トゥーランドット電撃戦⑫
26日、午前4時36分。
「ドブロク、撮れーッ!」
「は、はひっ!」
カシャリ。
ウスキュダル王国が敵のガルガンティン司令本部にその旗を立てるよりも5分早く、我らがD分隊の旗が、ゲリポル高地に靡いた。
奇しくも、昔々…地球で行われたとか噂に聞く「イオージマの戦い」とそっくりの構造になっていたのは、戦争あるあるなのか、神々のいたずらなのだろうか?
(※これは後に、パンジール・ウルケーとウスキュダル王国間で、領土問題に発展した時の大きな証拠となった)
わざわざガルガンティン司令部を背景にして、未だウスキュダルの旗が立っていない事を明確に指示させた。この発案はクルックベシ伍長。流石というか、抜け目がない。
敵は撤退したとはいえ、未だ散発的に銃弾が此方を狙っている。
なので、撮影した後に急いで土塁へと戻った。撮影をしたドブロクは早くも半泣きだ。
そして残存兵が居るであろう方向に向かって、激しい銃撃で崩れた土塁を組み直す。
簡単な話、敵兵の骸を積み上げるのだ。
溢れる死臭が吐き気と共に倫理観を麻痺させる。今は未だ新鮮な、血の臭いだからイイ。これから日中になればなるほど腐乱して、鼻がこれでもかと云うほどヒン曲がるはずだ。
それでも死体こそが一番銃弾を止めてくれる、ありがたい嚢なのだ。
…どれだけ時間が経ったであろうか。
中央司令部にもウスキュダルの旗が煌めき、銃声もいつの間にか止んでいた。辺りは強襲揚陸艦が飛んでいる。多分…というかおそらくパンジール・ウルケーの艦なのだが、いかんせん十何日前にはヴ帝国艦隊の代物だったわけで、馴染みが無いせいか心易くはない。
きっとウスキュダルの艦も出ているのだろう。
「…戦は終わったダスか……」
緊張感の糸が途切れたのか、深いため息を吐いてイェディが何の気なしに立ち上がった。
新兵達がよくやってしまう所作である。だが、脳で知ってはいても、反射的に行動が伴わなかった。
「馬鹿野郎!」
その隙を縫ってクルックベシがイェディを突き飛ばす……のと、銃声が一緒だった。
「ご、伍長!?」
胸に黒々とした穴がいつの間にか開通し、口から血を吐きながらも、我らが伍長が怒鳴った。
「…だ、まだ…左右のトーチカが生きている! 油断すんじゃねえ!」
つまり、向こうもコチラと同じく弾数が少なくなったので撃たなかっただけなのか。
「い、いいか…死んでも頭は出すな!」
「は、ハイ!!」
新兵達が泣きじゃくりながら無闇に銃を撃とうとするのを押し留める、クルックベシ。
命を懸けたボケなんだろうが…笑えないよ!
「残弾数……ちゃんと数えろ……」
そうか、残弾数を数えるのには、気持ちを落ち着け、冷静にさせる作用もあったのか。
「ハイ! 1! 2! 3! 4!」
そうして。
そうしてクルックベシ伍長が崩れ落ちた。
新兵達が振り返ろうとするのをデカが怒鳴って傾注させる。
「チキショーメ! 敵から目を離すんじゃねえ!」
デカの目も心なしか、真っ赤である。
「ハ、ハイッ!」
ノラは…目や鼻からから溢れる水を押し留める事もせず、震える手でクルックベシの血まみれの掌を握っていた。
掠れる様に、絞り出すように、クルックベシが呟く。
「ノラ曹長泣くな……オメエは良い判断をした…オレに運が無かっただけさ……」
溢れる水のせいで、咽喉が震えて言葉が出ない。小刻みに首を振る。何のイヤイヤか。
「…いいか、リーダーはそんな顔すんじゃねえ…きっちり前を見据えな……」
そうして力尽きた。
きっちり一時間後、縦横無尽に駆け巡っていたサカール・アダム率いるカイセリー隊によって敵軍は完全に無力化した。
同盟国となるウスキュダル王国の参戦。
強襲揚陸艦アララトの吶喊精神。
カイセリー隊の縦横無尽の活躍。
それらを差し置いても戦功著しいとして、ノラ・シアンは即日の内に特務曹長に昇進、更に新設されたゲリポル月光勲章の栄えある第一号となった。
(※尤もこれは後に辞退して、クルックベシ曹長(戦死の為、二階級特進)の遺族に譲られている
ノラ分隊、死者一名。
階級の星が増えるごとに部下が減る―そんな恐怖を今更味わっていた。
ココから少し休憩頂きます。
1章書けたら連続して出す様なスタイルにしていきたいと思ってます。ひと月かふた月ほど猶予見て頂けましたら幸いです。




