ヴ帝国電撃訪問(後編)①
お待たせしました。やはり気持ちの激変と言いましょうか、モチベーションを保つのが今回、難しかった気がします。事実は小説よりも奇なりと申しますが、こんな世界になるとは誰が予想したでしょうか。未来人ジョン・タイターは、一言もコロナって言ってませんでしたよねえ(白目)…
もしかしたら職や生活も変わる可能性も含んでおりますが、それを含めて生暖かく見守って頂けましたら幸いです。
余計な事ですが、元ネタの場所であるアフガンがコロナと蝗害が原因で、タリバーンと政府側が停戦しましたね。
良い事なのか、そうまでしないとやめられなかったのかとか等、色んな思いが去来しました。
「おや……パンジール・ウルケーの皆さん方、いやに遅いですねえ?」
立食パーティーなので、料理を小皿に取り分けながらオニール准将が呟く。
それは准将だけの疑問ではなかったようだ。ややあって事務方がバタバタし初めて駆け回っている。何か不測の事態があったようだ。
「マライア副官、ちょっと何かあったのか訊いてみてくれたまえ」
傍に控えるメガネにソバカス、茶色い髪を三つ編みにした女性に声を掛けると、「は、はい!」と躓きながら駆け出していく。
もう少し気が利いて、私が言う前に動けないものかなぁ…一応少佐なんだし、これから自分も指揮する立場なのに、いつまでも学生気分というのも困ったものだ……などとボンヤリ考えていると、目の前でコケたマライア副官が驚くべき報告をした。
「……なんだと!? もう出立してしまった…だと!」
辺りを見渡すと、何故か皇帝とその側近である師匠のパウエル長官の辺りも慌ただしい。その様子を見て、埋まらないピースを予想し、ある思いに達する。
「……なるほど、そういうことか」
「え、オニール様何か仰いましたか?」
「いや。マライア君は気にしなくていい」
優雅に紅茶へブランデーを垂らしてキメながらそっぽを向きつつ、独り思惟に耽る。
先生…貴方もなかなかダーティな事してくれるじゃないですか。ここまで引き立ててくれたのは有りがたいし、尊敬もしていますけど、そういう点は真似したくないですなあ……と心の中で呟きつつフフン、と鼻で笑った。
夜の霧を掻き分け、「ナザール・ボンジュー」が帝都=スクエア・ガーデンを尻目に、あらん限りのスピードを上げようと悪戦苦闘していた。
「基地のあるガルガンティン市まで、おおよそ361リーグ(約650㌔)。行きと同じ様に丸二日半を掛けて戻るよりも、西のエーゲ海を超えて近隣の国へ緊急的に逃げ込む事は出来ないものなのか?」
ライラ王女が広いオデコに人差し指を当てながら、デイル艦長に訊いた。
「甘いですな」
にべもなく跳ね返すデイル。
「…この星エウロパは、今でこそ陸地も人工的に作り、日光も差し込みますが、元は極寒の氷の惑星でした。それをテラフォーミングしたのは王女様もご存知ですな?」
うんうん、と頷く王女。
「この星を今守っているのは、厚い大気です。しかし、それ故気候変動が激しく、空中船で海を越えるのは難しいのですよ」
「しかし…ヴ帝国の艦隊はマルマラ海まで攻めて来たではないか!」
「ヴ帝国…だから出来たんです。我々の科学技術も操船技術も未熟なんです……」
まさか、こんな所でヴ帝国との彼我の差を見せつけられる事になるとは思わなかった。王女の顔が悔しさで歪む。
「…この艦はパンジールの最新技術を注ぎ込んでます。故に、エーゲ海を超える事は出来ませぬ」
…デイル艦長は暗に、ドン・ボルゾック所属の旗艦「アララト」ならば可能と言っているのだ。デイル艦長は元々ドンのスカルパント隊なのだから、どうしても贔屓目になってしまうのは分かる。
だが、なんかチョットムカつく…というか、それが鼻に付いた。
「デイル艦長、では行きと同じルートで戻る…と考えてよいのですか?」
ノラの不意の発言に意外そうな顔をして、少しの思案してからデイルが慎重に答える。
「……いや。不安定な地帯であるリットン辺境伯領はリスクが高いので、なるべく視界を確保出来る辺境伯領の海岸沿いを通らねばなるまい。だが……」
二の句を躊躇う艦長の言葉尻を、8歳の少女が椅子を叩きながら唸った。
「帝国の最速フリゲート艦ならば、追いつかれてしまう……か」
フウ…と溜息を付いて、艦長はコンソールに組んだ腕の上に顎を置いた。
「しかも辺境伯領付近では、先にも言った通り海賊行為が横行している……襲うとすれば、まあ…間違いなくリットンだろう」
ルートは限定。こちらの艦はポンコツ。間隙を縫って脱出してきたが、大した時間稼ぎでもなく、早晩追いつかれるのは必至。我々に打つ手があるのか?
「あーしが思うに~」
能天気に挙手して発言を求める者が居た。オン上等兵だ。
「お姫さんて、今回の交渉のキーパーソンだから国の体面もあるしー、本当に襲ってくるってマジ無いし?」
そんなオンに優しく頭を振る王女。見た目と裏腹に、どっちが年長だか分からない。
「……いや。帝国は焦っている。条約交渉の結果はもう既に本国へと通信で伝わっているだろう。なので交渉の反故は無い。それよりも、パンジールに居る天才のわらわと“カーラマン”を一挙に討ち取った方が良いと考えたのだ…だから必ず来る!」
そうして、暗い顔で下を向いた。
なにか……無事に生還する方法は無いだろうか。
今回色んな要素が重なりまして、ちょっと短いです。その理由はこの章の最後でお話します。




