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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)④

ハリデ二等兵は背がひょろ長い、おかっぱ茶髪な女性です。メガネかけてます。


 三角の青地に金刺繍のローレルを模した草が円環を為す。その真ん中に横向きのハウンド・ドッグ。それに続く「IZMIL」の金文字。

 それが新規に出来たイズミル隊の旗だった。

 大ユピタルに入植した者は、地球テラでいう所の中東の人種が多い。中東の人は犬を嫌うため、当然デザイン時に一悶着あった。

 だが、ノラの「嫌われている犬だからこそ、我々に相応しい」という自虐的な発言の元、決定したのだ。この旗には、部落民出身である事の皮肉アイロニーが詰まっている。敢えて「狡兎死して走狗烹らる」の狗になってやろうという気概でもある。

 宴会で呑んだくれていた隊員がそのピカピカの旗を見た瞬間、目をキラキラさせて、整然と行軍の隊列を整える。

 今までの隊員はデカ曹長、ドブロク上等兵、スレイマン軍曹、ドクズ&セキズ上等兵、イェディ伍長、オン一等兵に加えてノラの8名。

 これに加え、シュトラスバット…懲罰部隊の面々を懲罰恩赦の代わりに二階級降格という形で、引き取ったのだ。

 懲罰部隊は正規部隊ではないので給料が出ないのだ。だから例え二階級降格でも給料の支給される正規部隊の方が圧倒的に待遇が良い。

 トルノヴァツ中尉がトルノヴァツ特務先任曹長となり、副官に腹心のメフメド・テヴフィク伍長を据えた。特筆すべきは懲罰部隊にいたガンナーのイスメト一等兵か。普段は大男のくせに小心者で泣いてばかりなのだが、一旦重機関砲の前に座ると不退転の勇猛なる弾幕を展開できるのだ。

 元・懲罰部隊の14名が合流して、以上22名の編成がイズミル隊の先駆けである。

 「あ~、であるからして~……」

 こういうのが不得意なのか、デカがしどろもどろに経緯を説明する。

 「イズミル隊、出立!」

 ノラの一声で、部隊が進む。とはいえ、イズミル隊の付属品「ボモンティ」に乗船するまでの短い行軍ではあるが。

 ボモンティを操縦するはイズミル市から応募してきた女性兵士のハリデ二等兵。繊細な操艦さばきが、デカよりも良いと好評を得たためだ。

 「ボモンティ」で一気にバルジ部分に向かって南下する。


 2時間も経っていないだろう所で大部隊に接した。

 「おーい、我々はパンジール・ウルケー所属独立部隊のイズミル隊である。麾下はどこの所属であるか?」

 デカが声高々に名乗り上げると、向こうも声を張り上げた。

 「俺達は、ムアントロス将軍麾下、混成旅団の第7中隊だ!」

 「本隊はどこか? 我々はシーラーズ隊を追っている!」

 「本隊に訊いてくれ! ここから先、10分くらいの場所にいると思う!」

 見れば、もう日が暮れる。ユピタルは少なくとも3日間は夜が続く。当初予定していた木星反射板が失敗したので、結局太陽光板ヘリオサイドを活用せざるを得ないのだ。コレの配分は国力で決まる。ある意味、反射板の権利取得がこの星の戦いの根幹なのかもしれない。

 早くも冷え冷えとしながら、嫌な考えが溜まってきたのをノラは頭を振って払う。

 大ユピタルの憂鬱……

 この星に入植した人間は大なり小なり鬱を抱える事になる。日照関係なんだと思うけども、詳しくは分からない、ちゃんとした医者も居ないからだ。

 更に歩を進めると、いよいよ戦闘区域に入ったようで、時々散発的に流れ弾が「ボモンティ」に当たりだした。

 「チクセウ! 俺ら小隊になったとはいえ、まだたったの22人だぜ!? 勝ち目が有りませんや、原隊復帰しましょう」

 デカの言うのも尤も。だが、デカにも言わなかった好奇心がどうしても邪魔をする。

 『なんでサンダリエ将軍は師団旗を盗んだのか?』

 この問い…地味にじわじわと気になってくる。

 だから、もう少し…もう少しでも、ギリギリのラインまで行きたくなってしまう…そんな魔力のある案件なのだと思う。

 「イズミル隊、先へ進むぞ!」


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