イズミル再建③
「タバコタバコタバコ!」
「チャパティチャパティチャパティ!」
…驚いた。
バラックを確認した次の日にはもう、バザールが誕生していた。
老若男女問わず(…とはいえ少年が殆どだが)、色んな人々が活気良く売り物の声を上げている。人混みも下町の煮込み鍋の如く、ごった返している。
一枚、チャパティを買ってみた。チャパティは小麦粉を捏ねて自然発酵させたのを鍋で焼く質素な主食だ。
パリッとしていながらシンナリした味わいが、素朴ながらしっかり作られている事を示していた。
これでチャイもあればいいんだが、流石に茶葉はこの星ではまだまだ高価な品物なので、ソーダ水で流し込む。
道端で食べている間にも忙しなく、小さいながらもトラックを持っている連中が、俄か運送業を創めてピストン輸送している。
何を運んでいるのかというと、セメントだ。
この惑星、エウロパには2つだけ豊富な資源がある。
それがメタンガスと、セメントだった。
元々大気の薄かったエウロパをテラフォーミングして、大量の水分を電気分解し酸素の発生、更に水素からメタンを反応組成させることによって温室効果を得、藻類を繁茂させることで土と酸素を作り出したと聞くが、それでもテラフォーミングし損ねたメタンハイドレードが鉱山となって所々にあり、そこからの天然ガス資源で、光熱費はほぼ無料で賄えているのだ。
それとセメント。モルタルともいうこの物質は、前述のテラフォーミングの中で生まれた産物だ。
ここいらの紅土を焼き固めると、綺麗で軽いレンガ状になる。だから…昨日までバラックというか、掘っ立て小屋ばかりだった景色が一変し、粗末ながら一応「町」と呼べるものが出来上がっていたのだ。
「どうだい、人間ってのは自由な方が面白い町を作るだろ?」
したり顔しながらラバニ師が、駐屯地の門前でポカンとしているノラに向けて声を掛けた。
「…いや、でも道が……」
そうなのだ。皆が勝手に土地を主張して塀を建てたから、幹線道路にはみ出しまくり、基本設計では戦闘車両も通れる筈だったのに、人が行き来するのがやっとの幅になってしまっている。しかも真っ直ぐじゃ無く、ガタガタだ。
「まあ良いじゃねえか。それ用の仕事も出来てるんだし」
良く見れば、人力車が往来を疾走している。更にユピタルで開発された生き物「2足ロバ」が荷車を引いたりなんかもしている。
きっと、これを見たら市街設計をしたドブロク発狂するんじゃないか…そんな嫌な予感がよぎる。
そこでやっと活気がある理由が閃く。
「…そうか、流通か!」
「そうさ、どこに何が必要か、誰が必要か、いつ必要か。迅速に運ぶ流通システムがあればこそ短期間でここまで成ったのさ。それに……」
ここで初めてラバニ師がその噛み潰した様な顔をクシャっと歪めて、笑ってみせた。
「揃わぬ物など無い!…のがバタヤの信条じゃからなあ!」
訊けばあと数日のうちに、市内に網羅するバス交通網も完成するとある。
「し、しかし…これ以上はキャパシティが……!」
「なあに、2階3階を増築するまでよ。何より、ここは税金がかからんものな」
…ん? いや待て。いくらなんでも、税金無しで駐屯地維持は不可能だ。
どういう契約で人を集めたのか…デカとドブロクを問いたださねばならない。
呵々大笑するラバニ師を背に、ノラは一目散に宿舎へと走り出した。




