第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑧
「サンダリエ将軍、一体なぜこんな無謀な作戦を敢行したのですか!?」
部屋に入ったノラの開口一番がコレだった。
「貴様、将軍に対し無礼だぞ!」
息巻く副官を制したのは、当の将軍本人。
「いや、よい。良いのだ。英雄のいう事も尤もである」
そうしてまた窓の外を見やった。
「見えるか、カーラマン。信じられるか?」
唐突な問いに戸惑いを憶えるノラ。
「な、何がです?」
「この聖都A→Hはザヒル・シャー一世統治の頃は、花と木々にあふれた、大ユピタル一の楽園だと言われていたのだ」
目を閉じて、その瞼の裏にかつての栄光の幻想を見ている将軍。サンダリエ将軍はこの星では稀有な、生き証人なのか。
「…それがどうだ、今では瓦礫と廃墟で出来たスラムになり果ててしまった!」
カッと目を見開き、怒りを露わにする。
「人民は日々の暮らしに困り、『アトゥンの火』の暴政に怯える毎日だ。子供達にはなんの希望も無い。君らも来る途中でたくさん見ただろう、戦火に逃げ惑う彼ら無辜の民を!」
気圧されぬ様、息を大きく吸って冷静に努め、相手を見据えるノラ。
「将軍……お言葉ですが、戦争は一勢力だけでは起きません。敵対する者が生じて初めて戦闘が起こるのです。この一因に我々『北部同盟』も無関係ではありません。第一『ムジャヒディンの争い』を起こして聖都をメチャメチャにしたのは、サンダリエ将軍…貴方もその一人なんですよ」
「もちろんそうだ。だが、シーラーズに居ると渇望の声が日々大きくなるのが、嫌でも耳に入ってくるのだ。『パンジール・ウルケーが聖都を開放するのはいつなのか』とね。その希望である師団旗を、希望が絶えて絶望が覆い尽くす前になんとしてでも見せたかったのだよ!」
「その無茶の為に、バルジによってシーラーズ隊は包囲殲滅の危機にあります。そのためにシーラーズ隊の若い兵士達をも巻き込んで…このあと来る貴方達の負けっぷりを見たら、一瞬の希望を見せた後に、より大きな絶望が来るのは必然です! 上げて落とされたら、市民はそれこそもう立ち上がれないのではないですか?」
大きな目でノラをぐっと睨む将軍。ココで目を逸らしたら負けだ、ノラも背中に冷や汗を感じながらグッと堪える。
「……そうか、私は間違えていたのだな」
フッと力なく項垂れたのは、サンダリエ将軍の方だった。
「師団旗はお返ししよう。我が軍も解体して、パンジール・ウルケーに合体する事にする…尤も、ココで全滅しなければの話だがな」
副官に指示して師団旗を下す様に伝えると、サンダリエ将軍は寂しく笑った。
何か言おうとしたが、何を言ってもおためごかしに思えて、口を噤むノラ。
「我が軍は解体するが、聖都からの撤退戦を指示する者が必要だ。それに……ここで生き残ってしまっては、若くして命を散らしてしまった兵士達に申し訳が立たん」
デカと師団旗を畳んでいたノラが何か言いかけようとするのを、デカが押し留める。
確かに、この作戦のケツを誰かが拭かなければならない。そしてその役目は誰がどう考えても、サンダリエ将軍である。
何も声をかけるべきではない。
ただ、黙って最敬礼をし、部屋を後にした。




