セミ=パラチンスク要塞攻防戦⑨
「チキショーメ、かかってこいやぁ!!」
デカの機関銃が盛大に火を噴いたのを確認して、後方に控えていたスレイマン率いる擲弾筒部隊に無線で合図した。
ひゅるる……
「弾着、今!」
スレイマンの声と共に、敵軍の後方から一気に炎の壁と爆音が襲った。
彼の精緻な計算で同時弾着射撃が功を奏し、退路を断たれた敵軍に動揺が広がっていくのが感じられる。
その間にも地道に狙撃部隊が敵兵を減らしていく。
敵のソワソワした気配がビビットに伝わるくらいには、神経が昂っているのがノラにも判った。
今だ、ここで決定打を喰らわせてやる!
「ドブロク、疎塞気球に付いてる爆弾をお見舞いしてやれ、絨毯爆撃だ!」
「は、はひっ…!」
慌てて無線のボタンを押すドブロク。
すると疎塞気球にぶら下がってた爆弾がこれでもかと敵の上空に落ちて来た。
塹壕に身を伏せ、耳を塞ぎ、口を開ける。
それでも四肢が吹き飛ぶくらいの衝撃と爆音が辺りを包んだ。
そして、耳が機能しなくなる。
―どれくらい経ったであろう。
キーンと耳鳴りがして、自分がまだ生きているのを再確認したノラは、のそのそと塹壕から這い出た。
辺り一面、隕石でも落ちたかの様にクレーターになっていた。
もう、障子堀も無い。敵も居ない。
ただ、黒いくぼみが大きな口を開けて嗤っていた。コレは、死神の口だ……
味方守備隊の方は特に変わりはない。強いて言うなら、壊れた壁の傷口が大きくなってしまった事くらいか。
遥か向こうに、敵の本部のテント群が見える。
「イチチチ……派手にやらかしましたなあ!」
壁の向こうに居たらしいデカが、ボコボコになったヘルメットを脱ぎ捨てて顔を出した。
「敵軍、全滅っしょ!」
オンも要塞から飛び出し、跳ねて体全体で喜びを表している。
「いや…未だだ。敵はまた来るさ。そのためにも、また備えなければ……!」
ノラも内心ホッとしながら、緩む顔を引き締めようと敢えて、苦虫を噛み潰すような表情をしてみせる。
「ただ……今日くらいは寝ても良いかもな……」
そう言うと、数人の歩哨を指名して、泥の様な体を引きずりそのままベッドに倒れこむのだった。
ちょっと構成失敗して、短くなってしまいました。




