表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
62/135

第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑥


 パンジール・ウルケーの糧食は、そのまま食べるとモッタリとして美味くない。基本的にカレーに小麦粉を練りこんだレーションであるが、なんか…0「腹立つ」味なのだ。

 言うならば、甘くないヌガー。カレー臭いヌガー。

 だから皆んな湯を沸かして、レーションを放り込む。するとカレー味の蒸しパンになるのだ。ついでに少しだけ取っておいて、その湯に溶かすと薄味のカレースープになる。

 専ら今の所、兵隊で流行ってる食事方法がこれである。

 戦場の真っただ中で火を起こせば、それはそれは目立ってしまう。だが、そのリスクを鑑みても、兵隊の「やる気」を削がない事の方が重要だった。

 眼下を見渡せば、もう戦端は拓かれ、銃弾が我が物顔で飛び回っている。


 「…チキショーメ…やりやがってくれたぜ……!!」

 不意に見渡したデカが空を仰いで呻いた。

 釣られて見上げたノラの視界に入って来たモノ――国会議事堂に威風堂々となびく、パンジール・ウルケーの師団旗だった。

 つまり、サンダリエ将軍のシーラーズ隊はもう既に中央突破して、首都突入に成功したという事か。

 いや……それにしては戦闘の勢いが凄い。そうだ、「アトゥンの火」も再奪還のモードに切り替えているという事だ。なればこの場合、バルジで包囲網が敷かれつつあるシーラーズ隊の方が圧倒的に不利である。そう、つまり時間がもうないという事。

 「―イズミル隊、すぐに出立するぞ! 40秒で支度しな!」

 トルノヴァツ特務曹長がガンとした声で怒鳴ると、総員が大わらわで鍋をひっくり返し、消火しだす。

 メフメド伍長とデカが浸透行軍するため先行して駆けていき、比較的安全なスポットを見つけると手話で知らせる。

 残りの10数名が弾の行きかう中を極力背を屈んで、ダッシュで駆け抜ける。もはや敵側にもこちらの存在は知られた様で、今までの流れ弾から明確にこちらの命を脅かしてきている。

 それでも負傷者も無く、何とか首都の市街地部分へと突入する事に成功した。何より敵側に機甲部隊が居ないのが助かっている。

 「狙撃ポイントにオレ等、昇りましょうか?」

 ドクズとセキズが勢い込んで提案してきたが、我々はココで迎撃する訳ではないし、帰りもこのルートを使うとは限らないので、やんわりと短く首を振って却下する。その代わり、ドブロクに向かって指令を出す。

 「ドブロク、首都に潜入した事は、本部に報告しておけ!」

 「どおりゃあああ!!」

 巨躯で岩男の様なイスメト一等兵が1オルタ(14.8mm)重機関砲をぶっぱなし、弾幕を張って血路を開いた。

 「今だ、1/4リーグ(約450m)先のビル群まで前進!!」

 それぞれにバラバラに駆け抜けていく。

 「チキショーめ、まっすぐ進むんじゃねえ、オーデック共が! 蛇行して行け!」

 後ろでデカが新兵に向かって怒鳴っているのが聞こえたが、正直自分の事だけで精一杯。新兵の様子までみれるデカは偉い!、と思った。

 「ぜえぜえ……脱落者は居ないか?」

 目的地に着き、壁を背にして緩衝地帯に入ったことを確認しながら、後から来たデカに訊ねる。

 「へへへ……ヘルメット吹っ飛んだ奴や弾掠ってるのは居ますが、イズミル隊、未だ健在でさぁ!」

 見れば、もうメフメドが次の緩衝地帯に向かって駆け出していた。

 「この宵闇だったのが、吉と出てまさぁな。あと2~3回、潜り抜けたら国会議事堂に辿り着けやすぜ!」

 トルノヴァツがニンニク臭い息で囁く。

 なんてこった……まだ2~3回もこんな視線潜り抜けないといけないのか……諦観の笑みが自然と出た。

 「行くぞ、イズミル隊! 旗に続け!」

 ドブロクの持っていた旗をノラ自ら手に取って、我先にと駆けだした。帰ったら覚えてろよ、扇子男!


トルノヴァツ特務曹長がニンニク臭いのは、安酒を常飲しすぎたため肝臓がやられてるからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ