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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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ヴ帝国電撃訪問(前編)⑨


 ザヒル・シャー2世。

 何十年も昔にヴ帝国に行ったまま、帰ってこれなくなった大ユピタルの王。もし生きていれば、80…いや、90歳以上であろうか。

 「平伏せよ、恐れ多くも王の御前である!」

 再度、女性がキンとした声を張った。条件反射でガバッと這い蹲ってしまう自分の習性が恨めしい。

 やがてぺたりぺたりと危なげな足取りが聞こえる。そして木のうろを通った風の様な、掠れた声がかすかに聞こえて来た。誰か介助の人物の気配も感じる。

 「ぽ~くのお家に帰~りたい~…♪」

 ……大丈夫なのか? 

 平伏しているので顔などは見えない。が…これはもうボケ老人……

 サラディナ・マスーラ司令官は今の所、シャー王を呼び戻そうと画策していると聞いた事がある。そのための大同意なのが北部同盟の条件でもあった筈だ。

 だが……万万が一、パンジール・ウルケーがアトゥンの火を平定したとして、こんな状態のシャー2世を招聘し奉れるのだろうか?

 「代表の者、直々の御目通りを許す。面を上げい!」

 女性が偉そうに命令する事に辟易しつつも、恐る恐る顔を上げたノラ。

 黒い装束に目玉ばかりでかい老人。ヨレヨレで杖を突いている。瞳はもう濁って見えないのか、白っぽい。全体的に骨ばっており、ミイラが歩いているかの様だ。

 口はだらしなく開いて、よだれが滴っている。

 

 絶句!

 

 勿論、ノラがシャー王の状態にも驚愕したのは間違いない。だが、それ以上にノラの背骨に電気が走ったのは――

 シャー王の介助をしている男は、道化師の格好をしていた。宮廷道化師のつもりなんだろう、奇抜な二本角の様な帽子にカラフルな市松模様の全身タイツを着こんでいる―その男。

 扁平な顔つきに、人を馬鹿にした様な笑顔が張り付き、何本か抜けた歯が滑稽さを醸し出している…その男の顔に、ノラは見覚えあった。

 「ぺ…ペンベ兄さん!?」

 そうだ。ノラ兄弟の次男、腹違いの兄さん事ノラ・ペンベだった。

 「きゃはッ☆ その顔が見たかったんんんだよぉぉ!!」

 指パッチンをしてはしゃぐペンベ。腰に付いた鈴がチャラチャラ鳴った。

 反射的にオニール准将の方を見ると、「感謝しろよ」とでも言わんばかりのドヤ顔だ。

 ここは陰謀が渦巻いている…!

 「狼狽えるな、王の前で見苦しい!」

 キンとした声が今度は着付け薬となって、ノラは体制を整える。

 「我は王お付きの占星術師、アスラール・ダキヤである。お主の所属と名前を申せ」

 「…パンジール・ウルケー所属、イズミル隊隊長・ノラ・シアン大尉であります」

 「パンジール・ウルケーは!」

 ひときわ高い声で一喝され、鼓膜がジーンとする。

 「一体いつになれば王の帰還が叶うと考えておるのじゃ? 王は待ちくたびれておるぞ!」

 「ぽ~くのお家に~帰~りたい~…♪」 

 「ひ~っひっひ! 王は御親政をお望みだってさ☆」

 …怪しい占い師と、胡散臭い宮廷道化師のせいで、この部屋の空間が狂気で捩じれているかのような錯覚に見舞われる。

 「そ、それは…オレは一介の兵士に過ぎませんので、この場で確約は出来ません!」

 「本日は王女も来ていると聞く。本来ならば大ユピタル王国の王に接見するのが先ではないのか!?」

 「ククク…王は自分に実権が無いのを憂いているぞ……」

 占い師と道化師のW口撃に頭がクラクラするノラ。時々聞こえる調子外れな歌も、心をざわつかせる。

 「そ、それでは明日にでも、王女の接見のセッティングを整えて参ります……」

 「疾くじゃ! 王は御立腹じゃと伝えよ!」

 「は、はあ」

 「ぽ~くのお家に帰~りたい~…♪」

 …これは本物だろうか、そんな問いも脳内でグルグル回る。偽者だとしても今や、誰にも区別が付かない。とすれば、あの占星術師が裏で糸を引いているのか。若しくは、ヴ帝国がイニシアチブを取るために作った傀儡か…ペンベ兄さんはバカだったから、そんな大それた事を考えてはいまい。

 「む!? 王がおむずがりじゃ。皆の者、下がれぃ!」

 「きゃははッ☆ 王はシアンの事が気に入らないってさ!」

 全員で敬礼をして、早々に切り上げる。

 外に出て、ドッと冷や汗をかいている事に気付いた。

 「どうだったかい、気に入ってもらえたら幸いだ」

 隣でオニール准将が軽く首を竦める。なんかムカつくがグッと堪えて、笑顔で応じる。

 「……あの人は本当に、その……」

 「ああ、本物の王かって事? 勿論さ、英邁な王だったと聞いているよ。ヴ帝国の発展に随分貢献してくれたみたいだし。ただ……」

 ここでちょっと眉を顰めるオニール。 

 「十年前からボケ始めたのと、何処からかあの二人の変な取り巻きを見つけてから、発言がオカシクなったんだけどね」

 オニール准将の言を信じるのならば、彼の者は本物…ということになるか。ライラ王女にどう報告するべきか、思案の難しい話である。 

 「では、今夜の晩餐会でまたお会いしましょう」

 そういってオニール准将が握手を求めて来た。一瞬、思う所はあったがノラは握手を交える。

 ニコヤカに別れてからデカに話しかけた。

 「アレ…どう思う?」

 「さあ……ただ」

 「?」

 「なんか嫌な予感だけはビンビン来ますね……」

 「まったくだ!」

 

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