第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)⑥
パンジール・ウルケーの糧食は、そのまま食べるとモッタリとして美味くない。基本的にカレーに小麦粉を練りこんだレーションであるが、なんか…0「腹立つ」味なのだ。
言うならば、甘くないヌガー。カレー臭いヌガー。
だから皆んな湯を沸かして、レーションを放り込む。するとカレー味の蒸しパンになるのだ。ついでに少しだけ取っておいて、その湯に溶かすと薄味のカレースープになる。
専ら今の所、兵隊で流行ってる食事方法がこれである。
戦場の真っただ中で火を起こせば、それはそれは目立ってしまう。だが、そのリスクを鑑みても、兵隊の「やる気」を削がない事の方が重要だった。
眼下を見渡せば、もう戦端は拓かれ、銃弾が我が物顔で飛び回っている。
「…チキショーメ…やりやがってくれたぜ……!!」
不意に見渡したデカが空を仰いで呻いた。
釣られて見上げたノラの視界に入って来たモノ――国会議事堂に威風堂々と靡く、パンジール・ウルケーの師団旗だった。
つまり、サンダリエ将軍のシーラーズ隊はもう既に中央突破して、首都突入に成功したという事か。
いや……それにしては戦闘の勢いが凄い。そうだ、「アトゥンの火」も再奪還のモードに切り替えているという事だ。なればこの場合、バルジで包囲網が敷かれつつあるシーラーズ隊の方が圧倒的に不利である。そう、つまり時間がもうないという事。
「―イズミル隊、すぐに出立するぞ! 40秒で支度しな!」
トルノヴァツ特務曹長がガンとした声で怒鳴ると、総員が大わらわで鍋をひっくり返し、消火しだす。
メフメド伍長とデカが浸透行軍するため先行して駆けていき、比較的安全なスポットを見つけると手話で知らせる。
残りの10数名が弾の行きかう中を極力背を屈んで、ダッシュで駆け抜ける。もはや敵側にもこちらの存在は知られた様で、今までの流れ弾から明確にこちらの命を脅かしてきている。
それでも負傷者も無く、何とか首都の市街地部分へと突入する事に成功した。何より敵側に機甲部隊が居ないのが助かっている。
「狙撃ポイントにオレ等、昇りましょうか?」
ドクズとセキズが勢い込んで提案してきたが、我々はココで迎撃する訳ではないし、帰りもこのルートを使うとは限らないので、やんわりと短く首を振って却下する。その代わり、ドブロクに向かって指令を出す。
「ドブロク、首都に潜入した事は、本部に報告しておけ!」
「どおりゃあああ!!」
巨躯で岩男の様なイスメト一等兵が1オルタ(14.8mm)重機関砲をぶっぱなし、弾幕を張って血路を開いた。
「今だ、1/4リーグ(約450m)先のビル群まで前進!!」
それぞれにバラバラに駆け抜けていく。
「チキショーめ、まっすぐ進むんじゃねえ、鴨共が! 蛇行して行け!」
後ろでデカが新兵に向かって怒鳴っているのが聞こえたが、正直自分の事だけで精一杯。新兵の様子までみれるデカは偉い!、と思った。
「ぜえぜえ……脱落者は居ないか?」
目的地に着き、壁を背にして緩衝地帯に入ったことを確認しながら、後から来たデカに訊ねる。
「へへへ……ヘルメット吹っ飛んだ奴や弾掠ってるのは居ますが、イズミル隊、未だ健在でさぁ!」
見れば、もうメフメドが次の緩衝地帯に向かって駆け出していた。
「この宵闇だったのが、吉と出てまさぁな。あと2~3回、潜り抜けたら国会議事堂に辿り着けやすぜ!」
トルノヴァツがニンニク臭い息で囁く。
なんてこった……まだ2~3回もこんな視線潜り抜けないといけないのか……諦観の笑みが自然と出た。
「行くぞ、イズミル隊! 旗に続け!」
ドブロクの持っていた旗をノラ自ら手に取って、我先にと駆けだした。帰ったら覚えてろよ、扇子男!
トルノヴァツ特務曹長がニンニク臭いのは、安酒を常飲しすぎたため肝臓がやられてるからです。




