トゥーランドット電撃戦⑥
26日。深夜0時。
ノラ・シアン率いるD分隊は長い列に並んで、弾薬の配当を受け取り、ヘルメットを被って、お互いの兵装チェックを済ませ、大きな口を開けた巨大な揚陸艦へと自ら呑みこまれていった。
揚陸艦の名前は「アララト」。元々はマルマラ海戦で拿捕したヴ帝国のヴァン・ダイン級大型揚陸艦を改装したものである。
地球型テレビのリモコン……コレが一番端的に表現していると思う。羽は無く平べったく、胴長の全容でやや後方の下からタラップが開閉し、部隊や戦車などを展開する。
敵の攻撃にも耐えれるよう艦の下方には何重にも装甲版が覆い巡らされ、少々不格好ではある。兵装は下方には全く無い。これは低空での侵透飛行ドクトリンを採用しているからだ。
対空砲は装備しているが、艦砲射撃は他のタイプの軍艦に任せて、強襲揚陸に特化しているのが特徴である。
兎に角、打たれ強いけど、鈍重。つまるところそういうものである。
目標は港湾都市ガルガンティン。
敵は新興宗教アトゥンの火。そもそもガルガンティン市街の中心に強襲揚陸すれば話は早そうなもんであるが、敵もそれくらいは対策済みで対空ロケット等を配備しているとの事。流石の揚陸艦といえども、ロケット弾の攻撃には耐えられない。
なのでガルガンティン海岸沿いでの強襲揚陸作戦となるが、それでも向こうの防衛線は厳重らしい。
「アララト」を含め、3隻の大型揚陸艦を率いる司令官はドン・ボルゾック中将。艦隊名はスカルパント隊。アララトの艦長はデイル少佐。
「いよーぉ、カーラマン(英雄)。アンタがこの船に乗り込むなんてツイてるぜ!」
ボンヤリ考え事をしていたらいきなり背中をバンバン叩かれた。驚いて振り向くと、ヒョロッとして口髭を蓄えた、ギョロッとした目の優男が立っていた。
「……? ど、どちら様?」
「オレッチかい? オレッチの名前はサカール・アダム中尉。‟機械化龍騎兵”カイセリー隊の隊長だ。以後お見知りおきを」
ウィンク。そしてがっちりと握手。
「あ、ああ……カイセリー隊の……こちらこそよろしくお願いします」
カイセリー隊? 聞いた事無い名前だが、流石にそれを口にするのはマズいと思って言葉を飲み込む。
「へへへ…聞いた事無いって顔してんな。あたぼうよ、カイセリー隊は今回発足したばかりだからな。初陣が英雄の居る場所でラッキー!…てな感じで挨拶したんだよ、ひゃっは~!」
屈託なく笑うカサール中尉の雰囲気は今までに無いタイプで、気持ちがリラックスできた。
「互いに生きてまた会いましょうぜ!」
「ああ、勿論だぜ。カーラマン。アンタん所はどっちに行くんだ?」
「はい、左のゲリポル高地です」
「よし、オレ等の所は装甲車や高機動戦車が主体のチームだ。オレッチ達は中央突破の任務だが、ピンチの様なら連絡してくれ。直ぐに助けに行くぜ!」
「あ、ありがとうございます!」
なぁに、相見互いよ!
…そう言ってカサール中尉はガヤつく人ごみの奥の方へと消えていった。
と、タラップの油圧シリンダーが音を立てて口が閉まっていく。そうして闇が深くなっていく。
最後の光で腕時計を確認、午前1時。定刻通り、作戦が開始された。




