序章ー②
母さんと詩人の罵り合いが激しくなったところで、新鮮な空気を吸うためにシアンは甲板へと出た。
もう陸地が見える。パンジールは峡谷でもあり、島でもある。だからマルマラ海をもう越えて、そろそろ着陸するんだろう。
と、その時。
何か光るものが見えた。
「RPG……」
ブツは何度も見たが、自分の船に向けられるのは初めてだ。だからそれを認識するのに数秒を要した。
「か、母さん! たぁ、大変……!!」
全ては遅すぎた。
大爆発音と共に急速に感じる重力への回帰。貨物船の強度なんてたかが知れてる。RPG一発でこの様だ。
程なく大きな衝撃と共に大地へ叩きつけられる憂き目に遭う。
「…ぐガッ!!」
良かった……息が出来てるのは生きてる証。遠目にさっきまで乗っていた老朽船が弱々しく誘爆を起こしている。
「っ!!」
よく見ると、傍らにさっきの呑んだくれ詩人の上半身が転がっていた。きっと爆発で千切れたんだろう。勿論当然ながらこと切れている。
「クソッタレ…!」
続いて母さんの名を呼ぼうとしたら、母さんはもうすでに“戦働き”を開始していた。
「碌なシナモンが無いねえ…ほら何してるんだシアン! ボサッとしてるとオマンマの食いっぱぐれだよ!!」
「…母さん、もうこういう生活は辞めにしないか? もう、追剥みたいな生き方は嫌なんだ!」
「バカ言ってるんじゃないよ、この星では資源がとかく足りないんだ。だからこそこうして有効な物はリサイクルするんじゃないか。この生き方のどこに後ろめたさがあるんだ!?」
珍しくカッファレンギーが怒気を込めた口調で怒鳴った。母の言うのも一利有る。だけど、世間はこの行為を正当に評価してくれない。追剥はどこまで行っても追剥なのだ。だから世間は卑賎民と蔑むのだ。
「母さん、オレは別の生き方を模索してみるよ………」
「は! アンタの一番上の兄貴もそう言って投資を集めて、商売人になったよ! そんで、次の兄貴は皇帝に付き従おうと言って行方知らずさ! 3番目の兄貴は宗教に狂ったよ! 誰も! 育てたアタシに恩義を報いなかった! シアン、お前はバカだが、純粋だ。アンタくらいはアタシへの親孝行を考えてもいいんじゃないのかえ!?」
「母さん、オレは……!」
その時、またもや爆音と爆風が鳴り響き、一瞬にして辺りは黒煙に包まれた。
ややあって、ヒラヒラと白いビラが辺りを覆う。
「来たれ…若人??」
ビラに書いてあったのは募兵の案内。その大元は…パンジール・ウルケーのマスーラ司令の名前が書いてあった!
「よお、オタク……良いガタイしてるじゃない。どう…軍隊に入らないかい?」
がっしと握られた肩の先をみれば、これまた巨躯の男がこっちを見て微笑んでいた。
「軍隊って……オレの頑張れる場所はあるのかい?」
するとソイツは哀れんだ眼をしながらも上辺っ面で笑った。
「兄さん、軍は運とコネさ。実力があっても一発弾が当たればオジャンよ。だからアンタの運に賭けて賭けて…最後まで賭け続けて勝ったヤツが将軍になんだよ。アンタは自分に賭けられるかい?」
「じゃあ、BETするよ……」
「良いのかい? 追いかけても追いかけても先が見えねえのが軍人だぜ?」
コイツ…勧誘してきたと思えば、急に引き際も見せる。思ったよりも優秀な兵士かもしれない。だったら。コイツに勧誘されたオレもそれなりに見込みがあるのかも知れない。
幸い、黒煙で小うるさい母さんも居ない。
だったら。
賭けよう。自分の人生を。
「アンタの名前は?」
そのデカいヤツがオレの名前を訊いてきた。
「ノラ・シアン。戦争商人だ。アンタの名前は?」
するとソイツは何故か鼻を擦ってから答えた。
「デカ伍長だ。よろしくな、シアン」
・・・・・・・・・・・・
「シアン、どこ行ったんだい、シアンー!」
長方形を横に置いた様な声が響き渡る。
「くそ! アタイの息子は全部戦争に持っていかれちまったよ!!」