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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
28/135

トゥーランドット電撃戦⑧


 雷鳴。


 いや、違う。

 砲弾の着弾の爆音が連続で鳴りやまないのが、あたかも雷鳴の如く聞こえるのだ。

 フネから転げ落ちて未だ一分も経っていないと思うが、既にヘルメットが流れ弾にぶち当たって持っていかれてしまった。無いよりかはマシなので、肩止めに捻じ込んでいた制式の緑のベレー帽をかぶり直す。

 まだ日の出前。暗くて状況が良く攫めないが、敵の砲撃の死線である壕の中に転げ込んだらしい。

 その時、グイッと肩を掴まれた。掴んだ主はクルックベシ伍長。なんか叫んでいるが、爆音が凄すぎて一切分からない。

 すると肩を掴まれたまま、壕から飛び出て鉄条網の前まで走らされる…というより挽きづられる。

 慌てて付いてきたドブロクへと、寝そべりながらサインで鉄条網をスパナで切る様に合図する。

 鉄条網が千切れると、さっきから執拗にこちらへ銃撃している土塁へと一目散に駆け出した。

 弾幕で圧倒しつつ手榴弾をブン投げると同時に、土塁が衝撃と煙に塗れ、人間が3人ほど吹っ飛んだ。

 こちらを狙う銃撃が無くなったので、幾分か音が聞き分けられる程度には静寂が戻った。

 「分隊長! 兵隊ってのはカシラが真っ先に飛び込まなけりゃ、いつまで経っても突撃しねえもんでさあ!」

 「そ、そうなのか…わ、分かったよ」

 なんで肩掴まれて引き吊り出されたのかやっと分かった。仕方ねえな…という舌打ち一つして、着剣の指示を出す様促した。

 「着剣!」

 銃の先にスンギュ(銃剣)を着けるのを見定めた伍長が怒鳴る。

 「遅ぇ! 敵地の真ん中でもたもたしてるとすぐに死ぬぞ!」

 そして凄味のある笑顔で一同を見渡した。

 「へへへ…行くぞ、チキショーメ……目標は左手のゲリポル高地に散逸している敵の土塁!」

 鬼の伍長の目がノラ・シアンに何かを促しているのを察し、アタリの爆音に負けないよう、大声を上げた。

 「…チャージ!」

 腹の底から絞り声を出してD分隊が駆け出した。

 一人だけ機関銃を持ったデカ軍曹が先頭を行き、制圧射撃で相手を沈黙させ、その隙にクルックベシ伍長が手榴弾を次々に投げ入れて土塁を吹き飛ばしていく。突発的に出て来た敵兵をイェディやセキズ、ドクズ達が銃撃で斃していく。歩速は一切緩めない。幸いにして未だスンギュ(銃剣)の活躍は無い。

 まさに疾風怒濤。

 だが、ゲリポル高地に至る最後の地点にトーチカを見つけるや、早速ソイツ等が重機関銃で弾幕を張ってきた。

 素早く、敵の土塁だったものの陰に隠れるD分隊。

 「へへへ…やっこさんを抜くのは至難の業ですなあ!」

 チキショーメ、と笑うクルックベシの表情には今までと違って余裕が無い。

 …それにしても、デカもそうだったが「チキショーメ」というのは下士官で流行ってるのか? 思わずコッチも言ってしまいそうになる悪魔の口癖だ。 

 経験豊富な伍長の浮かない顔は、部隊全体へ伝播し、全員に動揺が広がる。ちょっとでも顔を出そうものなら、トーチカからの容赦無い銃撃の雨嵐。味方もどこにいるのやら見当も付かない。なかなか詰んだ状態だ。

 「…機甲部隊の応援を要請しましょうぜ」

 デカ軍曹がそう言ってドブロクを呼び寄せようとした時、何かに躓いた。

 「おっと! 分隊長、よく見りゃ既にウチの軍の戦車がやられてるじゃねえですかい」

 どうやらデカが躓いたのは上半分吹き飛ばされて黒焦げとなった友軍の戦車の履帯だった様だ。


 その時、ノラ・シアンに悪魔的閃きが思い浮かんだ。


 「おい、デカ! 履帯を外すんだ! 使えるぞ!」

 

次回、のらくろファンには堪らない伝説のシーンの再現です。

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