独立近衛師団③
すみません、昨日普通にスルーしてしまいました…仕事がこの時期忙しいんです。それなのに給料上がらない…ツラいわw
「メメット中尉。申し訳ないが駐屯地内で学校を作って欲しいんだ。それも、ちゃんとしたヤツだ」
ドアを開けての一声、それに対し、メメットが仏の様な笑みを称える。
「…資金は?」
あー…話が堂々巡りだ。結局どこまで行ってもカネの話なんだ。うんざりして顔を掌で覆うノラに更に微笑攻撃を加えるメメット。
「部隊の維持費は軍令部持ちとなったものの、イズミル市の資金源は殆ど無いんですよ? それとも隊長、貴方のサラリーで賄いますか?」
…部下への奢り等もあるのだが、個人で使う部分は殆ど無い。内情を言えば部下も分かってくれるかもしれない。誰かのために貯金するような人も居ないし……
「―分かった。オレの給料分で学校を……」
ノラの絞り出す様な声を一笑に付すメメット。
「冗談! いかな隊長の給料とて、学校の維持費の数分の一にも満たないですよ。それにハコモノに金がかかるんじゃないんですよ。先生の給料や教科書、黒板、給食も出すのなら莫大なランニングコストが恒常的にかかるのです」
何やらメメットのスイッチが入ったようで、急に憑りつかれたかの様に話し出す。
「一時期昔に『テラ』の金満家の連中が、慈善ぶって学校を作るブームがあったの覚えてるでしょ? アイツ等“学校の建設費用”しか払わないんですよ。そんで子供集めて新校舎で集合写真撮って満足して。その後どうなってるか隊長だって知ってるでしょ? 備品は全て盗まれ、建物はアトゥンの火の前線基地として使われてるじゃないですか。でもテラの連中はそんな事お構いなしだ、お笑い草ですよ!」
ひとしきり笑った後、恨みがましいノラの目に気付いて、メメットが体勢を取り繕う。
「いや、まあ…どうです? ウチの駐屯地で学校をやるんだったら“ロジスティクス”で稼ぎませんか?」
「ん、どういうことだい?」
そこでオホン、と勿体ぶった咳払いをするメメット。
「いまやパンジール・ウルケーの直轄領は何十倍にもなりました。しかし、物流が各方面で滞っており、必要な物が届かなかったり、逆に過剰に余って廃棄されている地域が有ります」
「うん、それで?」
「尚且つ情勢不安定地域も有り、武装したコンボイ無しで物流は無し得ない状況になっているのです」
無言で頷くノラを見て、メメットが得意そうに口髭を扱いた。
「そこで、『イズミル隊の武装運送屋』を始めるんです。未だ他の所はやっていませんから、儲けは一手にココ、イズミル隊の収入になります!」
「面白いじゃないか。でもうちの兵隊は割けないぞ?」
「だから初めは傭兵を雇い、そこで才能あるヤツを本部隊に取り入れたら良いじゃないですか」
メメットが続けてまくしたてる。
「今やイズミル隊はパンジール・ウルケーの部隊の中でも希望の星です。卑賎民は元より、平民に至るまで『イズミル隊ならば死なずに出世出来る!』と持ちきりですよ。給与を低めに算出したとしても、イズミル隊に入隊できると知れば応募が殺到します!」
…メメットの発言を聞いて、ノラは扇子男ことフィデル参謀を思い出していた。アイツの思惑通りじゃないか。小気味よく出世し、絵に描いたような活躍を重ねる事によって、パンジールへの雇兵が容易くなっている……
「物流だけじゃなく建設業も請け負いましょう。道が整地されれば、より物流が発展します。その優秀な者は工兵隊として育成しましょう。そのための商工業学校を併設するんです。同時進行です」
工兵隊。ここ半年を思い返して、あの時やあの時に工兵隊が居ればどれだけ助かったかと思うシーンが甦る。正直、工兵隊は喉から手が出るほど欲しい。だが、メメットの言う話は調子が良すぎる。
「まあ…良いけど、採算獲れる自信あるの?」
「任せて下さい! イズミル市は今のところバタヤのスラムでしかないですが、近いうちにこの駐屯地を中心とした“学園都市”にしてみせますよ!」
ノラはボンヤリとラバニ師の側近達を思い浮かべる。確かに皆、筋骨隆々で工兵隊や武装輸送隊には喜んで参加しそうだな…素地はあるという事か。
「分かった。細かい事はメメット中尉に一任するよ」
人は適材適所がある。メメット中尉は要塞の防衛部隊には適していなかったかもしれないが、後方の運営能力に長けていたのだ。最終回級は中尉止まりだと言っていたが、もうチョット上げられるかもしれないぜ?
「ああ、それと…重要な話があるんです。兵器開発部より一人、委託で研究者が配属される事となりました」
兵器開発部…あの、ナザーウ・ボンジューを無駄に面倒くさい機関にしたヤツか!
ノラのムッとした顔を察したメメットが、慌てて取り繕う。
「いやあの…今回は司令部からの軍監査部からも一人来てますので、よしなに、というか波風立てずに上手く乗り切って欲しいんですが……」
「一体何で査察部がウチに?」
「…よく聞いてください」
ソッと耳打ちするメメット。盗聴の可能性もあるのか。
「ノラ隊長は“偶像”として肥大しました。軍の中には快く思っていないのも多く居ます、我々は少しの揚げ足でも掬い取られかねない状況になったんです」
「ふうむ…ありがとう、メメット中尉。君の定年退職までは乗り切る事を保証しよう」
それを聞いてあからさまに安堵の表情を浮かべるメメット。分かり易いなあ…でも嫌いじゃないぜ。
「で、では…研究者を案内しますね」
そそくさと部屋を出て行くメメットの背中を見守りながら、ぼんやりと呟いた。
「さあ、第二ラウンドの始まりだぜ」




