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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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ヴ帝国電撃訪問(前編)⑧


 向こうは大量のスポークスマン。

 こちらの広報はドブロクのみ。

 フラッシュが大量に焚かれる向こうで、身長差の大きな握手が撮影されていく。明日には歴史的な快挙として、号外が撒かれる事になるだろう。

 エミリオ3世にエスコートされながら、我等が王女は堂々と会議室へと突き進んでいった。

 艦橋や機関室に必要な人材は艦内で待機してもらい、護衛任務のあるイズミル隊の20名ほどが王女の後を付いて行く。

 と、その時。

 「おっと、警護の方は会議室手前までのみでお願いいたしします」

 優雅な物腰で金髪オールバックのヴ帝国将校がノラ達を押し留めた。

 涼しげな流し目、瀟洒なスーツ姿……アレ、どこかで会った記憶がある。

 「しかし…それでは王女一人となってしまいます! 陛下の御身の安全の為にも、孤塁に立たせる訳にはいきません」

 やや息巻きながらノラが抗議の姿勢を示すと、イケメンはふふんと不敵に笑った。

 「我等は規範たるヴ帝国の者です。『アトゥンの火』等とは違い、卑劣な真似はしませんよ」

 サラリと髪を撫でつける所作のせいか、それとも今まで戦ってきたアトゥンの火を馬鹿にされたことによる、ノラ達の存在意義を拒否されたゆえだろうか。

 とにかくなんかよく分からない理由でむかっ腹を立てるノラ。その様子に気付いて、デカが肘で軽く小突いて諫める。

 「…おや? 貴方は……」

 目の前のイケメンが、急にノラの顔をしげしげと見つめた。

 「…君は“英雄”(カーラマン)、ノラ・シアンじゃないか!」

 「? どちらかで会いましたか?」

 「フフフ…初めて会った時と全く同じやり取りですね。覚えてませんか、ホラ。ガルガンティン市で…」

 アッ!

 思い出した。イズミル市を建設していた頃、ガルガンティンのG.H.Qで出遭った捕虜協定交渉役の将軍。確か……

 「オニール・アジーンと申します」

 そうして交わす握手。しかしその笑みとは裏腹に、握力は笑っていない。それも含めて思い出し、戦慄するノラ。

 「あ、ノ…ノラ・シアン大尉です。失礼しました」 

 「おや…前は確か特務曹長か何かだった気が……流石、パンジール・ウルケー。良い人材はドンドン掬い上げますね」

 嫌味なのか素直な称賛なのか、社交ルールを知らないノラには区別がつかない。

 「いや、冗談冗談。私は貴方の大ファンなんですよ。だから今まで何処でどんな戦い方をしていたのかよく知ってますよ。だからこそ気さくに揶揄からかってしまいまして…気を悪くされません様に」

 ブルっと背筋に寒いモノが通り抜けた。オニール准将……これから長く自分の目の前に立ちはだかる存在になるのでは……

 「ああいえ……こ、光栄です」

 それだけ言うのが精いっぱいだった。

 「安心してください。あなた方はこの帝国に居る限り、最も安全に身の保証をします。それよりこちらへ……」

 会議室の扉が閉まって、もうどれくらいの時間が経ったのだろう。ライラ王女は責任ある身とはいえ未だ8歳(※後で確認した)である。今日は挨拶程度で、込み入った内容に踏み込んだりはしないだろうか…だが、きっと不安でまたオシッコちびるんじゃないかと思ってしまい、他にも心配するネタは尽きない。

 そんなノラの思惑とは関係なく、優雅に、それでいて些か強引に、オニール准将が別室へとノラ達イズミル隊を連れて行こうとする。

 「ど、何処へ行くんですか?」

 「フフフ、貴方にお会いさせたかった方々がいらっしゃるんですよ。是非とも面会願いたいのです」

 通された部屋は、豪華ながらやや薄暗い。何か少ししわがれた鼻歌が向こうから聞こえて来た。

 「ちきしょーめ、嵌められましたかね……」

 険しい顔でデカがノラを守らんと前に立ちはだかる。

 「チョーやべーし!」

 オンも制服をはだけ、胸元に隠していたマチェットを右手でヌラリと取り出し、左手に隠し持っていたカランビットを器用に回して構えを取った。


 「控えおろう、御前の前ぞ!」

 女性だがトーンの低い声が地を伝うように響く。やがて黒いレースで顔の下半分を隠した、黒ずくめの占い師みたいな女性が闇から姿を現した。

 「下郎共、誰の前におると心得る! 大ユピタルヌス王国元首・ザヒル・シャー2世国王であるぞよ!」



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