イズミル再建④
駐屯地を維持するために必要不可欠な税金、つまり人頭税。
だが当初の話が違うと渋った住民側が出した対案……それは警察力と学校であった。
つまり、治安維持と学ぶ力を提供するのなら税金やむなし、という事だ。
この他に駐屯地側から提案したのは、戸籍登録管理である。
住民を戸籍によって管理すれば、いざという時に徴兵もし易いし、何より住民の把握をしていれば犯罪抑止にも繋がるからだ…と、デカが得意満面に言っていた。
そのデカとドブロクが当面、学校の教師として担当し、オレとイェディ、ドクズ&セキズが警邏を担当する事になった。
初日。そのイェディ、ドクズ&セキズを呼び、訓告を述べる。
「いいか、先ず第一に絶対に暴力や粗野な態度をとるな。どうしても対武力が必要な場合、必ずオレに連絡しろ。何でか分かるか、セキズ?」
突然質問をぶつけられたセキズが目を白黒させる。
「む、向こうの方が数が多いからですか!?」
「う~ん、ちょっと違う。我々はMPだが、軍隊だ。圧倒的な火力を持っているのと、持っていない者の差を考えろ。こっちは気にして無くとも、向こうは気にしているモノと思って行動をするのだ」
次に…と、今度はイェディに質問した。
「次に、警邏する際は気さくに声を掛けろ。だが、絶対に金銭の授受をしてはならない、何でか分かるか?」
「えっ…!? 賄賂を受け取るのは悪い事だからですか?」
「違う。それでは答えが浅い。何で賄賂を受け取ってはいけないのかというと『信用を失くす』からだ」
いまいちピンと来ない部下の為に、補足する。
「いいか、ココは我々のホームタウンで、皆んな我々を信用してここに移住してきた。だが、結局外の世界と一緒で、政治腐敗や官憲の横暴がココでも当たり前だと知ったら、皆んな失望するだろう。」
うんうんと頷く3人。
「初めから希望して無ければ生きてもいけるだろうが、一回希望した後の絶望は筆舌に尽くしがたい。信用を失った後の我々に対する不信感は、以前の比ではないという事を忘れるな!」
「はい!」
「信用の構築によって、この町は成り立つんだという事を肝に銘じておけ!」
「はい!」
「金額の過多ではない、それをした瞬間、追い出されるのはこの部隊全部だという事を覚悟せよ!」
「はい!」
「無論、賄賂の事実が露見した際は厳罰を以て処す! それを踏まえて、にこやかに警邏巡回を開始せよ!」
「…え、えええぇぇぇ~!」
ぎこちなく、町へと繰り出す3人。勿論、武器の類は持たせていない。武器は諸刃の刃で、奪われる可能性もあるからだ。凶悪犯の事件でもない限りは持ち出し禁止とした。
学校の方に足を向けると、校舎で子供相手に数学を教えるドブロクが見えた。
子供と対話形式で問題を解き進めており、なかなか教え方が上手い。年齢が近いというのもメリットなのかもしれない。
「あんれ、やんだ! ノラ特務曹長ったら、そんなトコで覗き見なんて…恥ずかしいだべさ!」
子供と一緒にケラケラ笑うドブロクを見て、何だか陽なたに居る気分になった。
「ドブロク。お前先生が似合うから、兵役が終わったら教職の免許取れよ。オレも推薦するよ」
「オラが先生!?」
スゴクびっくりするドブロク。
「…ま、まだ先の事なんて考えられねえだ。せ…戦争では何があるか分からねえもん……」
悲しげに下を向くドブロクに、何か申し訳なくなってしまい、うろたえてしまう俺をこども達が囃し立てた。
「いーけないんだー、いけないんだー! セーンセに言ってやろ~!」
「ていうか先生が泣いてるし! やーいノラ・シアンのいじめっ子~!」
「い…いや…そういう夢を持っていても良いじゃないの! いつかの時の為に! 心構えはしておけよ!」
なんだか捨て台詞の様な感じで、去り際に怒鳴りつつ逃げ出す始末。
……そういや、とノラは思う。「オレはこの戦争が終わったら、何をしようか……」
道沿いを歩いていると、いろんな人に声を掛けられる。その一人一人がこの町の住民なのだ、と必死で愛想を振りまき、顔と名前を覚える。
そうこうしていると、町の入り口で鉄鋼を積んだトラックに、書類を振り回すデカの姿が見えた。
そうそう。ユピタルではコンクリほど割安ではないが、鉄も生産されている。あとはアルミも。
「ああクソッ!! そんなデカいトラック入らないって言ってるだろ!」
「でもこの奥の海岸線に運べって話ですもん!」
トラックの運ちゃんが運びたいのはどうやら一番奥の海岸沿い。どうやらカイセリ―隊のトラックの様だ。
だがご覧の通り、無計画に家が建ったものだから大通りは狭く、また舗装も至らないので、地盤沈下の可能性すらある。
すると、ラバニ師がちょこんと現れ、体に似合わない大声で吠えた。
「若い衆、出番だあ!!」
すると、ワラワラと屈強の男が数百人姿を見せたかと思うか、掛け声と共に鋼鉄を担ぎ出したではないか。
「じ、人力!?」
「どうじゃ、人間も捨てたモンじゃないだろ?」
……いや、ドン・ボルゾックにお願いして、飛行船で海側に運んでもらおうかと言いかけたんだが、ここでいうのは無粋なので、謎の笑顔を浮かべるノラ。
「チキショーメ、強襲揚陸艦で海側から運べばいいのに」
書類で己が頭をポンポン叩くデカの呟きが聞こえて、やっぱり自分の考え方は合理的だったと内心ガッツポーズする。
「そういや隊長、なんか用ですか?」
やっとこっちに気付いたデカが背筋を糺した。
「あ、ああ。新兵の補充をお願いしたいんだ。枠は8名。今居るのが6名だから……」
「了解しやした。じゃああと2名、見繕っておきます。もうクルックベシの様な古参は無理ですからね、誰か昇進させておいて下せえ」
うむと頷き、駐屯地のオフィスに戻りがてら、うっすらとクルックベシ伍長の事に想いを参じる。結局、こうして時が全てを押し流していくんだな……
今度入る奴らもいつかは忘れてしまうんだろうか?
それとも今度は自分がそうなるのか……
『…部下の命を預かる気分というのはどうだ? 少しは私の気持ちが理解出来たかね?』
扇子男が脳裏にちらつく。とても認めたくはないが、アイツのいう事も少し分かりかけて来た。一時の感情で右往左往するべきではない、というのは今では分かる。だが、アイツほど事務的にもなれない。自分が望むべき道、落とし所を見出さねば……
ノラ・シアンの悩む道は、未だ先が見通せない。
あああ~またやってしまった……半日遅れの配信になってしまい、申し訳ないです。上の文章で信用がとか言ってるのに、当の自分が守れないというね…




