イズミル再建⑦
外からはまだ何とか見れたもんだったガルガンティン総司令本部も、一歩中に踏み言えれると満身創痍だという事が嫌というほど理解出来た。
二ホンという、昔テラにあった国のサムライは一夜で城を作り、敵からは見えない内側を後で作ったと聞いたことがあるけど……ここまでポンコツの要塞、いっそ打ち棄てて新たに作る方が早いんじゃないのかな、と内心思った。
「ガルガンティン要塞は歴史が古く、市民にとってのシンボルなのだ。そうそう簡単に棄てては住民感情が悪くなる」
上ばかり見渡していたので、扇子男こと、フィデル・マスーラ参謀総長がいつの間に後ろに控えていたとは気付かなかった。
扇子男と、その後ろにずらっと数多控える参謀部の将校達に圧倒して、反射的に背筋を伸ばして敬礼してしまった。…しかし、何でこっちの考えている事が分かったのだろう?
「貴君等は司令本部に先に行っていてくれ。私はこの者の報告を聞いてから伺う」
扇子で体よく取り巻きを追い払うと、手招きして己が個室へとノラを招き入れた。
何か言われるかと思ったが、意外にもノラが真面目に提出したレポートを読み込んでいる。
やがて最後の一枚を読み終えると、掌でパンと紙を払った。
「…ふむ。思ったよりも順調のようだな」
「は、はいっ」
ややあって、いつもの如くフィデル参謀が扇子で口元を隠した。
「君は知ってるかは知らないが、近々諸国連合が発足し、我々パンジール・ウルケーが盟主となるであろう」
「……」
「そこで連合が大攻勢を計画する筈だ。恐らく、あと2週間の内かもしれぬ」
思わずノラ・シアンの咽喉がゴクリとなった。
「な…攻め込む先は……!?」
時間が圧倒的に足りない。それに今イズミルを去るのは偲びない。もっと発展して成熟するのを見届けたかった…が、一兵卒に命令拒否など出来得る筈も無い。
「勿論、聖都A→H。……だがその前に立ちはだかる、始祖王ザヒル・シャーの築いた難攻不落の要塞『大パラチンスク要塞』になるだろう」
「!!」
大パラチンスク要塞。難攻不落中の難攻不落。というか、今まで陥落した事が無い。
圧倒的大火力主砲「ウシュムガル」が、100サンチ(㎝)の口径を以て近隣数十リーグの敵を粉砕するのだ。しかも、一日に2発が限度と言われた「ウシュムガル」は近年、近代改修が行われて超電磁砲となり、1時間に1発、しかも射程距離や威力が格段に増したという。
命中すれば跡形も無く消え去るのは勿論、圧倒的なその質量で、一個空中艦隊くらい簡単に一発で殲滅できる。そして要塞の装甲も厚く、艦砲射撃くらいではビクともしない。
―そんな所を攻めるのか……ノラの頭はクラクラした。
「召集がかかるのは間もなくだ、特別に教えてやるのは慈悲だと思え。早く陣容を整えておけよ」
なんてこった…心の休まる暇もないや。
「おっと! ウチの小隊からの要望である、狙撃銃の補充と移送手段は認められるんですか!?」
このままおめおめと引き下がっては隊員達に顔向けが出来ない。
かつてクルックベシ伍長も言っていたが、新兵だからといってゲンコで言う事聞かせたり、ハラスメントを繰り返していると、脱走したりして自分の評価に影響するそうだ。もっとヒドイと戦争中に後ろから撃たれたりもあるらしい……
なので兵は客だと思うくらいの態度で接しなければいけないそうだ。だからここで鼻先のニンジンを持ち帰らなければ、ブンむくれるだろう事は容易に想像できる。
「うむ。本来ならばそんな余裕もないし、君の為にそんな融通をする必要も無いのだが、こちらの条件を呑んでくれるのなら、融通しても良い」
扇子の向こうで笑った気がした。
「じょ、条件とは……?」
「なあに。君の所は部隊人数に対して駐屯地が大きい。なので『懲罰部隊』を一時期、預かってもらえまいか?」
『懲罰部隊』…! 死刑囚や軍務を著しく犯した者が、死刑の一等減刑を引き換えに最前線に赴く人間の盾……それが懲罰部隊である。が、何よりもその無法さと荒くれぶりが悪名を轟かせていた。
だからと言っては何だが、彼等はどこでもつま弾き者で、受け入れる場所など無かった。
「新装備と引き換えるか、それとも貧弱な装備のまま、大パラチンスク要塞に攻め込むか…どうするね?」
究極の選択…!!
汗がダラダラ流れる……苦渋の選択として、いや…初めから選択肢など無かった。
隊員を少しでも死なせない。
「生きて不実を見届けろ」という、我々の不文律。そのためには毒を咽喉まで食らわねばならないのだ。
「…懲罰部隊との同居、了承しました! しかし、期間は今度の大攻勢までとさせていただきます!」
「良いだろう。ではこちらも直ちに手配する」
手荒く部屋を出ようとする、ノラの背後にフィデルが一声かけた。
「―ああ、そういえば。何で君が要塞に付いて感じたことを言い当てたか、分かるかね?」
「…? いえ」
訝しげにかぶりを振るノラに、扇子男が言い放つ。
「君は考えている事が全部顔に出るんだ。今まではそれが武器になっていた。だがこれから先は弱点になると思った方が良い…そうだ」
そう言って扇子をもう片方の手で取りだす。
「私の扇子を進呈しようか? 君も……」
最後までセリフを言う間もなく、扉が大きな音を立てて閉まった。
「やれやれ、また修理が要るじゃないか……」
ウシュムガルはメソポタミアの神話に登場する、龍の名前です。だけど私ゃやった事無いんですけどグランブルーファンタジーにも出てくるらしくて、とにかくその情報ばっかりが検索で引っかかります。ちょっと調べ直そうかと思ったら元ネタが全然出てこない~!(その後、見つかりました)




