トゥーランドット電撃戦④
「いいかぁ、弾は貴重なんだ! 残弾数は必ず口頭で数えろぉ!」
「1! 2! 3! 4!」
クルックベシ伍長の怒号響き渡る演習壕で、黒い服を着た新兵達が泣きっ面で残弾数を数えている。
それを窓越しに見ながら入隊リストを眺めた。
イェディ(17)。部落出身、定職に就く事が出来ず、ごみ回収業をしていた。
セキズ・ドクズ(15)兄弟。双子。幼少期に両親が他界。親戚も無く、乞食をしながら生き延びていた。
「…本当に大丈夫なのか、この人選?」
己が年齢の事など棚に上げて、内心、若すぎないかと思った。
「何を今更……それにクルックベシは歴戦の戦士で、『ムスタファ・ケマル』一等勲章を貰ってる身ですぜ。きっと何らかの基準があるんでしょう」
鼻をほじりながらデカ軍曹が受け答えする。
ドブロクが淹れてくれた安っぽい紅茶を飲みながら、ノラ・シアンはふと、クルックベシの経歴を知らなかった事に気付いた。
「『ムスタファ・ケマル』勲章って、スゴイじゃないか。一体どんな人なんだい? クルックベシって」
おや、言ってませんでしたか…? とばかりに眉を上げてから、同じくドブロクの淹れた紅茶を飲み干し、ニヤリと笑って…話し始めた。
クルックベシ伍長。通称:「ハヤッタ・オルマック(生きている)=クルックベシ」。どんな戦でも果敢に先頭切って突撃し、必ず生きて帰ってくるから名付けられた二つ名。
だが…それと引き換えに彼の所属している部隊の殆どが戦死する。だからもう一つの通り名が……「オリュム・タンリシ(死神)=クルックベシ」。
彼の突撃が無謀なのか、上意下達の呼吸が合っていないのか、特に指揮官はほぼ確実に戦死している……
だから誰も怖くて彼を招集しようとしなくなったので、任期満了して退役した後は、貧民街で薬莢作りの内職をして生きているのだという。
「……って、オイ!」
色々聞き捨てならない内容がてんこ盛りじゃないか!!
怒鳴ろうとしたが、いたずらっ子の様な笑みを浮かべるデカの顔を見て、考えを改めた。
確かにこいつらは劇薬だ。だが、毒を喰らわば皿まで……どこのバランスが崩れても、このチームは瓦解する。そして、これだけのハイリスクを冒さなければ、あのクソ参謀の意地悪を乗り越える事は出来ない。
思えばデカはこのピンチをどこか楽しんでいる。自分も、もっとタフガイにならなければ…そう思った。
そういう心の機微を察したのか、煙草を吸い始めたデカの口元が緩んだ。
作戦決行日まであと、5日。
「紅茶、もう一杯どですかい?」
ドブロクが微笑みながら尋ねて来たが、要らないというジェスチャーでマグカップの口を掌で抑えた。……ウチの所帯は貧乏なので、紅茶の出がらし…というより色の着いたお湯でしかないので、お腹がタプタプになってしまう。
いつか、この貧乏から逃れる事は出来るのだろうか?




