第一次聖都攻略戦(バルジ作戦)②
前にも書いたと思うが、もう一度重複することをお許し頂きたい。
軍閥跋扈するユピタルの地では、階級などにあまり意味は無い。
小豪族であれば、独立して覇権を唱えるでも良いし、大豪族に摺り寄った後で階級を買う事も可能である。
このシステムに疑義を唱えて、集権制の帝国を築けたのがヴ帝国であり、連邦制を採る事によって軍閥を抑えたのがユピタル社会主義連邦共和国(JSR)である。
パンジール・ウルケーはその中間とも云える。そしてパンジール・ウルケーとウスキュダルを母体とした北部同盟も同様である。財力・武力はそのまま階級へと直結するのだ。
すごくぶっちゃけて言えば、どんなクソバカでも金持ちだったら将軍になれるのだ。
だが、パンジール・ウルケーとしては今までの大ユピタル王国時代の様な轍を踏むわけにはいかない。
大ユピタル王国時代は開拓民の世代であった。己が裁量で、開拓地を切り開いたのだ。一所懸命の刈って切り取り次第…それがユピタルの第一世代である。
だがこれからは有能な者は然るべきポジションへ。適材適所、システマティックに。無能な者は閑所へそれが第二世代の考え方である。
とは言え、それが当たり前だと思ってはならない。どれだけ科学が進もうとも、人類の行う事はそんなに進歩しない。
派閥、縁故、財力……そういったものを排除して、純粋に力ある者を掬い上げて行こう…というのが、パンジール・ウルケーきっての大軍師・フィデル参謀の考えだった。
そして、その厳しい篩に残った者が居た…………
パンジールに「准尉」という階級は無い。少尉がそれに準ずる。本来ならば軍学校に一年間就学した者が充てられる階級である。ただ、そんな悠長なことは言っていられない。何故ならユピタル世界では、育成の時間と機関と、更に言えば指導者に金が不足していたからだ。
なので少尉は副官クラスとして各部隊に配属し、経験を積ませる。ついでに昇進システムをフル活用する。現場の適任者をドンドン上げていくのだ。それでも定年までに生きている者はほぼ居ない。生きていてもだいたい中尉辺りで定年を迎える。
そこで中尉から小隊指揮権を付与した。逆を云えば中尉から独自の部隊を編成可能なのだ。
独立部隊の功罪は色々ある。基本的にその部隊は所属する都市名を名乗る事である。その代わり、部隊運営をその都市が担う。
功罪は色々ある。中央のパンジールとしては、直属の部隊ながらカネを払う必要が無い。その都市で賄える分の軍備を備えたらいいのだ。
都市としてもその部隊が活躍すれば、それはそのまま都市にとっての誉れとなる。文字通り「故郷へ錦を飾る」のだ。部隊が活躍すればするほど、人口も増え、活性化するし、逆に部隊が不誠実な事をすれば、それは都市にとっての不名誉と直結する。
だから無理をする部隊も居る。でもそういうの長続きせず、部隊も都市も衰退していくのだ。
「荘園制度」と似ている…とフィデル参謀は感じている。荘園を任命する権利は王権。それを運営するのは、その在郷の者ども…という感じである。
前置きが随分長くなった。
血相変えて呼び出した結果、「イズミル隊」の面々を見て我等が軍師は苦虫を噛み潰したかのような顔になる。
呼ばれた側も同様である。手に手にバイオホップのジョッキを持ったまま謁見しているのが何よりの証左だ。
「え~…という訳で、建隊記念パーティの途中でしたが、急きょ呼ばれて馳せ参じました“イズミル隊”です」
ジョッキを一気に煽ってから、副官のデカ曹長が挨拶をする。
隣にいるノラ“中尉”は、いつジョッキを飲み干せばいいのか、タイミングを逸している。
「おい、近衛兵! 誰だ、こんな野良犬を呼んだのは! つまみだせ!」
こちらも動転して、口汚く扇子で追い払おうとするフィデル参謀。
「いや…だから呼んだのはアンタだろうが!」
流石に無礼講で口答えするノラ。
そう。セミ=パラチンスク要塞の功績によって即時に中尉となったノラは、イズミル市のラバニ師からの要請によって、規定通り自分の部隊を作る事になったのだ。
ラバニ師としても部落民出身のノラが「英雄」として名声を恣にしている今だからこそ、イズミル市の喧伝になると思ったのであろう。実際、日々の全世界の新聞がノラ中尉の動向に一喜一憂していた。
イズミル出身の部落民による部隊「イズミル隊」が、信じられない功績を築いているのだ、これほどの栄誉回復は無い。




