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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑩


 壁越しに隠れていても分かる…聴き慣れた声だったからだ。だが、それ以上に驚きと困惑がノラの心に押し寄せる。

 「マ……マーヴィ兄さん!?」


 ノラ家は、戦争商人をしていたカッファレンギーが各方面の行きずりで拵えた、父親の違う4兄弟が居た。

 長男・ベヤーズ、次男・ペンベ、三男・マーヴィ、そして末子がシアンである。

 ベヤーズはシアンがまだ幼い頃、母親の様な小商いに愛想を尽かし、世界を動かす、大武器商人となるために出て行ってしまった。

 ペンベは働くことが極端に嫌いで、あんまりにもカッファレンギーからガミガミ言われるのが嫌になってしまい、ある日忽然と居なくなってしまった。

 残ったのがマーヴィとシアンの二人だった。

 二人とも仲良くカッファレンギーを手伝っていたのだが、或る時、運悪く不発弾が破裂してマーヴィは大怪我を負ってしまう。聖都の病院に救急搬送された後、「アトゥンの火」の勢力が台頭し、そのまま音信不通になってしまっていたのだ。―それから何年も経っており、いつしか死んだものと思っていたのに。


 思わず飛び出したノラ・シアンの眼窩に飛び込んできたのは、包帯まみれでミイラの様であったが、間違いなくマーヴィの面影である。そして――

 「マーヴィ兄さん……その恰好は!?」

 包帯まみれの男は、カーキ色の軍服に「アトゥンの火」の紋章の入ったヘルメットをしていた。男が不敵に笑う。

 「あ~、オレはココの守備隊長サマさ。アトゥンの火の中校なんだよ、オレは」

 マーヴィが後ろに顎を振ると、装甲トラック内で兵士達が乱雑に歓声を上げた。中校とは、パンジールで云う所の中佐に該当する。

 「なんでアトゥンの火なんかに…母さんと二人で心配してたんだぞ!!」

 まだ気が動転して、目を見張ったままのノラ・シアンに、ハリウッド映画バリの大げさな仕草で肩をすくめるノラ・マーヴィ。

 「へ! よせやい。『戦争屋』を継げってか? お前も嫌だったからこの“キリング・フィールド”にやってきたんだろ」

 ……そうだ。4兄弟ともそれぞれに、被差別部落で貧困とさげすみに堪えながら、生涯を送る事に絶望したんだ。その点でノラ・シアンにマーヴィを責める資格は無い。

 「なあ、見てみろよシアン。さんざオレ等を馬鹿にしていた聖都の“上級国民”共が、今じゃ怯えて無様に命乞いしてるんだぜ?」

 「……兄さんは、復讐のためにアトゥンの火に入ったのか!?」

 「ああそうだよ! この星の住人は大なり小なり皆狂ってやがる! だったら早く狂った方が楽に違いないじゃないか! クソみたいな奴らを蹂躙しつくし、なぶりまくる! サイコーだぜ!! お前もパンジールなんかみてえな弱小に居ても先が見えてるだろ、今だったらアトゥンの火で幹部にしてやれるぜ!」

 違う……

 もう昔の優しい兄さんはもう居ない。コレはマーヴィに似た何か別の生き物だ。

 銃を向けようとした瞬間、トラックから数十の銃身がノラ・シアンに向けられた。負けじとデカ率いるイズミル隊も銃を一斉に向ける。

 

 一触即発。


 ややあって、マーヴィ中校が鼻で嗤った。

 「まぁ、話は尽きないところだが、今やお前とオレは敵同士だ」

 マーヴィの部隊は百人以上は間違いなく居る。それに対し、イズミル隊は20人足らず。結果は目に見えている。 

 「行け、今回だけは兄弟のよしみだ、見逃してやらぁ。だが……」

 耳元にまで届くんじゃないかというくらい、不気味な三日月の笑みを浮かべるマーヴィ。

 「次は容赦なく撃ち殺す!」

 最後に、一つだけ訊いておかなければならない事があったので、銃を向けられたままノラ・シアンが声を出す。

 「マーヴィ兄さん、ペンベ兄さんはどうしたんだい?」

 すると、国会議事堂へと向かいつつあるマーヴィが吐き捨てるに呟いた。

 「あんな奴知るか!」

 ……こう言う以上、ペンベ兄さんもどこかで生きているんだろう。

 「隊長、見て下さい!」

 ドブロクが頓狂な声を挙げて、国会議事堂を指さす。

 そこには、緑地に原子の光を意味する黄色の魂とクロスしたシミターの、アトゥンの火の旗が靡いていた。


マーヴィはトルコ語で「青」。ベヤーズは「白」。ペンベは「ピンク」。カッファレンギーは「茶色」。そしてシアンは「黒」。

ノラ・黒……

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