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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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イズミル再建⑥


 町に奔走して、はや3週間。

 そろそろ総司令本部(G.H.Q)に報告しないといけないし、狙撃銃の調達にも掛け合わなければならない。一応、レポートは何度か送ってはいるのだが……

 書類から目を離したノラが溜息を尽く。

 正直、あの扇子男に遭いたくない。ネチネチしてて全然性格が合わないのだ。正に水と油。

 だが今回はそうも言ってられない。司令部を出た先で、軽便トラックを駆るオヤジに声をかけ、丁度良くガルガンティン市街にまで杉の苗を買いに行くというので、便乗させてもらった。

 杉と言っても遺伝子改良を施した“マルチプル・タイタン杉”という品種である。大ユピタルのテラフォーミングの第三段階として、安定した酸素を供給するため品種改良を施したもので、とにかく二酸化炭素を吸いまくり、とても成長が速い。3~4年で0.1リーグ(180m)にも達する巨木になってしまう。

 基本的に遺伝子操作で数十年の寿命なのだが、ほんの時々、奥地でタイタン杉の生き残りが発見されたりもしていて、それはもう…2リーグ(3.6km)の高さ、周囲6リーグ(約10km)にも繁茂して、通称『ご神木』へと変容する場合も稀にある。ま、殆どないけど。

 建築資材としてはうってつけの高度も持ち合わせており、鉄、モルタル、木材を上手くハイブリッドさせた建造物がここ、ガルガンティン地方の特徴でもある。

 逆にこのタイタン杉は、何だか燃え辛いのだ。密度とかの問題らしいが、薪としては期待できない。しかしその特徴は逆にみれば防火剤の素質もあるという事。だから、それ故に建築素材としては欠かせない。

 これだけの建造ラッシュの中、タイタン杉で儲ける事を見越している…なかなかこのオヤジ野心家だな……等と揺られながら思っているうちに1時間ほどが経ち、やっとガルガンティン総司令本部に到着した。

 

 ガルガンティン総司令本部―

 ドン・ボルゾックが無謀にも強襲揚陸艦『アララト』で強攻衝角攻撃を行い、大破してしまった中央要塞がそれに当たる。

 だから、ここでもひっきりなしに再建のための建築現場の足組があちこちに乱立していた。

 ―因みに余談だが……

 本来ならば功績第一等であったドン・ボルゾックだが、このあまりに破天荒な突撃をした為、自艦アララトが大破。更にG.H.Qに使う筈だった要塞も壊して機能不全にしたため、その功罪を相殺する事となってしまった。なので昇格も無ければ降格も無かったらしい。

 ガルガンティンには現在、各国の軍閥ウォーロードが尻馬に乗ろうと多くの折衝を重ねているというだけあって、ひっきりなしに人が出入りしている。


 

 ユピタルの歴史は裏切りと絶望の連続だった。

 一番初めにザヒル・シャーの統一王朝があったのだが、新興王国ヴ帝国が発足。それの祝賀に王が訪問した隙を突いて大ユピタルは分裂、社会主義国家との分断戦争に突入する。

 それを撃退したのが各軍閥ウォーロード達……本人達は「聖戦士ムジャヒディン」と言っていたのだが、あろうことか今度は彼等同士が内輪揉めをしだしたのだ。

 その中で、法の秩序を元に急激に台頭し、聖戦士達を追い払ったのが「アトゥンの火」だったのだが、実質は法の秩序という名の恐怖政治と密告社会に人々は打ちのめされる。

 民衆は殆ど絶望していたが、一縷の望みがあった。それは軍閥のなかで唯一「ザヒル・シャーを取り戻して元の国家に戻そう」という運動を行っていた、パンジール・ウルケーであった。

 そのパンジール・ウルケーを目の敵にして潰したかったのが、アトゥンの火。そこでウルトラCの作戦でヴ帝国と同盟を結び、強国のヴ帝国にパンジール・ウルケーを潰させようと目論んだのだ。

 ところがマルマラ海戦にて奇跡の勝利。取って返す刀で、アトゥンの火の最重要拠点であったガルガンティンまで奪取に成功しているというのが今の現状である。

 だからこそ大義を持つパンジール・ウルケーを盟主に、アトゥンの火によって虫の息であった各国の軍閥「ムジャヒディン」が日参しているのだ。

 聖戦士達はある意味したたか…だが、或る意味海千山千のムジナ共でもある。北の小国で在った時のパンジール・ウルケーの発言には聞く耳を持たなかったくせに、奇跡の連戦連勝をした瞬間、尻尾を振ってくる輩である。

 そういう有象無象を相手にしなければいけないあの扇子男に、若干だが同情の念が湧いた。



 「おや…君は“英雄カーラマン”ではないのかね?」

 司令部の階段を下りてくる数人を引き連れた、洒脱なスーツを身に纏う、長身で金髪オールバックのイケメン青年に、目を奪われる。

 「? どちらかで会いましたか?」

 「いや、出会い頭に失礼。私、ヴ帝国の准将…オニール・アジーンと申します」

 あまりに身分違い、そして向こうの洗練された身のこなしに、ノラの身体は一気にぎこちなく緊張する。

 「あ、や。は…はじめ…まして?」

 気さくに握手を交わしてくるオニール准将。だがその握力は決して友好的ではない。

 「貴方のお蔭で、我が軍は大損害を被った…まったく脱帽しますね! そしてその英雄に遭えるなんて光栄ですな!」

 にこやかな笑顔。だが、顔は笑っていない。

 「きょ、今日は…ななな…なんのために?」 

 「ああ、捕虜協定ですよ。そうだ、君からも宜しく言っておいてくれたまえ」

 オニール准将はそのままぐっと顔面と顔面を近づけた。キス出来るくらいの距離だ。

 「ウチの不手際もあるが、キミ達が捕えたマーガレット・フィンチレイ少将は…我が軍の至宝だ! くれぐれも丁寧に扱いたまえ……!」

 そういうが早いか握手の手を突き放して優雅に髪を櫛上げると、後ろも振り向かず階段を下りて行った。

 「願わくば、貴殿とは戦場でまた会いたいものだ、ふふふふ!」

 パンジール・ウルケーでは有名人になったのかも知れないが、まさか外国にまで名前が知られているとは…いや、それ以上に彼の情報網が凄いのだろう。 

 …扇子男も得体の知れない、不気味な闇の淵を感じたが、このヴ帝国の将軍も底知れない恐ろしさを備えている。戦場で遭えば、きっと殺される。そんな予感がする。


 背筋がブルッときたので身を捩らせる。そして何故か涙目になって、ノラは得体のしれない渦中に自分が飲み込まれていくのをイメージした。


  

おかしい……予約投稿したのに、消されてる……

再度の投稿ですが、ちょっとニュアンスが間違ってるかも。どうして消えちゃうんだろ??


因みにマルチプル・タイタン杉はSFの大先輩・あさりよしとお先生のマンガ『宇宙家族カールビンソン』に出てくる「まるちぷる・たいたんぱー」のオマージュです。

そもそもマルチプル・タイタンパーは鉄道の線路を補正する作業用車なのは知っておりまして、ですが名前がカッコいいので使用させて頂きました。御礼申し上げます。 


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