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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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ヴ帝国電撃訪問(前編)⑫


 幸いにもオンがトイレの位置を、既に把握していたので大参事には至らなかった。

 だが王女がノラを見つめる眼差しは、サルノコシカケを見つけた際の子供の様な感じになってしまった。

 つまり、何だコレ……って感じのヤツだ。

 「で……どうだったんだね?」

 ライラ王女がハンカチで手を拭きながら、唐突に訊ねた。

 「は…なんでしょう?」

 「だから……会ったのであろう? “グレート・キングス”に」

 ザヒル・シャー2世の事か。これから発する自分の発言一つで、世界の趨勢は変わってしまうかもしれない…剣呑な雰囲気を察しつつ、慎重に言葉を紡ごうと頭をひねるノラ。

 「シャー王はかなりな高齢であられまして…正直、国政を担えるような体力と、柔軟な思考は持っていないと思います。それに……」

 ちょっと言いよどむ。それを賢明なる王女は見逃さなかった。

 「それに…なんだ? ここは我々しか居らぬ。遠慮なく言ってみよ」

 からかう様な王女の目に耐えきれず、ノラは大きく深呼吸を一つした。

 「…あの王には人を引き付ける何かが決定的に欠けております! 本物の審議は分かりませんでしたが、正直、アレでは人は付いて来ません!」

 クククククク……ややあって呵呵大笑。

 「ノラ大尉。お主は不敬者じゃのぅ。だが、よっく分かった……これで思う様“親喰い外交”を推し進める事が出来るわい」 

 “親喰い外交”…って何だろ?

 ポカンとしたノラの尻を、いつの間にか席から立っていた王女がポンと叩く。

 「さあ、これからレセプションの夕食会じゃ。いつまでもそんなボケ面晒して居ると笑い者になるぞ!」

 手を差し伸べたという事は、エスコートせよという事か。

 慌てながら照れ隠しで頭をポリポリと掻くノラ大尉。その時、窓の外から猫の鳴き声がした。

 この王宮には猫が放し飼いになっているのか――と、不意にノラの脳裏に懐かしい記憶が甦える。

 そうだ、ペンベ兄さんは昔から猫の鳴きまねが得意だった……もしや!

 「ペンベ兄さん!?」

 反射的に駆け寄って観音開きの窓を開くと、果たして道化師の姿が現れた。

 宮廷道化師というのは気触れ…まあ、良くも悪くも空気として扱うから、居ても居なくても気にしないというのを聞いた事がある。そうして宮廷内の噂を集めて詩歌にして皮肉を込めて歌うとか……

 ペンベ兄さんは身のこなしが柔らかく、かくれんぼが凄く上手かった記憶がある。とはいえ、奇抜な格好して猫の鳴きまねするオッサンというのは、血縁とはいえ些か気味が悪い。

 「キャハッ☆シアンに見つかっちゃった~☆」

 ぬるりと図々しく入って来たかと思ったら、ノラの耳元でボソリと呟いた。

 「…気を付けろ、帝国はお前らを生きて返すつもりは無いぜ」

 戦慄が走って硬直するノラを尻目に、ヒラヒラ舞いながらノラ・ペンベはどこかにまた消えてしまった。

 「…今のはどういうことじゃ?」

 エスコートの手を振り払われたライラ王女が、プリプリ怒りながらもノラを問い質す。

 「は。アレはオレ…いや私の愚兄でして……」

 「そうではない。『生かして返すつもりはない』と囁いた件じゃ!」

 「あ、いえ…少々頭のオカシイ兄が言った妄言ですので、そんなに気にする事も無いかと……」

 そうは言いつつも、ノラのどこかで警鐘が鳴っていた。コレは今までの歴戦で得た勘だ。

 王女も口に手を当てて何か思案していたが、不意に部屋にいた全員を睨む。

 「…そうか、人間は理知だけでは動かなぬか。情の念が理性を超える事があるのやも知れぬ。あの者の妄言もあながち無いとも言い切れぬとすれば………」

 更に、クマの様にウロウロ部屋を回って、また叫んだ。

 「む…リットン辺境伯領か! アソコなら有耶無耶の内に闇に葬れるか…こうしては居れん! 皆の者、すぐに帰還するぞ!」

 これにノラがいち早く反応した。ノラの内の危険信号はもう真っ赤だ。

 「は。総員、帰還準備。ぐずぐずする奴は置いて行く!」

 途端にバタつく中、デカが空を仰いだ。

 「チキショーメ、美味いメシにありつけると思ったのによぉ……」


 

 「コレは極秘任務だ。くれぐれも我が軍だとバレないように行いたまえ」

 スクエア・ガーデンのとある薄暗い一室で、メガネの巨漢は目前のヒョロヒョロした男に語り掛ける。

 「ハハッ。このような機会を与えて下さり、感謝の念に堪えませぬ。私に命令した事を後悔させませんぞ!」

 傲岸不遜に胸を叩き、ちょっと強すぎたのか咳き込むヒョロ男。分不相応に勲章をぶら下げている。

 「…マルマラ沖海戦の屈辱を晴らすが良い、ガルーダ・サベーリョ中将!」



はい、取り敢えずこれにて一章終了ですので、またお休み期間をいただきます。とはいえ、この様なご時世で、書くペースが上がる可能性もあります。

なので今までみたいに2か月ごとにというペースではなくなるやも?

いつも遅くなるのは、大相撲が始まるとそっちに熱中して一喜一憂し、呑んだくれるというルーティンがあったためですが、五月場所が無いかもしれないんですよねぇ…

でも逆に悲しすぎて、呑んだくれてヤサグレる可能性もありますので、何とも言えません(笑)。

ここまでお付き合いいただいた皆様のご多幸と、疫病退散を祈念しつつ、暫しのおさらば! です!

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