シヴァス隊への応募がひっきりなしなのは、戦乱で寡婦が増えただけではないだろう。女性が抑圧されている社会にも問題があるのだ。


 ―などと、強襲揚陸艦「ナザーウ・ボンジュー」内でデカ少尉からレクチャーを受けているのを、欠伸を噛み殺しつつノラ少佐は、ヘクマティアル王国州都・クンドゥズへと向かっていた。


 ヘクマティアル将軍についての情報も事前にレクチャーを受けている。

 ヘクマティアル一族は彼の秀才さを見抜き、聖都へと留学させたのだが、彼自身はヴ帝国と接触、自由主義を猛勉強する事となる。その後、アトゥンの火の教義に傾倒、かなり彼等寄りの施策を行う事となる。北部同盟への参加は州都・クンドゥズが襲撃されたためであるが、それまではアトゥンの火の尖兵の様に振舞っていたのも事実である。

 だから我々の動きはヘクマティアルを通じて、アトゥンの火に筒抜けなのを覚悟しなければならないらしい。

 その中で寧ろ、一匹狼である“ペシュメルガ”の方がむしろ心強い…そういう配慮なのだそうだ。

 「はぁ~……」

 レクチャーが終わって、講師であるデカや各隊員達から漏れた第一声は溜息であった。

 


 前門の虎、後門の狼か……泣きたいの通り越して、笑っちゃうよ。

 

 州都・クンドゥズに到着してタラップを降りた瞬間、握手を求めて来た男がヘクマティアル将軍であった。細身の初老で、口髭や髪の毛が真っ白なのが特徴的だ。ヘクマティアル軍の制服も真っ白なので、変な統一感ある印象を受けた。

 手の甲へ受けたベーゼを後手で吹きながら、ライラ王女が鷹揚に構える。

 「出迎えご苦労。して…そなたの後ろに控えておるのがキュベレイ中佐であるかな?」

 ひょいと大袈裟に後ろを覗く素振りを見せると、その人物がキッと睨んだ。

 戦闘服に黒のスパッツ、黒い頭巾が長い髪を隠しているが、それでも見事な緑髪が溢れてしまっている。口の周りを黒のレースで覆っているのは寡婦の証。

 細身なのに、とても頑丈な雰囲気を纏っている女性、キュベレイ・ドゥンその人であった。

 「王女に具申したき点が有ります。この者は信用なりません!」

 挨拶など無視しての第一声がソレであった。指さされたヘクマティアル将軍が「ほぅ?」と不敵な笑みを浮かべる。

 「まあまあ、取り敢えず司令部の作戦会議室に行ってから、話し合いませんか?」

 三すくみでにらみ合いの様になってしまったので、ノラが場を和ませようと提案を持ちかけるも、「軟弱者!!」と罵声を受けてしまった。

 「貴様、陛下の近侍でありながら不慮の事態の予測が付かぬのか! コイツの敷地に入ったら最後、何処で毒を仕込まれるか分かりませぬ。一切口にしてはなりませぬぞ!」

 「いかなキュベレイ隊長であろうと、冗談が過ぎますな……」

 ギリギリ睨むキュベレイと、ますます昏い笑みを湛えるヘクマティアル。前門の虎、後門の狼とはこのことか。

 「まあ、そうも言ってはおられぬじゃろう。まさか初日から毒を盛る訳にもいかんよな?」

 ライラ王女がニッコリと将軍に笑みを向けると、「フフフ…」と謎の笑みを浮かべるヘクマティアル。

 「王女がそういうのでしたら、これ以上は越権ですので何も言う事はありませぬ。しかし、我々シヴァス隊は州都近辺で野営を行いますので、これにて失礼します」

 そうしてキッカリとした敬礼をして、颯爽と退去していく。

 「いや…部隊間での連携とかどうすればいいんですか?」

 慌ててノラが引き止めると、一瞥して「連絡将校を派遣する。ソレで問題ないだろう」

 と言ってさっさと居なくなってしまった。

 「…将軍、わらわが来る前になにか一悶着でもあったのかな?」

 「いいえ、着任と同時にあの感じでしたよ」

 そうして、フフフ…とお互い意味深な笑みを浮かべる両者。見ているコッチの胃が痛くなってくるので困る。

 「それでは案内しますよ、“ハイランドのお嬢さん”」

 ハイランド…大陸側に住む者達にとってのパンジール・ウルケーを揶揄する言葉だ。小馬鹿にした意味合いも持つ。それを敢えてぶつけてくるこのオッサン…やはりキュベレイとも何かあった事を言下に含ませて挑発しているという事か。

 だが聞かなかったのか、それとも流したのか、意に返さず王女が身震い一つで振り払う。

 「フフーフ、いい加減外に居過ぎて寒くなってきたわ。暖房は効かせてあるんじゃろうな?」

 腹芸というか、腹の探り合いというか…これからこういった事にも慣れて行かねばならないのか…そう思ってノラはまたもや深くて長い溜息を付いたのだった。


ヘクマティアル将軍は実在のモデルが居ます。そっちはヘクマティヤルですから、混同しないように。「サイゼリヤ」を「サイゼリア」と間違っちゃう感じです(?)

…ちょっと何言ってるのか分からない。

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