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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑪


 「なぁ…デカ。コレで良かったんだろうか?」

 帰途でノラがポツリと呟いた。後ろを歩くデカに、振り返りもしない。

 「仕方ないでしょ、こういった事は割り切らないと!」

 ツァッと舌打ちしながら答えつつ、デカは嫌な不安と予感しかしなかった。

 きっとウチの隊長、良からぬ事を言い出すに違いない……

 確かにサンダリエ将軍の言った通り、街並みでは所々に打ち棄てられた死体とそれに縋って泣き叫ぶ子供達が見受けられる。下手すればその泣く子供を煩わしく思ったアトゥンの火の兵士達が、その子等さえ撃ち殺したであろう状態の死体の山もある。

 戦車に轢き殺されて哀れ二次元の住人になってしまった、子供の轢死体だってある。

 ここは狂気の病巣だ……一刻も早く引き戻さなければ、ノラ・シアンも病んで何言いだすか分かったもんじゃない。兵士達の士気も著しく下がってきている。そう思ってデカが行軍のスピードを促そうとした時。  

 「アッ! あそこで未だシーラーズ隊が戦っているぞ!」

 右横手で兵士達から歓声が上がった。

 崖下を見ると、バラバラにシーラーズ隊のまだ年若い兵士が国会議事堂へと向かって、小銃を両手に握りしめて走っている。

 「きっと将軍の遺体を取り戻そうとしているんだ!」

 アトゥンの火側は、土嚢を高く積み上げた真ん中に重機関砲を設置して、強力な防衛線を構築している。それに対し、シーラーズ隊は少年兵ばかりでまともな戦術も無いまま、無闇に吶喊して面白いまでに一方的に虐殺されている。指揮官も最早居ないのだろう。

 それでもなお、一人、また一人と無謀にも突き進んでいく。

 「頑張れ、そこを抜けばもう国会議事堂だ! 頑張れ!」

 「もっと弾幕を張るんだよ!」

 イズミル隊の隊員達が口々に応援の声を掛けるが、戦闘地域は遠く、こちらの声は届かない。

 無駄に突撃を繰り返すシーラーズ隊にもどかしさを覚える、が、皆薄々分かっていた。もう弾薬が無いから、爆弾持って肉弾攻撃しかないのだ。兵站の乏しい軍はかくも惨めなのか。

 最後のシーラーズ隊の兵士がこっちを見た気がして、そして倒れた。

 急に銃声が止んだ。

 シーラ-ズ隊が全滅したのだ。イズミル隊の面々も急に押し黙る。

 


 「……ドブロク、この師団旗を必ず本部へ届けるんだ。ドクズとセキズも護衛の為に戻れ!」

 また背中で語るノラ。ツアッと重ねて舌打ちするデカ。嫌な予感が当たった。

 シーラーズ隊の兵士がこっちを見た時から…いや、隊長が何か言いかけた時からか…いやいや。司令部に呼ばれた時からか。

 「ノラ隊長……まさか……」

 師団旗を握りしめ、ギュッと噛んだ唇から血が滲んでいる。目からは涙を零すまいとグッと閉じて堪えている。

 「分かっている、コレは暴挙だ。だからオレの指揮権は放棄する。イズミル隊はデカ曹長の指揮の元、無事帰還せよ。その後は原隊復帰するもよし、退役するのも自由だ」

 事情を察したドブロクが青ざめて涙ぐむ。

 「…アトゥンの火は間違いなく、サンダリエ将軍の遺体を晒すだろう。さっき散ったシーラ-ズ隊の遺志は、オレ一人だけでも汲み取ってやりたいんだ。コレは自分の我儘だ、許してくれ」

 そう言うと、銃を構えて脱兎の如く今来た道へと駆けだすノラ。

 「た、隊長! ノラ中尉!」

 皆が呼び止めるも聞く耳持たず、あっという間に暗闇の中へと消えてしまった。

 もう一度、派手に舌打ちするデカ。

 「ツァッ! しょーがねーなウチの隊長てばよ……」



 そして頭をボリボリ掻きつつ、全員の兵装を再度チェックした。

 マガジンも少ないし、手投げ弾だって数える程度しか無い。グレネードに限って言えば、もう弾も無い。

 ドブロクとセキズ・ドクズを送り出した後、鼻くそほじりながら呑気に声を掛けた。

 「ほんじゃまあ、イズミル隊……」

 一同ゴクリと唾を呑みこむ。

 「全力で隊長を守るぜ―ッ!!」

 うおおおお!

 地響きのような雄叫びと共に、ノラを追って兵士達が硝煙の中に消えて行った。

 

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