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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
54/135

セミ=パラチンスク要塞攻防戦⑩


 明けて17日。

 未だ日の光は届かない月齢なので、母なるユピタルがその大赤班で物憂げに此方を見つめている。

 12時間近く寝てしまったという事かと、働かない頭を必死で巡らすノラ。つまりそれは、敵の侵攻も無い、という事だ。

 「敵さんの動向は?」

 歩哨に立っていたドブロクに声をかけると、目にした双眼鏡を下してドブロクが静かに頭を振る。やはり読み通り、敵の動きは無いという事らしい。

 「…パンジール・ウルケーに向けた援軍要請の反応は?」

 それに対しても、同様に頭を振ったドブロク。ただし、目線が落ちている。

 …まあ分かっていた事だが、パンジール・ウルケーも忙しいのか、もしくはあの扇子男が糸を引いているのか分からないが、増援の意思は無いらしい。

 つまり、命令が出ない限り、ノラ達は此処を死守し続けなければいけないのだ。エッラい事になったな…と、思わず空を仰ぐ。

 「やぁおはよう、カーラマン」  

 事務所からメメット中尉が書類を手にして出て来た。

 「悪い報せだよ。昨日の攻勢で、もう殆ど弾薬が尽きかけている。あと一回の戦闘分しか残ってないんよ」

 「やれやれ……もう懲りて敵さんが来ないことを祈るばかりだよ」

 今度はオン二等兵が元気に駆け寄ってきた。

 「たいちょー、ちぃーっす! 捕まえたヴ帝国の制服さん、容体が安定したっすよ〜」

 おお、そうか。やはり戦争とはいえ、人を直接刺し殺す感覚と言うのは気持ちの良いもんじゃない。何だか罪悪感が晴れた気分になって、周りの他の兵隊達に申し訳なく思ってしまい、あたふたしてしまう。

 「あ、ああああ…いや…うん、ま、まあ良かったよ。オンの手当のお蔭だよ、ありがとう。後で様子見に行くよ」

 そして部隊へ朝食の指示を出して、そそくさと逃げ去る様に辺りの巡回を始めた。

 「チキショーメ…こいつはマジィでさぁね…」

 視界の先に居たのはデカ軍曹。彼の視線の先を追うと、西の城壁の先になんと、新規の『アトゥンの火』の部隊が展開しているのが見えた。その数、おおよそ1個連隊(※2000人程)

 「向こうは持久戦に持ち込んできたってのか……!?」

 「いや…離脱した機甲師団が増援と共に舞い戻ってきた…てな感じですかね」

 マズイ……実は西の城壁は修繕が追い付かず、白い紙を貼って誤魔化しているだけだ。当然罠だって準備していない。北側の城壁と違って、こっちを攻められたらあっという間に陥落する。

 「こっちはもう弾薬だって残っていないんだ。なんとか北側に移動してもらう訳に行かないだろうかね?」

 「……まあ、様子見でしょうね。あちらさんも手痛い目をみてるから存外、威力偵察だけかも知れやせんぜ?」

 その時、後ろから息せき切ってドブロクが駆け込んできた。

 「ノ、ノラ隊長…緊急指令だズラ!」

 指令…という事は、パンジール・ウルケーの主力・アナトリア師団との連絡が付いたという事か。

 ドブロクが背負う、通信機の受話器を慌てて取ると、実に抑揚のない機械再生音が耳に飛び込んできた。

 『〜セミ=パラチンスク要塞守備隊に告ぐ。こちらはあと数日のうちに大パラチンスク要塞の攻略を完了する。よって、あと5日間の10月23日夕刻まで持ち場を順守すべし。それ以降は増援を差し向ける事が可能。追記…なるべく敵軍を引き付けよ。こちら側に向かわせぬように。繰り返す〜〜』

 

 頭が真っ白になった。

 

 あと5日間、死守しろだって?


 しかも、敵をここに繋ぎ止めておけだって!?


 「チキショーメ……」

 デカが言ったのかと思ってハッとする。自分の顎が動いていたからだ。堪えていた悪態がついにノラの口からこぼれた。

 

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