イズミル再建②
『御救い米』
朽ちかけた板の看板にそう書いてある。予算の殆どは食品購入代に消えてしまった。つまり、炊き出しである。
寒冷なユピタルにあって、ガルガンティンは潮の流れのためかわりかし暖かく、よって農耕に適している。
とはいえ、武器弾薬から食品に至るまで殆どを地球に頼り切っているのが現在である。人口の殆どは戦争従事者か予備であると言っても過言ではない。
つまるところユピタルは、戦争以外に仕事の選択肢が無い。
昔は違ったと兄ちゃんが言っていたのを思い出す。ユピタルの最初期にはテラフォーミングが成功し、多くの植物プランテーションが咲き誇り、「花の惑星」とまで言われていたらしい。だがその花も多くはケシの花になってしまった。麻薬が蔓延し、戦争で荒廃し、人の心も荒んでしまった。
だからこそ…だからこそもう一度、真っ当な職業、真っ当な村が作りたかった。
「「隊長、焦ってもしょうがねえですだ。ドブロクさんのやり方は良いと思いやすゼ?」」
ボンヤリ鍋をかき混ぜていたのを不憫に思ったのか、ドクズ&セキズ兄弟がステレオで励ましてくれた。
「…人が来ても、何も無いんだけどねー……」
「隊長、そんな事はねえですだよ。人が増えれば可能性だって増えるってもんだべ」
「いま、デカ軍曹が地元の顔役のラバニ師と折衝してるみてえですから、きっと良い様に転がっていきまさあ」
セキズとドクズが継いで返してきた。
「ラバニ師……か」
その時、ゾロゾロと人の群れがこっちに来るのが見えた。なんたって何も無いんだから遠くまでよく見渡せる。
何百人…いや千人を超えるであろうか、その先頭に立つ、才槌頭をターバンで覆った顎クシャジジイこそ、ラバニ師であった。
「ふん、カッファレンギーのダメ息子が偉くなろうとはな…ココは大丈夫なんじゃろな?」
鼻を鳴らす爺ぃ。実は全国を放浪している時に、ガルガンティン市でお世話してもらっていたのがこの爺ぃだったのだ。彼はガルガンティンのバタヤの元締めだ。
バタヤというのは、簡単に言えば廃品回収をして、リサイクルできるモノを再利用や再生する事を生業とする業者である。
ただ、ユピタル市民は生活必需品の殆どを地球に頼り切っているくせに、廃品業者には侮蔑の目で差別的に当たる。自分達の惨めさを、現実を直視したくないからだろう。
ということで、彼等も被差別部落民の一つである。
そんな中で統率を執っているのがラバニ師である…んだけど、いつまで経ってもこの爺ぃには半人前に見えるらしく、鼻たれ小僧の扱いなのがどうにもツラい。
「まあまあ、ジジイ…じゃなくて、ラバニ師。先ずは腹ごしらえをして下さいよ!」
ウッカリ「ジジィ」と言いかけて、目を白黒させながら駐屯地内の大テントへと誘う。
「ほ。随分奮発したの!」
肉やら酒やら、とにかく予算ギリギリまでドブロクが頑張ったお蔭だ。
「…ところで、本当にいいんじゃな?」
急にギロリとこっちを睨むジジイ。
実はこの埋立地に誘致するにあたり、一つ条件を出していた。「予算は出さない。ただし、好きな所を自分の土地にして良い」というものである。
「も、もちろん!」
「…ワシ等はかつて“イズミル”という街に定住していた。だが……」
そこで目線を落とす爺ぃ。皺が深く影を作る。
「アトゥンの火によって壊滅の憂き目に遭った。だからこそ、望郷の念が強い。わかるかの?」
「……ああ」
望郷の念なら、ノラだって負けていない。ただしノラの場合、想像の安住の地なのだ…が。
「でも本当に大丈夫? 家を作る予算なんか無いぜ?」
そこで初めてラバニ師が笑った。
「馬鹿者。ワシ等を誰だと思っているのか? バタヤを舐めるなよ」
その日の宴会の後に、名簿を見せてもらったら約300世帯、1200人程が移住希望の様だ。
そして次の日、埋立地を見て驚いた。
既に所狭しとたくさんの家が建っていたのだ!……もっともバラック小屋だが。
すみません、投稿したと思ってたんですが…ちゃんと最後まで確認しないといけませんね。




