イズミル再建⑧
渡された書類を見れば近日中に輸送ユニットと、スナイパー用の銃が来るらしい。ここガルガンティン市ではテラに頼らず、兵器を製造・加工できる工廠があるらしい。使う側としてはどこのでも構わないので、ちゃんとしたのが欲しいというのが正直な気持ちだ。
これは当たり前過ぎて特筆しなかったが、よく銃がジャムる。テラから運ぶ途中で粗雑に扱われるうちに弾倉がバカになるのか、若しくは初めからジャンク品をユピタルに運んでるのか…は測りかねる。
銃自体も歪んでいるのが多い気がする。それでも銃は銃だからと補正して、騙し騙し使ってはいるけど、それでもやっぱり真っ直ぐ弾が飛ぶのが良いに決まってる。
今度配備されるのは、旧世紀のバレットM82に近いタイプだと聞いた。バレットM82は数百年前から使用されている兵器だが、安定のタフさと運用面の高さが、過酷な環境のこの星でも合致している。尤もAK47だって見かけるんだ、旧世紀の武器なんて別にこの世界じゃ不思議ではない。
驚いたことに、もうイズミルまでの乗り合いバスが出ていた。安い運賃とはいえ大きなオート・リキシャーで3輪タイプ、安全面なんかは二の次なのだ。
道だって舗装なんてされてない。所々に砲撃で出来たクレーターの様な穴ぼこがあり、それを小器用に避けて走るから、振られる事振られる事。
何とかイズミルまで到着し、フラフラ下りながら軽い吐き気を深呼吸で押し戻そうとしていると、後ろから声をかけてくる者があった。
「よぉ、ここの隊長さんてアンタかい? カーラマン」
振り向くと予想通り、悪人面で見るも無残なボロクズの制服を着た、異常に目つきの鋭い無精ひげの男が卑屈に笑っていた。
「よぉ、オレっちは『懲罰部隊』の小隊長、ヴェリキ・トルノヴァツ中尉だ。よろしく」
差し出された掌を、躊躇しながら握り返す。すると、グッと引き寄せられてメンチを切ってきた。今日はよくメンチ切られる日だな。
「よぉ、ココの責任者は英雄ドノかもしれんが、専任指揮官は中尉のオレっちだ。そこン所…わかるよな?」
肩章をトントン叩くヴェリキ中尉の後ろを見れば、やはりガラの悪そうな奴らが10人ほど控えている。
「あ、ああ…分かった……」
「“分かりました”…だろうがよぉ?」
掌の骨が軋みあげた。
「わ、分ッかりましたぁ!」
「よぅ、互いに尊敬は必要だよな。じゃあオレっち等の宿舎まで案内してくれよぉ」
デカが予てから懸案中であった娼館の出来上がりを巡察がてら眺めていると、「デカ~えも~ん~!」と涙と鼻水でグチャグチャに顔面パックした珍妙な生き物が、こちらに向かってくるのが見えた。
「ぅおっ!?」
思わず咥えタバコを落としつつ、咄嗟に小銃を構えるデカ軍曹。
「ひ~ど~い~!」
よく見ればその物体、ノラ・シアンではないか。
嗚咽と鼻水啜る音の垣間から、なんとなく事情が呑み込めた。
「チクチョーメ……シュトラスバットと一緒とは、手の込んだ嫌がらせしやがる……」
そして閃く。
「チキショーメ! 今日この店が開店するらしいんで、新任祝いとしてやっこさん等をこの店に招待してやんな。あと、いいか……」
そう言って耳元でノラに囁く…途端に喜色満面になるノラ。
犬ッコロみたく、今来たガルガンティン司令部に向かって駆け出すノラを見送りながら、新たな煙草に火を付けつつデカが、誰ともなく呟いた。
「いいか? こういうのは文字通り“骨抜き”にしてやんだよ。なあにオトナはオトナに任せとけ。そんで特務曹長殿はドブロクと楽しくお留守番してな」
それから娼館の内装を仕立てる職人さんにハッパを掛けた。
「気張れよ~、今日開店とたった今決まったからな! 上手く纏めろ、いきなり上客だぞ!」




