ヴ帝国電撃訪問(前編)⑦
丸二日をかけて巡行を続けると、眼下に夜中に浮かび上がるヴ帝国主都「スクエア・ガーデン」が見えてきた。
「…スゲエ!」
一同が艦橋の展望台に群がって感嘆のため息を漏らした。
夜中なのに幾多の街灯に照らし出されて、昼間のように感じる。その中心、雲を割いて天を衝かんばかりに聳えたっているのが「スクエア・ガーデン」たる名前由縁の長大な塔こと、軌道エレベーターである。
軌道エレベーターをば、外部資本が入っているとはいえ自分達で建設しきったのだ。こればかりは見事と言う他ない。
軌道エレベーターを確保する事によって、星間輸送が平易になって取引も増える。今や『ユピタルヌス産飛行石』の主要輸出国はヴ帝国である。
それにしても……と、デイル少佐の顔を見るノラ。
帝国側から迎撃の攻撃や警告通知が無い所を見ると、フィデル参謀はもう既に話を通していたのだろう。その点も流石である。
塔の周り「バウムクーヘン」とか呼ばれる菓子の様に、幾重にも居住エリアや王宮、そして基地などが幾つも棚田の様に積み上がっている。
「…チキショーメ。まるで、ブリューゲルが描いた『バベルの塔』みたいだぜ……」
隣でデカが何やらよく分からん事を呟いている。
まもなく管制官からの連絡が入って、塔の中幹にある軍港へとレーザーマーカー誘導しだした。
「イズミル隊、再度服装を隣同士でチェックせよ」
「チキショーメ、舐められてたまっかよ!」
明るくて巨大な軍港の口に入ると、「ナザール・ボンジュー」は優雅に着陸した。そこで先ほどの怒声が艦内に響き渡る。
見栄で負けてはいけないと、わざわざフィデル参謀が特注で作った儀仗兵用の白い、オシャレな銃を準備してきたのだ。それを肩に担う。
王女は流石にキリッと居住まいを糺し、長いドレスを摘まんでタラップを静々と降りていく。タラップを降りて初めて、ヴ帝国の兵士達に幾重も囲まれている事に気付いた。
ヴ帝国の兵士共、整然と隊列を整えており、隙を感じさせない。
この空間だけでも数千人以上いるんじゃなかろうか………
そこに一人、周りの兵士とはあからさまに違う、燕尾服の様な軍服を着て白地に赤い縁取りのサッシュ(※肩掛け顕章)を帯び、小ぶりながら王冠を頭に載せた、スラッとしたヒゲの壮年男性が真っ直ぐ、ライラ王女に向かってやって来た。
管弦楽団が鳴り響き、厳かな空気の中、小さなライラ王女に友好の握手を求めながら、その者は名乗った。
「ようこそ、初めまして。私がヴ帝国皇帝エミリオ3世です」
「全権大使のライラ=ベラ・マスーラですわ。お見知りおきを」
そして二人はがっちりと握手を交わす。




