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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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マルマラ沖海戦ー①


「傾注!」

 秘書官の声が心地良い緊張を強いる。

「それでは、ここに集った諸君にだけ今作戦の全容を解説する。決して他言無用である事を忘れぬように!」

 青白く会議室を照らすモニターを背に、フィデル参謀総長の声が響き渡った。フィデルの肩章には4本線に5つの星…つまり、大元帥を顕している。

 その会議室に同等の階級を示すものは、従弟のサラーフ司令のみだ。だから実質、フィデルの言葉を阻む者など存在しない。

 「知っての通り、ここエウロパには800万人程の人口しかない。その中で我らがパンジール・ウルケーの軍は1万人も存在しない!」

 声高に張り上げる参謀。

 「だから実力のあるモノは独自勢力を築いてきた。それが悪いとは言わない……だが!」

 一拍置いて、細い体のどこからそんな声が出せるのかというほどの怒声を張り上げる。

 「階級に限らわず、ここにはパンジール・ウルケーへ忠誠を誓ったものだけが居ると信じて、話を続ける!」

 うおおおお!! 腹の底から響くような鯨声が響いた。

 杞憂か…どうやら離反の可能性は低そうだ。それもこれも、パンジール・ウルケーという名声がそうさせているのだ。決して、自分の才覚だけではないと、思い直す。

 「敵の艦隊は凡そ1000を超える。これに対し我らが艦船は3隻。この度味方に加わったドン・ボルゾック海賊艦隊を加えても10隻に満たない」

 ざわつく席上。隻眼で怪力の海賊の眼力がギラギラ爛々としている。

 因みに、ここではドン・ボルゾックは海軍中将扱いである。

 嘘はいけない…だが、希望という名の燃料を与え続けないと人の意気は消沈してしまう。

 「そこで、全島を巻き込んだ迎撃作戦を敢行する…奴らをこの島沿いに這い回せるのだ!」

 「そんな事が可能なのかね!?」

 最高顧問、ラバニ元帥が口を挟む。だがこれも打ち合わせ済みである。

 「ええ。“タブシャン(うさぎ)”を這わせます」

 「タブシャン…だと!?」

 「そうです。皆さんも知っている通り、地球からの著しい火薬及び化石燃料の輸入制限で、我々に残されている火薬量は非常に少ない!」

 それは全員、身を以て感じている。弾薬・薬莢がどれだけ足りないか。聖都であり、始まりの都でもある、宇宙港の『A→Hアルテューフーン』を抑えれば、地球政府との火薬売買が自在なのも。


 そして今その聖都を抑えているのが狂信者『アトゥンの火』であることも。つまり、今パンジールウルケーは八方塞がりなのだ。それ故にヴ帝国がアトゥンの火如きに操られているのかというのも、全ては大きな貿易港である聖都を誰が抑えているに尽きる。

 「だからこその面作戦なのです。タブシャンを走らせる事により、パンジール・ウルケー防衛に分散してしまった火薬を効果的に使う事が出来ます!」

 つまり、敵軍を“おとり”で誘き寄せ、その“おとり”がパンジール島を一周する事により、余すことなく被害を与える事が可能という作戦だ。

 「それだけではありません。その主力艦隊を損耗している間に、ボルゾック艦隊が敵補給部隊を拿捕していきます」

 「…こちらの読みが全て読れていたらどうする?」

 野太い声が、燃えるような隻眼の壁際の華から聞こえてきた。

 「最悪の手も用意してあります。どこも誰も、上手くいかなければ……」

 ここで、流石の参謀総長も言い淀む。

 「パンジール・ウルケーの全火薬を以て、敵に自爆をします」

 …………良心がチクリと痛む。ここだけはどんな味方にも聞かせることは出来ない。この罪を背負うのは、このフィデルだけでいい。

 「その“タブシャン(うさぎ)”部隊は、どういう部隊なのだ?」 

 “トラブゾン”隊の隊長から詳細を問われる。

 有力な地域豪族は、各々私兵を以て中核を成す。だから階級が低いとはいえ、機嫌を損ねてはいけないのが鉄則である。

 かくいうフィデルの部隊名は“アナトリア”師団となっている。

 コレが軍閥の実態である。

 「心配なく。最も実害の無い部隊で構成しましょう」

 「そう言う事を言ってるのではない! 食いつくエサが弱ければ、敵の主力は食いつかないだろう?」

 ラバニ元帥の声が響く。……分かる、分かるよ、それこそがお前らが訊きたい事の総てである事を。

 「電磁加速砲の運用に我が軍は成功しました。これを内火艇に搭載したもので対抗します」


 は??


 言いも悪いも、言葉以上も以下も無い。装甲に毛の生えた小回りの利く、内火艇で誘導し、島を一周させて損耗させるのだ。

 「失礼ですが、卿は……」

 色を失うラバニ師に逆質問を咬ませた。

 「自分に向かってきたゴキブリを許しますか?……いいえ、きっと逆上して追い回すでしょう」

 息の詰まったラバニ師の顔色を見届けて、やがてフィデル参謀が扇子越しに笑みを浮かべた。



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