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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑨


 国会議事堂を出ると、10代ばかりのシーラーズ隊の兵士達が着剣をして、最敬礼をしながら見送ってくれた。まるで儀仗兵の様だ。

 「やっこさん達、本当は怖くて萎えそうなのに……てぇしたもんだぜ」

 メフメド伍長が呟く。

 そうだ。将軍の大義の為に死んでも良い事なんざ全くない。昔の騎士とかの時代なら、死んでも功績があるために残された家族に報いる事が出来たが、今は記録にすら残りゃしないんだ。無駄死に以外の何物でもない。

 それでも平静を装って、最後の矜持を見せて来たのだ。彼等の心意気にこちらも黙って最敬礼を返した。

 逆に言えば、サンダリエ将軍はそれだけのカリスマを持っているともいえる。

 敵の反攻が激しくなってきたので、身を屈めながら来た道と同じルートで戻る事にする。

 

 1リーグ(1.8㌔)も進んだころであろうか、国会議事堂から大音量のスピーカーがサンダリエ将軍の声を流し始めた。

 『聖都の諸君…諸君らの期待に添うため、北部同盟を代表し、我々シーラーズ隊はココ…聖都に戻ってきた。諸君らに安堵の表情を届けたかった、心配ないと伝えたかった』

 ここで少し、将軍が言いよどむ。

 『だが期を逸って、私は少々フライングをしてしまった様だ。諸君らの期待に応えようとして、逆に絶望させてしまったかもしれない。今や戦線は細り、聖都はまたしても逆徒共に占拠されつつある。……それでも忘れないでほしい、我々が一度は来れたのだという事実を。チャンスはいくらでもあるという事を!』

 ここでまた云った区切られる。何やらバックヤードの方が騒々しい。

 『止まない雨は無い。今しとどに濡れそぼるこの雨とて、いつかは止むのだ。諸君、忘れるな、あの深紅の師団旗を! 約束しよう、この街の解放を! 諸君等が望む限り、あの旗は必ず戻ってくる。暴力で人を虐げ、子供を殺し、女をレイプする事が当たり前だと思っている輩共を駆逐するため!』

 いよいよマイクの向こう側から銃声が聞こえてきた。もう将軍の立てこもる一室以外は占拠されてしまったのは、想像に難くない。

 『それまで聖都の諸君、より一層の奮闘せよ…健闘を祈る!』 

 最後に銃声が一発、それとハウリング音が聞こえ、唐突に放送が終わった。

 「…隊長、イケませんぜ!」

 デカがノラの腕をがっしりと掴んだ。思わず駆け出すと思ったからだ。

 「…デカ、でも将軍が……!」

 「忘れねえで下せえ、我々の任務は『師団旗を持ち帰る事』です。将軍の救出は計画にありませんし、無理です!」

 「…でも!」

 「隊員の命の事も考えて下さいよ! アンタ、シーラ-ズ隊の若い兵士見たでしょうが。きっと、もう全員殺されてますぜ! ウチの隊員も道連れにするつもりか!」

 グッと奥歯を噛みしめ、体の力を抜いたノラ。

 「…デカの言う通りだ。帰還を第一としなければ」

 フゥー…と一息入れたデカの耳に「敵機械化部隊を視認、コッチに来ます!」との一報。

 「なにぃ、まだそんな余力残していやがったのか、きゃつ等!」

 装甲トラックがゴロゴロと10台近くこっちにやって来て、至近距離で止まった。

 「……お前、まさか……シアン? ノラ・シアンか!?」


サンダリエ・マッサ将軍の名前は昔、作者がトルコ語習っていた時に単語を憶え易くする様、適当に付けた名前です。因みにトルコ語で「机と椅子」ですw

サンダリエ将軍の最期の言葉はどうしても孫文最期のの言葉に寄せてしまいました。なるべくそうじゃないようにしたつもりだったんですが……「革命未だならず、同志よ、協力せよ」というやつです。

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